12 / 17

【続編】1.コンタンノウシ

  「アキオ、ちょっと遠出をしてみないか?」  目的地はタシュアプケから馬車で一日半かかるコンタンノウシという街。馬車はこの世界の一般的な移動手段だ。魔力と馬の力で走る。電動自転車の仕組みに近い。コンタンノウシには既婚者も、つまり女性も暮らしている。マキニヴァがタシュアプケに来る前に住んでいた街でもある。  数日前、マキニヴァは秋生に結婚を申し込んだ。二十一歳の秋生にとって結婚はまだ具体的ではなかった。この世界に飛ばされて初めて意識したが、人権保障への足掛かりとしか考えていなかった。相手が存在しなかったというのも具体性を欠いた要因だ。だがマキニヴァは目の前にいる。いつも秋生を尊重してくれるいい奴。強くて格好いい。秋生の理想の女の子とはかけ離れた大きい男。  マキニヴァとは既に夫婦同然の生活をしている。結婚してもきっと変わらないだろう。いや、差別の対象から外れて今より生活しやすくなるはずだ。それでも秋生はうんと言えなかった。この世界の結婚には神が介在しており離婚は有り得ない。秋生はマキニヴァと添い遂げる自信が持てなかった。さんざん世話になっておいてどうかと思うが、この先死ぬまで自分の気持ちを誤魔化して生きていくのは嫌だ。神様にもそういう気持ちが見抜かれて結婚が認められない気がする。マキニヴァにも失礼だ。  人間ができているマキニヴァはプロポーズを保留にされてもいつも通りに振舞った。未熟な秋生は挙動不審だった。そこで気分転換にと遠出の誘いをしたのだった。タシュアプケと魔獣の森しか知らない秋生はすぐに興味を示した。まだこの世界の女を見たことがない。馬車にも乗ってみたい。二人はコンタンノウシに向けて旅立った。  コンタンノウシはタシュアプケより水が豊富で街の規模は数倍大きかった。日本の都市に比べたら全然大人しいが、活気があって賑わっている。子供もいて、タシュアプケのような悲壮感がない。赤ん坊はかわいいのになぜあんなにごっつい大人になってしまうのか。女の子もいて不思議だった。成長すると魔獣になる? 不気味だ。この世界の女とはいったい・・・・・  大人は既婚者ばかりだ。神に認められた夫婦は顔にタトゥーのような揃いの文様が表れるため、独身とは一目で区別がつく。ガタイがよくて顔にタトゥーなんて、秋生には反社にしか見えなくて恐怖でしかない。  やはり女性も大きかった。平均身長は百八十センチ。骨太で筋肉質。モデルというよりアスリート。しかも言動がガサツでヤンキーぽい。一人だけじゃなく全員がそんな感じ。秋生が好む可愛らしさは微塵もない。苦手な部類の人間だ。もし狩りに成功しても自分には色々と無理だったのでは? と秋生は戦々恐々とした。

ともだちにシェアしよう!