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第9話
「これは、夢、か――?」
辺りの景色に見とれるうちに、思わず口をついた。
街は赤や黄色、緑、銀色の光が輝き、米粒ほどの大きさの人が、路地を行き交っている。
街灯や車のヘッドライトやテールランプすら、この街全体のイルミネーションのようだ。
その光景に目を奪われていると、ふいに頬に何かが触れた。ほんのりと温かいその感触のもとを辿れば、箕田が手の甲で宗谷の頬に触れたものだった。
「ほら、僕の手を感じるでしょ。これは、夢じゃない」
そう微笑みを向けてくる彼から、目をそらせなくなった。
「箕田さん、まさか本当に――?」
サンタクロースなのか。
最後までそう言うのが、まだ気恥しかった。
「そう。僕はサンタが仕事だ。さっきも、急いで子供たちにプレゼントを配って、家に戻ってきた」
特にこの時期は忙しいんだと、箕田は困ったような、だが充実感のにじむ表情で言う。そして、
「やっと信じてくれた?」
といたずらでもするかのように、宗谷を覗きこむ。
信じたかと言われても……。
宗谷は返す言葉が見つからなかった。
現にソリは空を走り、そのソリはトナカイに引かれている。潤は父がサンタクロースで、それを裏付ける言動があると言った。
潤が言っていた言葉が、あの無垢な表情とともに思い浮かんだ。
「……それで、プレゼントを買いこんで、部屋の一角に隠しているのか?」
一瞬の沈黙があった。
「なぜそれを?」
「潤――くんが」
「潤が?」
「僕のパパはサンタだと」
それを聞いて目を剥く箕田は、息子が父の仕事を知っているとやはり知らなかったらしい。驚きを隠さずに、
「潤は、僕がサンタだって知ってるのかい?」
と、今さらながら目を丸くしている。
「ええ。箕田さんが、親戚に仕事はサンタだと言っていたと」
「えぇっ」
はっとして箕田は口元を手で覆った。
その箕田の仕草を見れば、おそらく一度や二度ならず、それを周囲に話したことに心当たりがあるのだろう。
「まさか、知っていたなんて」
何度も誰かに伝えているなら、息子の耳に入るのは時間の問題だと思うが。しかしなぜかその想定をしていなかったらしい。
「そうです。それに――」
と言いかけて、潤が箕田に関わるあれこれを、隣の隣の家の田中さんに、わりと包み隠さずに話していることを、伝えた方がいいのか迷った。
その事実を知らずに生活するのとしないのとでは、どちらがいいのだろうか……?
言いかけたその先を続けられないまま宗谷が沈黙していると、
「それに?」
箕田は宗谷に視線を送る。
口を噤む宗谷を見て何かを察したのか、箕田は苦笑いとともに、乾いた声で短く笑った。
「……あの子、きみにいろいろと話したようだね」
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