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第22話

数日後、東城は夜の森の空気をまとって帰ってきた。スーツから少し湿った土と樹の香りがしていた。 広瀬が質問する前に東城が説明した。 「午後に山間部の近くに行く用事があったから、もう一回、彼女が亡くなった渓谷と小屋に行ったんだ。花を置いきた。それと、お前たちが、事件が解決しそうだということも報告してきた。考えてみたら自殺だけどある意味被害者みたいなものだし、幽霊になってくれなかったら、今でも、強盗の一味は捕まってなくて、また、事件が起こってたかもしれないしな。感謝してるっていう意味もこめて」 あの小屋で遺書を見つけてからも幽霊は出ていない。もう出ないだろうと広瀬も思い始めていた。 東城もそう思ったのだろう。 だが、一人で現場に行くことができたとは意外だった。 「それから、もう出ないで欲しいっていうことも心から伝えた。俺のとこ以外ならどこに出てもいいからって。留置場に男も仲間もいるから、反省を促すならそっちのほうがよりよいと思うっていうのも。留置場の住所も伝えておいたから」と続けている。 報告と感謝と出ないで欲しいという要望とどれも本当だろう。でないで欲しいという気持ちの方が強そうだが。 そう語りながら東城はスーツの上着を脱いだ。 すると、上着の下の白いワイシャツの左の肩の背に、紅くなりかけたもみじの葉がついていた。 山で上着を脱いだときについたのだろうか。 それにしても不自然な感じだった。 大きめのそれは、確かに木の葉なのだが、人の手のひらのようにも見えた。誰かがそっと東城の背中に手を添えているような。 だが、わざわざ伝えておどかすこともないな、と思い、広瀬は手を伸ばして葉をとった。 人の手のひらのような木の葉は思っていたよりももろく、手の中で壊れてしまった。 東城は広瀬の手の気配に振り向き首をかしげて不思議そうな顔をしたが、広瀬は説明をしなかった。ただ、葉のついた手を握りこんで隠し、身体を伸ばして、彼の唇に自分のをあわせた。

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