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第34話 王子様のやんごとなき事情

 アレックスの指がロイの輪郭をなぞっていって、その動きで何か魔法をかけられたみたいにロイは動けなかった。  アレックスの指が描く輪郭が、それがロイの体なのだと改めて自覚させられて、ロイは自分の足の指先まで意識した。 「魔力でどうやって子どもを作るか、教えてあげる」  アレックスはそう言って、ロイの唇に自分の唇を重ねた。少しの間触れ合って、ゆっくりと離れると、目が合った。アレックスは軽く笑って、ロイの輪郭をなぞる指の動きを再開させた。  寝巻きのボタンを外されて、素肌が外気にさらされたとき、ロイは思わず身震いをした。純粋に、まだ冬の寒さを、感じて鳥肌が立った。 「寒い?」  アレックスはそう言って、ロイの部屋の暖炉に魔石を投げ込んだ。もう寝るだけのつもりだったから、ロイは魔石の力を最小限にしていたのだけれど、アレックスはおおきな魔力を投げ込んで、部屋の温度を上げた。 「プツプツが、可愛いね」  ロイの肌が鳥肌立って、毛穴がしまっているのを、アレックスは面白そうに撫でていく。むしろ、ロイからしたら、その行為にまた鳥肌がたちそうだ。  アレックスの指はロイの肌の上をなぞり、臍の辺りまでおりてきて、そこで止まった。 「ここ」  ゆびがトントンと、ロイの薄い腹を叩いた。  簡単に言えば痩せているだけの、そんなロイの体だ。筋肉もなければ贅肉もついていない。皮膚の下に必要最低限の筋肉と肉があるだけだ。 「ここ?」  ロイは自分の腹を見た。  アレックスの指がロイの臍の下を軽く押した。 「お腹の中でね。魔力を混ぜ合わせるんだ」  そう言って、アレックスの指がロイの腹の上でクルクルと円を描いた。 「混ぜ合わせる?」  ロイは不思議そうにアレックスの指を見た。魔力をお腹の中で混ぜ合わせるとは、どういうことなのだろうか?そもそも、魔力は混ぜられるものなのか? 「そう、お腹の中で、ね」  アレックスの指がまたロイの薄い腹を叩いた。リズムがついているかのように、何度も叩く。その振動が伝わってくるのか、なんだかムズムズしてきた。 「…………」  なんと言ったらいいのかわからなくて、ロイは下からアレックスの様子を伺ってみる。アレックスはなんだか楽しそうにしているので、ロイはどうしていいのか分からずに、アレックスの指を見つめ続けた。 「ここに、私の魔力を入れてもいいかな?」 「へ?なんで?」  突然のことにロイは普通に驚いた。  アレックスには婚約者がいて、でも、そこにいるマイセルとレイヴァーンと仲良くすると言ってくれた。  それで、魔力で子どもを作るのに、お腹の中で魔力を混ぜ合わせると聞いたから、三人の誰かのお腹の中で混ぜ合わせるかと思ったのだけど? 「うん?だって、ね?ロイ、聞いて。私とレイヴァーンは仲良くしたい。ロイの言う通り、二人で半分こしてみたい。全てを分かち合いたい。王の玉座に座るには、国の安泰のために子どもがいることが条件になる。だから、私にも婚約者があてがわれた。血筋だけならマイセルの方が上だけど、隣国の王子だから、そう簡単に子作りは出来ない。クガロア侯爵は、私に子どもを作らせて、義父の立場から摂政にでもなるつもりなのだろう」  アレックスが話してくれたことは、ロイには少し難しかった。 「つまり、ね。私はユースルとの間に子どもを作りたくなどない。私とレイヴァーン、そしてマイセルとの子どもを望んでいるんだよ」 「……うん…それで?」  まだ、ロイには難解だ。 「男同士だと、どちらの腹を使うかで揉める場合もあってね。そんな時に聖女の腹を借りるわけだ。質の良い魔力が豊富にあって、魔力を混ぜ合わせる為の器官も、もちあわせている」  それなら、アーシアの腹を借りればいいのではないだろうか?ロイは素直にそう思ったのだけれど、口に出す前に、アレックスが続きを話し始めた。 「けれど、アーシアは既にそれをしていたんだ。仕方がないよね。平民で、お金を稼ぐ手段としてはこれ以上のものは無いのだから」  それなら、話が早くて助かるのではないだろうか?それとも、王族からはお金をとる事ができないから、アーシアが断ったのだろうか? 「既にアーシアの腹は使われていたから、私の魔力を混ぜ合わせるのに使えないのだよ。万が一、他の誰かの魔力が入ったら、大事だからね」  つまり、新物を使いたいわけだ。  まだ、誰の魔力も注がれていない腹が必要というわけだ。でも、それがなぜロイなのか?ロイの体にはそんな器官はないのだけれど。 「魔力を混ぜ合わせる器の腹は、ね。質の良い魔力を豊富に持っている方がいいんだ。私の知っている人物で、ロイ程の人物はいないんだよ」 「……………………えっ?」  随分と、時間を置いて、ロイはようやく驚いた。  つまり、理解するまでにたっぷりと時間を要したと言うわけだ。 「ロイ、私たちのためにこの腹を貸してくれ」  アレックスの手のひらが、ロイの腹を押してきた。そこはさっきまで指でなぞっていた場所だ。 「ひっ」  さっきまでムズムズしていた感覚が、大きな手のひらに押されたことで、強く反応してしまった。腰がはねて、なにかが出てきそうだった。  ロイは驚いて声を上げてしまったけれど、アレックスはその反応をみて笑っているだけだ。 「ここから」  アレックスがロイの膝の裏に手を回して、ロイの下半身を持ち上げた。ロイの輪郭をなぞるようにアレックスの手のひらが、腹から腰に動いて、そして後ろに回った。  思わず、ロイの喉が鳴った。 「私の魔力を注がせて欲しい。もちろん、酷くはしないよ」  示された場所に、ロイは顔をひきつらせた。男同士だとそこを使うとは、前世の記憶にあることはあった。けれど、聞いたことがあるだけで、実際はどうなるのかなんて知らない。  そもそも、そこは綺麗では無いだろう。大腸の検査の前は、大量の下剤を飲まされる。おそらく、普通なら、下からその手のものを注入されて、お腹の中を綺麗にするのだろう。 「怖がらないで、魔法で綺麗になるし、痛みも無くせるから」  ロイの頭によぎったことは、全て魔法で解決されるようだ。  でも、だからと言って安心出来るわけではない。痛くないからと言って、怪我をしないわけではないのだ。見たことは無いけれど、出すところに入れるなんて、想像力が追いつかない。 「え…ちょっと待って、俺は……」  わかったなんて言ってないし、そうロイは続けたかったのに、アレックスが遮った。しかも、結構絶望的な言葉で。 「お父上であるウォーエント子爵と、お母君でいらしゃるアリアナからは承諾を頂いているよ。もちろん嘘ではない」  そう言って、アレックスは一枚の紙をロイの目の前に出してきた。  そこには、『双子の王子レイヴァーン、アレックスの子を成す為に、我が息子を器としていただくことを承認する』と書かれていた。もちろん、ウォーエント子爵夫婦の連名での署名付きだ。しかも、使われた紙は、公文書に用いる魔石を溶かして梳かれた魔用紙だった。  子爵とはいえ、貴族が魔用紙に署名したのだから、その血が絶えるまで有効である。もちろん、約束が為されればそれなりの報酬はでるし、子どもの出生時の保証人にもなり得るのだ。  つまり、ロイの両親は、王子たちが王位に就く際の保証人になったのだ。  息子を使って…… 「…う、そぉ……」 「ロイ、これはとても大切なことなんだ。政治的なことも絡んでいる。……それに、ロイが私を認めてくれた初めての人だから…」  アレックスの顔が近づいてきて、ロイと唇を重ねてきた。足を持ち上げられているから、ロイとしては体勢がきつい。苦しくて、離れた瞬間に口を大きく開けて息を思いっきり吸い込んだ。 「ロイの力を借りたいと思ったんだよ」  大きく息を吸い込んでいたロイは、その開いた口に今度はアレックスの舌を吸い込んでしまった。

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