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【続編】4.圧

   翌日。何事もなかったかのように二人は街はずれの丘に向かった。爽やかな晴天と心地良いそよ風、そして素晴らしい展望を満喫する。近くに湖もあって、ちょっとした観光スポットだ。  秋生は今までのことをマキニヴァに謝りたかった。本当ならもっと感謝して大切にしなければならないマキニヴァにずいぶんひどいセックスをしてきた。ちんこが自分の一番の長所なのに昨日は中折れなんかして。がっかりして、自分への気持ちが変わったんじゃないだろうか。秋生は辺りをうかがって、適度に人がまばらになったときを狙って切り出した。 「話があるんだ、マキニヴァ」 「いやだ! 聞きたくない!」  思いがけない反応に秋生はたじろいだ。いったい何がそうさせたのか知らないが、珍しくマキニヴァが感情を昂らせている。マキニヴァはいい奴で信用してるけど昨日秒殺された男たちが脳裏をよぎる。さっきはちょっと離れていてほしいなと思った他の人たちに、今度は助けてほしくて視線を送った。しかしみんな喧嘩慣れしていて、言い合いだけでは誰一人として見向きもしない。 「俺はアキオが好きだ! その気持ちは誰にも負けない! 俺はもうアキオなしでは生きていけないんだ! だから別れるなんて言わないで!」 「お、落ち着こうマキニヴァ。俺の話しは別れとかそんなんじゃないよ…?」 「あ・・・そう、だったんだ・・・・・? ごめん、取乱して・・・。もしかしてプロポーズの返事を聞かせてくれるの? 俺、期待してもいいのかな・・・」  マキニヴァは落ち着いたようでまだ落ち着いていない。顔が赤くて少し目が潤んでいる。これほどの男が自分のために必死になっていると思うと、秋生はセックス以外で初めてマキニヴァが可愛く見えてきた。 「俺はまだ結婚がよくわからないから、もうちょっと時間がほしい。この世界をもっと知って、ちゃんと準備がしたい。それまで待ってくれる? マキニヴァ」  マキニヴァは跪いて顔の高さを合わせた。神に祈るように秋生を見詰める。 「今までごめんねマキニヴァ。結婚しよう」  ちゅっとキスをして抱き締める。公衆の面前でキスとか、マキニヴァの圧に負けて柄にもない行動をとってしまった。この期に及んで言い訳ばかりの姑息な回答。それでも一応の承諾にマキニヴァは喜びの涙を流した。  周囲の人たちの顔がこっちを向いているような気がするけど、たぶん気がするだけだ。みんなさっきまであんなに無関心だったくせに、ちくしょう。他人なんか気にするもんか。結婚には勢いが大事ってこういう事かも知れない。そう思いながら、秋生はマキニヴァが泣き止むまで頭を撫でて背中をさすった。

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