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第8話

それから、東城は、広瀬に絶対に毎日、自分の家にこいと言ってきかなくなった。 怖いから、と正直にいっていた。俺が一人のときにでたらどうするんだよ、と言う。仕方ないのでずっと東城の予定は関係なく彼の家で泊まっている。 女の幽霊は、出るときと出ないときがあった。害をあたえてくるわけではないようだ。 ただ、夜中にじっとこちらをみられるというのは困る。灯りをつけて寝てみると、ドアやたんすなどの影になったところに出てきていた。余計心臓に悪い。ときどき、家の中でグラスの位置が変わっていたり、灯りが消えたりすることもある。 広瀬にはぼんやりした影だが、東城にはかなりはっきりみえるらしい。 自分で詳しく観察しようとは一切思っていないようだったが、時々目の端に入るようなのだ。 若いきれいめの女だといっていた。もしかすると、山で自殺した女なんじゃないか、と東城は言った。 そのため、広瀬は、東城に見せるための写真を用意してた。帰ったら見せる予定だ。 家には塩をおいたり、近所で買ったお札を貼ったりしているが、もちろん全く効き目はない。 そもそも塩の置き方も、ネット情報で書かれていることは種類がありすぎ、どれが効くのかさっぱりわからなかった。 部屋でちょっとした物音がするだけで、「ラップ音だ」とか「ポルターガイスト」とか東城がいう。子供の頃にテレビで見たというホラー映画の話をこまごまされた。 このままだとノイローゼになりそう、と広瀬は思った。東城が、ではなく、東城が怖がる話をあれこれ聞かされる自分がだ。 そこで、お祓いをしてもらおうという東城の話しに同意したのだ。東城は霊験あらたかな寺を探すといっていた。 広瀬も自分で探していたら、宮田にからかわれたのだ。 その夜帰ろうと外にでると、宮田が走って追いかけてくる。 「昼は悪かったよ。笑ったりして」とあやまってきた。 広瀬は、ちらっと宮田をみて、返事をしなかった。彼は広瀬にぴったりついて歩いてくる。 「なあ、本当にでるのか?」と聞かれる。「お前がそんなこと言い出すってことは本当にでるんだな。どこに出るんだよ」 「東城さんの」と広瀬は答えた。 宮田は、一瞬たじろいだが、すぐに立ち直ってうなずく。「東城さんちに出るのか?幽霊?そりゃ、大変だよな。どんな幽霊なんだよ」 宮田は何か力になれるかも、という。先ほど広瀬がメモっていた寺の一つは、自分の実家の近所だから、連絡したり本当にお祓いできるのかとか調べることもできる、といってくる。誰にも言わないし、迷惑はかけないから、とかなりいいつのってくる。相当幽霊に興味があるのだろう。しつこい。 広瀬は、だんだん無視したりかわすのが面倒になり、あたりさわりのなさそうな話を宮田にかえした。宮田が親切なのは以前からだし、いつも広瀬のことは心配しているようなのは知っている。 「それは」と宮田がいう。「大変だな」同情しているようだ。「その自殺の女がなにか伝えたくてでてきてるんじゃないのか?」 「そうかもしれないけど、話するでもないし」と広瀬は答える。 「うらめしや、ともいわないのか」宮田はいう。「すまない。冗談じゃないよな。なんか力になれると思う。とにかく気をつけたほうがいい。今はなにもしなくても、いつどうなるかわからないからな」 そういわれて、その日は宮田は自分の住む寮に帰っていった。

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