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【続編】2.喧嘩

  「よう、マキニヴァじゃないか」 「ルワシンギ? 懐かしいな」  古い知り合いが声を掛けてきた。ルワシンギはヘビー級の格闘家のような体格で、顔には恐ろし気な既婚の文様。この世界ではありふれた男性。彼の連れの二人の男も似たような感じだ。秋生はとっさにマキニヴァにしがみついて身を守った。 「マキニヴァも遂に狩りをしたか! それにしてもおまえの女はずいぶんちっこいな」 「アキオは男だ」 「ははは! こんな小さくてかわいい顔した男がいるか。ひどい冗談を言う旦那だ。なあ、お嬢さん」 「俺は男です・・・・・」  ルワシンギと連れの男たちが固まった。まじまじと秋生を観察する。すらりとした体つき、細い首、艶のある唇、ぱっちりした目を縁どる長いまつ毛、髭もムダ毛もない滑らかな肌。小動物のようにびくびくしているこれが男? しかし声は確かに男だった。着ている服も男物だ。 「はっ、なんだよ、あんた男色のタシュアプケか。偉そうに道の真ん中を歩きやがって」 「おいおまえこっちに来いよ、本当に男か確かめてやる」  無礼な態度をとってきた連れの二人は、マキニヴァがかけた柔道のような技であっと言う間に地べたに転がされた。二人とも背中を強打してのたうっている。マキニヴァは今までこうして絡んできた奴らを全員返り討ちにしてきた。マキニヴァが去ってからコンタンノウシに移り住んだ彼らは知らなかったが、最強のタシュアプケとして恐れられる有名人だった。  この程度の小競り合いは日常茶飯事なので特に騒ぎにはならなかった。素通りする人の中で幾人かがマキニヴァに気付いて動向を見守ったが、これ以上の展開はないとわかると立ち去った。倒された男たちがよろよろと立ち上がる。謝罪はないがバツが悪そうな顔をして、もう敵意はないのが態度から見て取れた。ルワシンギは顔色一つ変えない。マキニヴァは正当な方法で己の地位を主張したのだ。異論などない。 「相変わらず強いなマキニヴァ。あんたもこいつを怒らせないほうがいいぜ」  ルワシンギの冗談に秋生は顔を引き攣らせた。

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