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第23話

ベッドの上で、東城の手が広瀬の身体を丁寧に愛撫していた。 寝巻き代わりに着ているTシャツの中に温かい手が入ってきている。脇を、腹を大きくなでている。手触りを楽しむように、同じところをなんども行き来する。広瀬にはその動きがうっとりするほどに気持ちがいい。 さらに、彼の足の指先が器用に広瀬の足の裏をくすぐってくる。丸く輪をかかれ、さらに足の甲へと動いている。繰り返しの動作はだんだんと快楽につながる。 東城の固い筋肉のついた腕をぎゅっとつかんだ。声を出したら、もっと触ってもらえた。 そんなときに、ベッドサイドのテーブルに置いていた東城の電話がなった。 東城は知らん顔をして動きをとめなかった。しばらくすると留守電に変わる。だが、また、電話がなった。5回くらいしつこく同じことを繰り返す。 よほど連絡がとりたいのだろう。 電話が鳴るたび意識が途切れる。東城は、しぶしぶ身体を起こすと手をのばしてスマホをとった。広瀬に表示をみせる。 宮田からだった。 東城は電話をとった。 「はい」と返事をしている。相手は遅い時間にすみませんとか何とか言っているのだろう「ホント遅い時間だよな」と不機嫌そうに答えている。 だが、相手の話を聞くうちにだんだん笑顔になっていった。もう一度ベッドに横になり、広瀬の頭をなでてくる。 「ああ、そうだ」と東城は答えている。かすかに宮田の声が広瀬にも聞こえてきた。 山で見つけた遺書の入った箱は、宮田と佳代ちゃんが二人きりのデートでハイキングにいって偶然見つけたと、噂になっている。 広瀬が正式な報告には必要のない部分を脚色し、うっかり言ってしまったふりをして周囲に告げたのだ。放っておくうちにだんだん尾ひれがついて、実は長く付き合っているとか、結婚するのではとか大きな噂話になっているのようだ。 美人で有名人の佳代ちゃんと地味な宮田の組み合わせが意外すぎて、噂を聞いたものから宮田に確認の連絡が頻繁にかかっているらしい。さらに、宮田は、署内の佳代ちゃんのファンたちから冷やかされたり、生意気といわれている。 宮田は最初はなんでそんな話になっているのか理解できなかったようだ。 今日、諸々の話をつなぎあわせて、広瀬が発信源とやっと気づいたのだという。そして、広瀬が単独でそんな悪巧みをするはずないので、東城の思いつきにちがいないと確信し抗議の電話をかけてきたのだ。 「お前も、たまには噂される身になって困ってみろよ」と東城は楽しそうに返事をしている。「だいたい、幽霊の話を面白がって佳代ちゃんに話したのは誰だよ」と言う。「人の出来事をだしになんかしてないで、きちんと彼女を正面から誘えよ。連絡先だって知ってたんだろ。もじもじしてないで、押してみろって。お前、容疑者から聞きにくい話聞くときは押しが強いのに、なんで女相手だと引いちゃうんだよ。だめもとでも口説いてみろよ。ああ、はいはい。そうだよな。俺とお前は違うけど」 東城はなんどか宮田をいなし、しばらくして電話を切った。 「自分のことになると臆病なやつだな」と東城は切れた電話にむかっていった。「悪い奴じゃないのにな」 広瀬は、東城から電話をとりあげて電源を切り、サイドテーブルにもどした。東城は広瀬の頭をよしよしとなでる。「お前はいい働きをしたよ」と言った。 広瀬は答えた。「佳代ちゃんからも連絡がありました」 「なんていってた?怒ってなかっただろう」 「全然。面白がってましたよ。宮田と噂になってるって。俺が話しを撒いたって知ってましたよ。東城さんと二人で子供っぽいことするのねって笑われましたよ」 東城が広瀬にご褒美のようなキスをしてくれた。 そして、先ほどの続きをはじめた。彼の指も舌も、なにもかも全てが、広瀬の満足のいくものだった。

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