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第10話

夜、仕事を早めに切り上げた後、宮田は、佳代ちゃんと待ち合わせをして東城の家にむかった。途中でビールや軽食、スナックを買い込んでいく。佳代ちゃんが、この幽霊話を面白がって、ずうずうしく東城の家におしかけようといったときには驚いたが、本当に幽霊がいるのだとすると興味はわく。 「こんな高級マンションにすんでるんだ」と佳代ちゃんは東城の住むマンションのエントランスで彼女らしくもなく小さい声でいう。「相当高いでしょ、ここ」 「ああ、多分」宮田はエントランスのインターホンを押す。 東城の声がして名前をつげると鍵をあけてくれた。 東城の家には以前は何度かきたことがある。彼が大井戸署にいたときだ。一緒に飲みに行って酔って帰れなくなり泊めてくれたりしていた。当時東城が付き合っていた女性が部屋で怒りながら彼を待っていたこともあったりして、そのときはかなり居心地が悪い思いをした。 東城が異動してからは来ていない。広瀬が最近ほぼ東城の家からかよっていることはなんとなく知っていた。 玄関の前まで行くとドアがあき東城がたっていた。彼も今戻ってきたばかりのようで、きちんとスーツをきている。 「お邪魔します」と佳代ちゃんは明るくいってあがった。「わあ、広い。何部屋あるんですか?」 「3LDK」と東城はこたえた。「泊まるっていっても客間が一部屋しかないけど、いいの か?」と聞いてくる。 「もちろんですよ。リビングで雑魚寝でもいいと思ってましたから」と佳代ちゃんはいう。 「いや、女性がうちで雑魚寝でなんかあったら困るし」と東城はいう。 あはは、と佳代ちゃんは笑っている。「東城さん、なにいってるんですか」 東城は、宮田に怪訝そうな視線をむけてくる。完全に宮田と佳代ちゃんの間を疑っている目だ。後できっぱり否定しておかなければ、と宮田は思った。佳代ちゃんは宮田には高嶺の花だ。美人で明るくて、最近では、ITベンチャーの取締役かなんかが彼氏でいるらしいのだ。 買ってきたビールを冷蔵庫にいれようとあけると、フードコンテナや料理の入った器がいっぱいならんでいた。 「すごい。これ、全部つくってるんですか?」と佳代ちゃんが感嘆の声をあげている。冷凍庫や野菜室も勝手にあけて、中につまっている料理をみて感心している。「広瀬くんが作ってるんですか?」 「あいつはそんなことしない」と東城は答えた。「お手伝いさんがきて作ってくれてるんだ。適当にあけて食べるといい」 宮田と佳代ちゃんで買ってきた食べ物をダイニングテーブルにひろげる。 東城はその間に着替えてきた。 「佳代ちゃんの友達の霊感の強い子はどうしたんだ?」 「彼女は今日遅いらしくって、10時過ぎになるっていってました。彼女、会社員してるんですけど、この分野では有名なんですよ。本当に困ってるところにいって、幽霊と話をしてでなくしてるんです。もう何十回もしています」 佳代ちゃんはいくつか事例をあげた。そういいながら部屋の中を見回す。「でも、このうち、いそうもないですね。そんな雰囲気ない」と言った。 「佳代ちゃんも霊感あるの?」と宮田がきく。 「全然ないの」と佳代ちゃんは即答する。「若い女性の幽霊なんですよね。正体はわかったんですか?」 「多分、広瀬が情報集めに行った自殺した女性だ」と東城がこたえた。「写真みたらよく似てたから」 「やっぱり、何か伝えにきてるんですかね」と宮田がいう。「本当は自殺じゃなくって、他殺だから調べてほしいとか」 「だったら、もっと前に所轄にでるべきだろう」と東城はいった。そんな理詰めでいっても通じるわけはないのだが。「なんで、俺んちにでるんだよ。だいたい、管轄も違うしもう自殺ですんだ事案、どうしろっていうんだ。遺体だって荼毘にふされてもうないし。殺人だったら殺した奴のとこにでてほしいよ」迷惑きわまりないと東城はいう。 「確かにそうですよね。まあ、幽霊には所轄も警察の事情も知ったことではないですけどね」と宮田が答えると東城はいやそうな顔をした。 ビールをあけていると広瀬が帰ってきた。彼は、無表情でダイニングの入り口に立ち、3人が騒がしくご飯を食べているのを見ていた。

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