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十二月二十五日

 十二月二十五日。  もともとはキリストの降誕を祝う日なのだけれど、この国では少し違う。雰囲気の良い店は予約で満員になるし、名の知れたホテルも満室になる。 「浮かれてんなあ……」  高層ビルの屋上から街を眺めていたクルーグは、光り輝くネオンを見つめていた。屋上のフェンスに立って、そのまま身体を前に倒す。 「クルーグ!」  名前を呼ばれて、後ろを振り向いた。足はもう、フェンスから離れている。  ――遅いよ。  ビュンと風がクルーグの長い髪を散らす。勢いよくビルの横を降下してクルーグは笑った。  約束時間に遅れたから、悪いのだ。クルーグは時間どおりに来たというのに。 「おいてくなよ!」 「遅れたお前が悪いんだろ?」  クルーグを追ってきたセシルがばさりと羽を開いた。その横で、クルーグも自慢の羽を大きく開く。真っ黒い羽をばたつかせ、ぐるりとビルの周りを旋回した。 「待てって! 先に食うなよ!」  隣でセシルは先に行こうとしたクルーグに文句を言っているが、心配は無用だ。  キラキラしたネオン、おしゃれな店、高価なプレゼント。街中浮足立っている。  そして男の脳内は、欲で一杯だ。 「食っても食ってもなくなんないって。だって今日は……」  十二月二十五日。  クルーグたちにとっては、欲望を持て余す人間たちの感情を食らう絶好の日。ビュッフェのような状態だ。 「一緒に行こうって約束しただろ?」 「ごめんって」  おいていくつもりはもともとない。ただ、早くいい狩場を見つけたかった。真後ろからセシルに飛びついて、引き寄せる。 「っ……、掴むな! 落ちる!」  羽ごと腕の中に取り込んだら、「飛べないだろ⁉」と睨まれた。 「平気だって。俺が支えてるもん」 「やめろよ……。ほかの奴らも来てるだろ?」  セシルの言うとおり、あちらこちらで仲間が狩場を探している。けれど、誰もクルーグたちのことなんて気にしていないはずだ。 「みんな食事に夢中だって」  笑って、セシルを抱えたまま、狩場を探す。 「でも……、ちょっ、クルーグ!」  セシルの頬に口づけて、手を繋ぐ。  浮足立っているのはクルーグも同じだ。人間たちの欲を腹いっぱい食べたあとは、二人で過ごすと決めている。 「さっさと食って、二人になろうか」 「うん……」  セシルの手を引いて、クルーグはクンと鼻を鳴らした。

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