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第6話
「だから、サンタクロースだと?」
箕田が必死に隠しているであろうその秘密を、今日出会って一日かそこらの自分が露見させてはいけないと思い、宗谷は素知らぬふうを装う。
「うん。それ以外にも、この時期になると、パパの部屋の奥に、大量のプレゼントが置いてあるんだ」
「へえ、そう……なんだ」
それを聞いた宗谷の方が、本当に箕田って本物のサンタクロースなの、と問いかけてしまいそうになった。
部屋の奥にプレゼントって、そんな物理的な方法で保管しているのか……。
「何か、それ以外に潤くんは心当たりがあるの? その、お父さんが……サンタクロースだって」
言っている自分の言葉に違和感がかなりあるが、やはりそこは純粋な子供の方が受け入れは早いらしい。潤は確かに一度こくりと頷き、
「パパ、親戚にも、仕事はサンタだって言ってた」
と当たり前のことのように言い放つ。
えっ――仕事がサンタだって、言ったのか……。
言葉を続けられず、呆然と潤を見下ろした。
途端に、この急ごしらえのアルバイト先の雇い主が、親戚から浮いてないかだとか、世間から変人扱いされているんじゃないかとか心配になった宗谷だ。
いやでも、まあ……誰も気にしてないだろ、他人のことなんて。
しかも、自分でサンタだって息子の見ている前で言っているってことは、息子や周りの反応だって、ある程度予期しているだろうから――。
そう考えて、はっとした。
「潤くんは、お父さんの仕事で、近所のお友達から嫌なことを言われたりはしないの?」
潤の外見からまだ就学前だろうが、近所の子供たちとの付き合いはあるだろう。
心配になって質問したが、潤からはなぜ、と言わんばかりの黒い宝石のような澄んだ瞳で見上げられる。
「どうして。みんな、羨ましいって言ってる」
「そ、そうなんだ。そうだよね、パパがサンタさんなんだから。……そ、そのパパから言われているんだけど、お風呂にそろそろ入る時間だから、いまお湯を張ってくるね」
案外子供の方が、この常識を超越する状況でもすんなり受け入れるものなのだろうと思いながら、宗谷は浴室に向かった。
湯舟にお湯を張って、お風呂に入れるよと潤を呼びに行った。
潤は替えの下着を三階から持ってリビングに戻ると、宗谷の手を引く。
「えっどうしたの、潤く……」
「お風呂、入るんだろ?」
「えっ、ああ、うん……」
これではどちらが子供か分からない。潤に引かれて浴室に連れていかれ、
「脱がないの」
となぜか急かされる。
「えっ……ぼ、僕も?」
「いつもパパと一緒だ」
そう言えば、まだ就学前の子供は、親が一緒に入るものか。
合点して服を脱ぎながらも、宗谷の脳裏に一抹の不安がよぎる。
……見知らぬ男の子を裸にした挙句、自分も裸になって浴室で欲望を満たしたと、あとから後ろ指を指されないだろうか……。他人の子だぞ、しかも今日会ったばかりの。
そんな戸惑いもあってもたもたしていると、痺れを切らした潤がズボンを脱がしてきて、宗谷は諦めざるを得なかった。
「望、パパの方が服脱ぐのうまいぞ。これから毎日お風呂に一緒に入るんだろ。特訓しろよな」
望、と名前で呼ばれたことよりも、これから毎日というワードに驚いて聞き返した。
「毎日? 一緒に?」
「違うのか? あ、おまえ、小さいな」
下着もずらされるのと同時に、マセた言葉も浴びせかけられて、宗谷は溜息を吐いた。
あの父親、日頃息子とどんな会話をしてるんだ……?
そんなこともありながら、潤に手を引かれて宗谷は浴室へと向かうことになった。
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