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第12話
10時をかなりすぎた時間になり、幽霊のことなど半分以上忘れた頃に、佳代ちゃんのスマホがなった。霊感の強い友達が近くまで来たのだ。佳代ちゃんは宮田と一緒に近くまで迎えに行った。
女性は、想像していたより年上で、40代半ばというところだろうか。佳代ちゃんは友達といっていたが、こういう女性とどこで知り合うのだろうか、と宮田は不思議に思った。
黒いすそが足首まであるワンピースをきていて、つばの狭い帽子をかぶっている。肌の色は白く、唇だけやけに赤く塗られている。個性的ないでたちである。仕事ってなにをしているんだろうか、と宮田は思った。宗教団体職員だろうか。
現れた彼女の様子に、東城も予想外だったようだが、あからさまにはしなかった。今日は忙しいところありがとうございます、とかなんとか礼を述べている。広瀬は、相変わらずの無表情で女性のことをどう思ったのかはわからない。たぶん、外見についてはなんとも思っていないのだろう。
「鈴木和子です」と女性は名乗った。名刺を差し出してくる。肩書きにはスピリチュアルコミュニケーターと書いてあった。左下に小さく携帯の番号とメールアドレス、SNSのアカウントがかかれている。住所の記載はない。
「すごく力があるのよ、ね、和子さん」と佳代ちゃんは言った。「いろんな人を見てるけど、解決しなかったことがないもの」
和子は、じっと佳代ちゃんを見て首をかしげる。よく見ると化粧が濃くて仮面のようだ。怖い感じがする。「佳代はいつもそういって私を呼ぶけど、だいたい、呼んだ人の勘違いで、霊的なものはいないしょう」と彼女は言った。
「そうだった?みんなが喜んでたことしか覚えてないわ。それに、ここは別よ。ね、広瀬くん」
広瀬は、急にふられて言葉がでないが、しばらくしてうなずいた。
玄関で立ち話もなんですので、と東城がみんなをリビングに通す。和子は、リビングに広がるビールなどの缶をみて、ため息をついている。「飲み会してたの?」と佳代ちゃんに聞いている。
「待ちくたびれちゃって。ふざけてたわけじゃないのよ」
「そうかしらね」そして、家の中を見渡した。「少し、片付けてもらったほうがいいわ。ざわざわしていると、見えないから」そういう様子は本物っぽい。
命じられるままに、リビングとダイニングはあっというまに片付けられ、整然とする。
和子は、ソファーに座り、じっとしている。
「和子さんには、出るらしいってことしか伝えてないから」と佳代ちゃんはいう。「どんなのが出るのかとか、何もいってないわ。ね、和子さん」
和子はうなずく。目を半分くらいとじて、呼吸を整えている。「しばらく、静かにしていてください。今、ここにいるのかどうか、確かめますから」
何分ほどたっただろうか、静かな時間がすぎた。和子は目をあけた。東城にいう。「若い女性ですね。山で亡くなった人です。この家には確かにいますね。でも、昔からいるわけはなないです。最近、亡くなった女性です」
和子が、東城の左を指差す。
「実は、そのあたりにいます」
その場にいた全員が、身体をすくませて、和子が指差したほうを見る。なにもいない。
「和子さんには見えるんですか?」と宮田が聞くと、彼女はうなずいた。
「俺が見えるときと見えないときがあるのはどうしてですか?」と東城が聞く。「今は全く見えないのですが」
「理由はわからないのです。眠っていたりすると脳波が変わるので見えるようになることがあります」と和子は解説した。「どうやら、あなたに伝えたいことがあって、ここにいるみたいですよ」と和子は言った。
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