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第11話
「あ、おかえり、広瀬くん。お邪魔してます」と佳代ちゃんがいった。
広瀬は佳代ちゃんに「こんばんは」とあいさつした。先ほどまで同じ職場にいた宮田にまで「こんばんは」とあいさつしてくる。そして、奥の部屋に入っていった。
自分の生活エリアに誰かが入ってくることには慣れないのだろう。緊張してぎくしゃくしている感じだった。
東城が立ち上がって、後を追うように奥の部屋に入っていった。
「普通にこのうちに帰ってきてるのね、広瀬くん」と佳代ちゃんは感心して宮田に言った。
「いいなあ、恋人と一緒に暮らすなんて楽しそう。東城さん大事にしているし」と言った。
「しかも、こんな豪華なマンションでお手伝いさんつき」佳代ちゃんにとってはそれが一番うらやましい点なのだろう。
佳代ちゃんだって望めばこんな生活すぐに手に入るだろうに、と宮田は思った。一流の恋人も贅沢な暮らしも。
しばらくすると広瀬も部屋着に着替えてでてくる。東城は、彼のために水割りをつくってわたした。広瀬は冷蔵庫をあけて、2つほどフードコンテナをだし、皿にだしてくる。
「わあ」と佳代ちゃんが声をあげた。「おいしそう。食べてもいい?」と広瀬に聞く。広瀬はもちろん、といって、取り分ける皿をだしてくる。
「他には何があるの?」
広瀬はちょっと首をかしげ、冷蔵庫をあけて、いくつかふたをあけて佳代ちゃんに伝えた。
「食べたいものがあったらどうぞ」と東城がいう。
「いいんですか?こういうちょっと手の込んだ家庭料理ってなかなか食べられないんですよね」佳代ちゃんは遠慮なくいくつかリクエストした。
食事が終わると、リビングにビールやつまみと一緒に移動する。
佳代ちゃんの友人の霊能力者を待ちながら、ビールがすすむとだんだん幽霊のことより普通の飲み会のようになる。
「冷蔵庫に入ってたビール飲んでもいいですか?」と佳代ちゃんが東城に聞く。「買ってきたの終わっちゃったので」
立ち上がろうとする佳代ちゃんを制して、東城が冷蔵庫からとってくる。「どうぞ」ビールを佳代ちゃんに渡した。「宮田、足りなくなったら買いに行けよ」と宮田にいってくる。宮田は了解の返事をした。
話しをしながら宮田は広瀬を見た。
帰ってきた直後と違い食事もして酒も入ったせいかリラックスしていた。ゆったりしている部屋着のせいもあるのだろう、職場で見る彼よりも少し幼くみえた。仕事での緊張感も全くない。
ソファーで片膝を抱えて当たり前のように東城の隣に座っている。時々、彼に話しかけられて、返事ともつかないものを返している様子も、いつもの慣れた風情だ。自分たちがいなかったら、そのまま東城にもたれかかってしまいそうでもある。
広瀬が東城に寄せる信頼感が宮田にはなぜか切なく感じられた。他の誰にも向けられることのない広瀬の気持ちがそこにだけあふれていた。
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