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第19話
後ろの車から人が降りてくる。シルエットから女性だということがわかる。
近づいてきて運転手側の窓から覗き込んでくる。
窓越しに声をかけられた。「どうされました?」
「あ、」東城は顔をみて声をあげた。「旅館の」
「ああ、こんばんは。この前のお客さまですね」
ふもと付近の民宿旅館の若い明るい女将だったのだ。「こんなところで車とめてどうしました?また、故障ですか?」
「いえ、道に迷ったかと思って」
女性は笑顔になった。「そうそう。この辺、ちょっとだけ道がわかれてるところがあるんですよ。そこにはまると、わからなくなっちゃうみたいなんです。先導しますから、ついてきてください」
「ありがとうございます」
宮田がふりかえると、後ろの車には男の子が2人乗っている。幼稚園くらいの子供だ。
「こんな暗くなるまでどちらに?」と気になって宮田は聞いた。「すみません、小さい子がいるので気になって」
「甥が2人遊びに来てるんですけど、川のあたりで遊んでたらつい遅くなっちゃって、あわてて帰るところなんです」と女将は言った。
「そうですか、失礼しました」と宮田は頭をさげた。
山道を少し行き脇によけて女将の車に先導してもらった。車はスムーズに進んでいく。時々、前を行く車の後ろに座っている男の子2人がこちらを向いて手をふってくる。
「双子かしら、よく似てるわ」と佳代ちゃんが言った。
ふもと付近まで無事に降りることができた。
民宿の近くにくると女将がまた車を停めて降りてくる。「ここまできたら大丈夫ですね。駐車場に停めに行きますから、こちらで失礼します」と言って去っていった。
まだ暗いが、遠くに街灯や民家の明かりがないわけではない。あたりも林ではなく、畑や田んぼになっている。見晴らしがよくなった。
広瀬が、タブレットに触った。「電波入りました」そして地図を開き、とまどった声をあげた。
「どうした?」と東城が聞く。
「現在地が、思っていたのと違っていたので」と広瀬が言った。
そして、広瀬の言ったとおり、東城の車の先に、あの女将の民宿が見えてきたのだ。一同はだまってしまった。東城は民宿の前で車をとめた。
「さっきもこの建物あったよな」と東城はいう。「みただろ?」
「はい」と広瀬も他の2人もうなずいた。
東城は車を降り民宿にむかった。3人も降りて後を追う。
4人でおそるおそる民宿に入る。受付のカウンターにはだれもいない。東城はベルをならした。
するとあの若い女将がでてきた。さっき会ったばかりなのにあいさつの言葉が違う。
「いらっしゃいませ。あら、この前のお客さま」相変わらずにこにこしている。
広瀬が東城の袖をひっぱる。「着てる服が違います」
「ああ」東城はうなずいた。
女将は状況がわからず首をかしげていた。
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