3 / 17

1.タシュアプケの秋生③

 午後になり早番だったマキニヴァが帰ってきた。秋生の手料理で二人は食卓を囲む。マキニヴァは簡単な料理でも喜んでくれて、嬉しいけど心苦しい。食べながら、秋生はいずれこの街を出たいと話した。ここにいたらきっといつか女役にされてしまう。だったら他の、女も暮らしている街に引っ越せばいいのではないかと考えたのだ。 「他の町にもタシュアプケはいるんだよ、アキオ。それに差別もある」  タシュアプケから性的に襲われる危険性に加え、それ以外の者からの差別。具体的には職業や売買、住まう場所の制限。道を歩けば暴言を浴びせられたり殴られたりは当たり前だとか。こんな街ができるだけある。 「この世界に人権はないのかよ・・・!」  少なくともタシュアプケにはない。人権の意味を知ってか知らずか、マキニヴァは残念そうな顔で秋生を見た。一人前の自立した人間になりたいと嘆く秋生に彼は一つの提案をした。 「アキオ、森に行こう。手伝いはできないけど、俺も一緒に行くよ」 「無理だ・・・俺には無理だよ」 「一人前になりたくないのか? やってみないで諦めるのか?」  一人前になるための試練とは森で一人で狩りをすることである。てっきり屈強な男と戦わされると思い込んでいた秋生は、狩りと聞いたとき一筋の光明を見出した気がした。翌日にはマキニヴァの案内で森に入った。何も獲れなかった。秋生に狩りの経験はない。武器の扱いも未経験。 「投げ斧もだいぶ上手くなっただろう」  狩りの後から秋生は投擲斧の練習をしていた。色々ある武器の中で一番習得できそうだったからそれにした。狩り方によって得られる女のランクが変わる。最上位は防具無しのステゴロ。身一つの近接戦だ。投擲や射出武器の使用は褒められた攻略法ではないが背に腹は代えられない。  上達したとは言え、室内で動かない的に当てるだけの投擲斧がどこまで通用するか分からない。そう、わからないのだ。成功する可能性だってゼロではない。何のために斧を投げていた? 少しでも一人前に近付くためだ。だったら挑戦するしかない。秋生は落ち込みっぱなしだった心を奮い立たせた。明るくて前向き。これが本来の秋生だ。 「わかった。森に連れて行ってくれマキニヴァ。俺やってみる。死ぬ気でやってやるよ」

ともだちにシェアしよう!