9 / 11

第9話

「これは、夢、か――?」  辺りの景色に見とれるうちに、思わず口をついた。  街は赤や黄色、緑、銀色の光が輝き、米粒ほどの大きさの人が、路地を行き交っている。  街灯や車のヘッドライトやテールランプすら、この街全体のイルミネーションのようだ。  その光景に目を奪われていると、ふいに頬に何かが触れた。ほんのりと温かいその感触のもとを辿れば、箕田が手の甲で宗谷の頬に触れたものだった。 「ほら、僕の手を感じるでしょ。これは、夢じゃない」  そう微笑みを向けてくる彼から、目をそらせなくなった。 「箕田さん、まさか本当に――?」  サンタクロースなのか。  最後までそう言うのが、まだ気恥しかった。 「そう。僕はサンタが仕事だ。さっきも、急いで子供たちにプレゼントを配って、家に戻ってきた」  特にこの時期は忙しいんだと、箕田は困ったような、だが充実感のにじむ表情で言う。そして、 「やっと信じてくれた?」  といたずらでもするかのように、宗谷を覗きこむ。  信じたかと言われても……。  宗谷は返す言葉が見つからなかった。  現にソリは空を走り、そのソリはトナカイに引かれている。潤は父がサンタクロースで、それを裏付ける言動があると言った。  潤が言っていた言葉が、あの無垢な表情とともに思い浮かんだ。 「……それで、プレゼントを買いこんで、部屋の一角に隠しているのか?」  一瞬の沈黙があった。 「なぜそれを?」 「潤――くんが」 「潤が?」 「僕のパパはサンタだと」  それを聞いて目を剥く箕田は、息子が父の仕事を知っているとやはり知らなかったらしい。驚きを隠さずに、 「潤は、僕がサンタだって知ってるのかい?」  と、今さらながら目を丸くしている。 「ええ。箕田さんが、親戚に仕事はサンタだと言っていたと」 「えぇっ」  はっとして箕田は口元を手で覆った。  その箕田の仕草を見れば、おそらく一度や二度ならず、それを周囲に話したことに心当たりがあるのだろう。 「まさか、知っていたなんて」  何度も誰かに伝えているなら、息子の耳に入るのは時間の問題だと思うが。しかしなぜかその想定をしていなかったらしい。 「そうです。それに――」  と言いかけて、潤が箕田に関わるあれこれを、隣の隣の家の田中さんに、わりと包み隠さずに話していることを、伝えた方がいいのか迷った。  その事実を知らずに生活するのとしないのとでは、どちらがいいのだろうか……?  言いかけたその先を続けられないまま宗谷が沈黙していると、 「それに?」  箕田は宗谷に視線を送る。  口を噤む宗谷を見て何かを察したのか、箕田は苦笑いとともに、乾いた声で短く笑った。 「……あの子、きみにいろいろと話したようだね」

ともだちにシェアしよう!