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3.魔獣狩り②

   翌日は日の出とともに目が覚めた。眠れるか不安だったが意外とぐっすり眠れた。身体の調子もいい。朝飯を食べて森に入る。  魔獣にも色々な種類がいる。だいたいは実際にいる動物に近い。鳥、犬、猫、猿、猪、熊等々。強さも比例している。一番強いのが幻獣だ。幻獣は頭や脚が普通より多かったり、違う動物同士を掛け合わせた姿をしている。魔法攻撃もしてくるらしい。それを素手で倒す猛者もいるというから驚きだ。  森に入って数分で魔獣を発見した。兎の姿をしているが、秋生にもわかる変なオーラを纏っていてすぐに魔獣だと判った。しかしこれには手を出さない。魔獣のランクは女性のランクに直結する。だから妥協できない。自分がいけるギリギリで勝負したい。 「雑魚はスルーだ。せっかく狩ってブスをあてがわれたらやだし!」 「アキオ、そういう事は言わない方がいい」  なんて人間のできた男なんだと秋生は感心した。思い起こせば例え冗談でもマキニヴァが誰かを悪く言ったことがない。何に対してもプラスの面を探して見つける。器が大きいとは彼のような人間を言うのだろう。こんな世界でなければモテモテだっただろうに。秋生は反省した。それにここは狩場だ。もう試練は始まっている。獲物に勘付かれないよう私語は慎まなければ。  それから一時間ほど歩いた。小さな滝の水が落ちているところに鳥型魔獣が舞い下りるのが見えた。翼を広げたら二メートルはありそうだ。よく見ると足が人間の手になっている。発見するのも難しい幻獣型であの大きさ。しかもまだこちらに気付いていない。 「ギャアアアアア!!」  秋生の投擲斧を受けた魔獣が叫ぶ。手応え有りだ。もう一本の斧で、がむしゃらに追い打ちをかけた。 「うおおお!! 死ね! キモい鳥死ね! 俺は結婚したいんだ! ちょいブスでもいいとか言ったけどやっぱり美人嫁がいい! まんこと乳首はピンクがいい!」  無我夢中の秋生に魔獣が放った魔法が直撃した。手足が痺れる。 「ふざけんなよ・・・・・キモいのはテメーの方だろうが、このキモ童貞!! 今日のこと皆に言い触らしてやるからな。二度と狩りができると思うなよ。一生童貞でいろ! くたばれ!!」  そう言って魔獣は飛び去っていった。人語を解するとは聞いていたが口を利くとは思っていなかった秋生は、目と口を開いて固まってしまった。 「大丈夫かアキオ!」 「ま、魔獣が・・・・・俺のこと・・・・・」 「だから注意しただろう!? どうして女の人にあんな事を言ったんだ!」 「おんな・・・・・?」  この世界の女は倒された魔獣が姿を変えたものだ。異世界言語の自動翻訳が「魔獣」「女」という二つの意味を持つ言葉を、文脈に応じて使い分けてくれていたために起きた悲劇だった。  秋生は自分が取り返しのつかない事をしたのに気が付いた。聞こえよがしに暴言を吐いたり、初対面で下ネタをかますなど言語道断である。そういう不埒な男の情報はすぐに森全体に行き渡る。痺れと絶望が全身に回って秋生の意識は遠のいていった。

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