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第2話

 俺はそうして半日ほど、再びエドワーズが訪れるのを待っていた。我ながら鍛錬はしてきたので、腹筋は引き締まっていると思うが、難点として俺は腰回りが細い。だが平均してみれば体格は良いし、それなりに筋肉はある。そんな大の男の俺が、下腹部を情けなく晒して、椅子に座っている。正直、羞恥が無いわけではないが、最早ここまでくると諦めの方が強い。椅子のそばにあるテーブルの上のアタッシュケースと用途不明の小瓶をなんとなく眺めながら、俺は何度目になるか分からない溜息を零した。  ギギギと扉の音がして、正面からエドワーズが入ってきたのはその時だった。  俺もエドワーズも黒い髪をしているが、目の色があちらは紫で、俺は緑だ。  身長は同じくらいだが、若干エドワーズの方が背が高い。 「ああ、起きていたのか。起こす手間が省けたな」 「……お前に俺が矯正できるとは思えないが、命を助けてくれたことには礼を言う」 「いや、結構だ。こちらも下心なしに助けたわけでは無いからな」 「え?」 「隣国の王太子では、さすがに迂闊に手出しは出来なかったものでな。メリーベル嬢と利害が一致したまでだ」 「?」  どういう意味なのかいまいち分からないでいると、手袋を嵌めた指で小瓶を手に取ったエドワーズが、チラリと俺を見て、端正な顔で微笑した。俺もどちらかといえば男らしいと言われる顔立ちだが、エドワーズの方も負けず劣らないだろう。 「ところでロイ殿下は、随分と激しく遊んでおられたようだが、男性経験は?」 「……まぁ、俺に抱かれたがる奴は、老若男女を問わなかったからな」 「なるほど。抱かれたことは?」 「あるわけがないだろう。俺は血を後世に残す使命がある王太子だったんだぞ?」  だった。  過去形である。もう今の俺は王太子ではないし、もっというならば、殿下と呼ばれる身分にもない。母国サルヴェリア王国は、もう俺とは無関係だという姿勢を貫いている。 「それもそうだな。ところで、優しいのと激しいのはどちらが好みだ?」 「なんの話だ?」 「まぁ、今後の教育に関してだ」 「……っ、それは……その……――別に好きにしろ」 「そうか。じゃあそうさせてもらう」  俺がなけなしの強がる気持ちでそう言うと、エドワーズがニッと笑った。  テーブルの上のアタッシュケースから、エドワーズが細い棒を取り出す。

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