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第17話
山奥から順にたどり3箇所目にたどりついた。それそろ夕方になってくる。車を止めては付近を探し回り、また車に乗って移動をしていると、だんだん、小屋なんてないのではという気持ちになってくる。
「和子さんの地図、いまいちだったわね」と佳代ちゃんが言った。「これじゃあ、本当はあっても見つけられないような気がする」
確かに、和子の地図はあいまいだ。幽霊からきいただけなのだから、仕方がないのだが。
「ここで見つからなかったら、今日はおしまいだな」東城は、暗くなる方を気にしていた。念のため懐中電灯は4本用意している。ただし、この山で夜を迎えたくないようだった。
途中で車をとめて、地図担当の広瀬の後をついて歩く。広瀬は、ほとんど道がないところを草をかきわけて進んで行った。
水音が聞こえてくる。広瀬は顔をあげた。「ここは、彼女が亡くなった渓谷に近いです」
「とすると、小屋もあるかもしれないな」
しばらく、山の中を歩き回っていると、木々の奥のほとんど藪で覆われたところに、小屋はあった。小屋とは呼べないくらい、ほとんど朽ちかけている、小さな建物だ。扉に手をかけると、あっけなくはずれた。中の床は抜けている。
「危ないな」と東城は言った。慎重に中に入る。屋根も一部なくなっていて、夕闇がせまる空が覗ける。暗いため東城は懐中電灯をつけた。廃屋そのものでなにかがあるような様子はない。
広瀬も自分の懐中電灯をつけてあたりを照らす。
「箱があるわ」と抜けた床の上をバランスをとって歩いた佳代ちゃんが言った。
広瀬が近づき、写真をとった。位置関係も記録する。
佳代ちゃんはポケットから手袋を出してはめた。箱は、クッキーを入れるスチールでできた缶だった。この小屋にふさわしくなく、新しい。ゆさぶるとかちゃかちゃと音がする。力を入れてふたをあけてみる。
「なんだった?」宮田は思わず首を伸ばして覗き込んだ。
子供が大事にしそうなガラスのビー玉やおはじき、きれいな小石が入っている。そして、封筒。
「手紙だわ。広瀬くん、写真とる?」水彩画っぽい猫のイラストが印刷された封筒だ。
広瀬は、箱の中も撮影した。
「子供のものじゃないかなあ。子供が遊びで入れたみたいだ」と宮田は言った。
佳代ちゃんはゆっくりと封筒をとりだし裏返す。封筒の表がでてきた。「名前が書いてある」
子供っぽい封筒には、あまり上手ではない文字で男の名前が書いてあった。広瀬が今度は声をあげた。
「誰?」
「彼女が付き合ってた、容疑者の1人」と広瀬は言った。「付き合ってたと思ってた、かな」
佳代ちゃんはため息をついて、裏側のノリでとめている封を触る。時間がたっていたせいか、封があいた。中をとりだすと、封筒と同じ柄の便箋だった。
遺書、といえるのだろう。彼への気持ちと、彼の犯した犯罪の詳細、盗品の隠し場所が書かれていた。自分が死ぬことで彼が反省してくれれば、とも書かれていた。
「かわいそう」と佳代ちゃんはつぶやいた。「自殺だったのね」
「でも、なんでこんな缶の中に」と宮田が言った。「彼女のものなのか?この缶も?がらくたも?」
広瀬は、手紙を丁寧に開いてふたの上にのせ、写真を何枚もとっていた。念入りに、裏面も撮影している。
「手紙だけが彼女のなんだろう。自殺した渓谷のどこかにおいてたんじゃないのか。どっかのガキが遊んでてみつけて自分のお宝と一緒に隠したんだろ」と東城が言った。「その手紙の場所に行ったら、盗品の場所もわかって、証拠になるんじゃないのか?」
「そうですね」と広瀬はうなずいた。「今までわからなかった強盗の件がわかるかもしれません」
「今日は、ここまでだ。相当暗くなってるから、戻るぞ」と東城は言う。確かに、さきほどまで屋根の上から見えていた空が、ほとんど暗くなってみえなくなっている。虫の声も夜のものにかわりだした。
佳代ちゃんは、手紙を封筒に入れ、缶にしまい持って歩き出す。
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