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⑩作り変えられてしまった体、そして、溺れていく……

観念、するしかない様だった。例え一度きりでも、自分からそう口にしてしまった以上。  触れる雄大の手は唇はそれ迄と違って恭しく崇める様に、かけるを大切な相手として扱ってくれていた。余裕のない荒さをなくした、静かな愛情に満ちた態度――  愛してる、とむやみに口に載せない分、想いは真実味をもって深くかけるの内部に浸透していた。愛されてるんだ俺、とうっとりと目を閉じてしまう程に自然に。  今迄幾度も触れられた身体が、まるで初めて触れられた様に敏感に反応してしまっている。自分の挙げる声が甘ったるい、恥ずかしい位に快楽に負けた声だと、自身でも気付いてはいた。  行為の最中、初めて雄大の名を呼んでいたらしい。縋りつく様に相手にしがみ付いて、身を浚いそうな快感の波に呑まれない様に必死なかけるに、自覚は出来なかったけれど。  今迄有無を言わさず無理矢理に開かされてきた体が、今初めてかけるのタイミングで、かけるが自分からして欲しいと思った高まりと共に与えられた。それは伊集院からもたらされる気持ち良さとはまた別の、気が狂いそうな甘やかな、脳を溶かしてしまいそうな快感なのだった。  深く貫かれて、今迄は痛みと恐怖と嫌悪しかなかったのに。今はその圧迫に甘く痺れ、相手を受け入れる悦びが先に立って、背筋を震わせる気持ち良さを感じてしまっている。  快感なんて感じちゃ駄目だ、とかけるは自身に言い聞かせようと、激情の波に必死で抗おうとしている――分かっている、一度溺れたら、この甘い泉に出口はないのだ。快楽に飼い慣らされて、正常な精神は失わされる……  現に、油断すれば自分から相手を求めてしまいそうになる程、既に身体はかけるの意志を裏切っている。嫌だ、精一杯の言葉を口に載せたかけるを労る様に、雄大はそれ以上の行為をひとまずは止めてくれて。  腕の中に包まれて、優しいキスと囁きで眠りに誘われる。そんな優しさで俺を愛さないで、とかけるは意識を手放す最後迄心の中で叫んでいる……俺を、狂わせないで――。  かけるを手に入れた安心感と自信は、雄大を本来の冷静沈着な大人の雄大に戻している様だった。ちょっかいを出してくる伊集院も余裕の無関心の態度でやり過ごし、完全にオンとオフを分けている。  会社では今迄どおりの距離感を保ち、繕わなくてもいい範囲に突入した途端に引っ付いてきて、部屋の中ではひとときもかけるの体から手を離さない。かと言って自分の欲望を押し付ける事はせず、常にかけるからの動きを待つ姿勢をみせている。  そこは彼ご自慢の忍耐強さが発揮されているらしい。そう簡単にもう体は許さない、と誓うかけるの気持ちを理解した上で、ただかけるを腕に閉じ込めて満足している様に見えた。興奮をもたらす激しいキスで挑発するでも、欲しいだとかの甘い囁きで強制するでもなく。  それに大人しく、違和感なく収まってしまっている自分に、客観視して微かに戸惑っていたりもするのだけれど。 「かけるセンパイ、ちょっと顔にやけ過ぎです」  気配もなく真後ろに立っていた伊集院が、からかいの声を掛けてきた。 「はあっ?!」 「ふぅ~暑い暑い。幸せオーラ全開で、近づくだけで汗かいちゃう」  この間のこの男の暴虐は忘れていない。向き直り、ぎっ、と下から睨み挙げて、狭い資料室で引っ付いてきそうな相手を威嚇する。にへらーっと笑う伊集院は、構わずかけるの腰に手を回してきた。 「おい、てめっ」  かけるの抗議の声を閉じ込める様に、唇が塞がれた。腰を掴む手に体を抱き込まれ、暴れる隙間も許されないまま彼にしては荒いキスが幾度も落とされる。  最近の雄大の自制した軽いキスに慣れたかけるに、それは刺激が強過ぎた。自分からは逃げる動きも取れず、ようやく離れてくれた唇に止められていた呼吸を確保するのに必死なせいで、相手の小さな呟きはまともに耳に入ってこなかった。聞き直すつもりもないかけるの顔をぐいっと自分の方に向け直し、伊集院がいつもの愛しみを全面に押し出した表情でかけるを見つめていた。 「幸せ絶頂でしょ。かける先センパイ、美味し過ぎ。口も体もこんなにトロトロに熟れちゃって」 「なっ……」  聞くのも恥ずかしい台詞を遮ろうとしたが、その必要はなかった。噛み付く様にまた唇を覆われて、性急な貪るキスが再開される。口の端から唾液がこぼれる程の激しいキスなどこの男はした事がない、ぐいぐいと下肢を押し当て自身の熱い昂ぶりを誇示するなんてのも、伊集院とは思えない初めての生々しさだ。 「かけ、せんぱ……美味し……」  どうやってそんな合い間にそんな肉迫した言葉を落とせるのやら、目の回る様な深いキスは散々に続いて。  唐突に唇を解いて、初めての肉食獣の覇気を見せた伊集院は、がばっとかけるを腕に包み込んできた。まだ切り替えが出来ずに、弄れる唇の舌の余韻にぼうっとしたままのかけるに、いつもの落ち着きとふざけた空気とを見事に調和させた男は囁いた。 「もう、僕遠慮しませんよ。あなたは無事、加納センパイのものなんですもんね。そんな最高に食べ頃のあなたを、食い逃がしたくない。今のあなたを、思う存分味わいたい……」  背筋がぞくりと疼く、強く相手に抱かれているから、崩おれそうな力の入らない膝でも何とか立った状態を保ててはいるが。  と言うよりも、支えにする為に、自分の方が伊集院にがっつり抱きついている事実にかけるは気付かない。密かにくすりと笑う伊集院は、そっとかけるの背中の手を緩めて、かけるの顔を見つめてきた。  上気した熱い頬位は自覚が出来る、また始められるかも知れない愛撫を思って警戒に身を硬くするかけるに、けれど伊集院の激情の波はもう去っているらしかった。ちゅっと遊びのキスを額に落として、本気モードをきれいさっぱり手放した男は笑った。 「どうせ食べるなら、最高のシチュエーションと雰囲気で、ね」  相手の抱擁の中から抜け出そうと、かけるは精一杯に相手の胸元を向こうに押しやった。元から引き留める気のないらしい伊集院の腕はあっさりと解かれ、脱兎の如くかけるは身を翻してその場から逃げ出した。  冗談めいた真剣さが、一番怖い。あんなに束縛に固まっていた雄大ですら示せる様になった余裕を、本気になった伊集院はきっと嘘の様に表せなくなるんじゃないか。そう危惧させる、隠された伊集院の欲望の熱。  ……そうして、熱は伝播してしまうらしかった。本人の自覚のない処で、――雄大にも、かけるにも。  それ迄受動的な姿勢をみせていた雄大が、本来のスタンスに目覚めてしまった。  手を出してこない安心感に、無防備に甘えきっていた。ついばむ様な柔らかなキスが、段々に濃厚に、支える様に触れていた手が意志を持って、服をかきわけ素肌を顕わにしていく。嫌、と声を挙げる頃には、止められない本気に相手の息が熱くかけるの肌を灼いていた。 「抱くぞ」  短い宣告。ここ数日の表面上の紳士の我慢は凄まじく多大な理性の下に成り立っていたらしい、自らの采配で枷を外した雄大は、触れなかった数日分を一度に取り戻すが如き情熱で、かけるの体を開いていった。  以前の様な一方的なやり方じゃないだけに、タチが悪い。性急なのにちゃんとかけるの快感を引き出す様に、かけるを高めながら自身もそれに興奮していく雄大に、かけるは甘く脳がとろける様なセックスを覚えさせられてしまう。  駄目だ、と必死の理性でかけるは抗う様に繰り返す。僅かな自制に縋る様に。享楽が自分を狂わせない様に。  プライドの様にそんな最後の一線だけは保とうとする頑ななかけるを、実に紳士たる雄大は理解して尊重してくれるから。駄目、かけるが一つ口にする度に頷いたり分かった、と返事を返してくれたりする雄大に、ますます安心してしまうのだ。  雄大は、今朝から二泊三日の仙台への出張に出掛けていた。雄大が居ないのをいい事に引っ付いてきそうになった伊集院を振りきって、コンビニで大量に酒を買い込んで。  かけるが帰って来たのは、自分のマンションではなかった。当然の様に上がり込んだ雄大の部屋で、寛いで早速酒に口を付ける。  最近、一人になった事がなかったな。何だか感傷的な気分で、かけるは思う。雄大との関係性は全くの恋人になってしまったから、傍に居る雄大とはいつも体を触れ合わせて、優しいキスを幾度も交して。  一人って、寂しいんじゃん。改めて、そう気付かされてしまった。紛らわせる為にあおる酒で、うとうとした微睡みすら心地良くはない事に気付いて、眠りも浅いのだ。  カチャッ、と玄関で微かな音が鳴る。抑えた音だが、眠りに沈み込めないかけるには、はっきりとそれは異音として届いていた。  ドアの閉められる音だ。強盗? まさか、部屋の主が不在だと知って? そんな疑念が、頭を冴えさせた。  身構えるかけるの前に、ひょこっと伊集院が現れた。余りの驚きに、テーブルにぶつかりながら立ち上がっていて、揺れた台から落ちて倒れたビールが床に溢れ出した。 「あー、こぼれてますって! 拭くもの、早く」  駆け寄って来てビールを掴んでどかした伊集院に言われるままに、台所に布巾を取りに走る。大部分をティッシュで拭き取ってくれていた伊集院の働きで、事態はすぐに収集がついた。  手洗いする伊集院の後に布巾を洗ってリビングに戻ったかけるは、上着を脱いで寛ぐ伊集院に、当然の突っ込みを思い出していた。 「待てよ。お前、どうやって入って来た?!」 「あー、気づかれちゃった。騒動で流せる雰囲気だったのに」 「流せるかよ」  ツッコむだけ疲れる、と分かっていながら反射的に返して、伊集院を見下ろす形にリビングの入り口でかけるは立っている。並んで座ったが最後、押し倒されるだろう事は目に見えていた。  全くの無害に見せた、底のない獰猛な欲望。この間の伊集院が晒した一端ですら、その危険性が半端なく強大である事を匂わせた。  表面上は飄々としたいつもの呑気な口調と同じに、伊集院は言い出した。 「さては、僕がくるの分かってたんでしょ? カギ開いてましたよ今」 「嘘吐け」  即座に否定する。一旦鍵を掛けて、チェーンをしようかどうしようか迷った。結局、酔って寝こけるのを見越して、寝惚けた朝からチェーンを外す面倒くささを思い、鍵だけ再確認していたのだ。いつもなら掛け忘れもあるが、今日に限っては絶対に有り得ない。  射る様に見つめるかけるを悪戯っぽい目で見上げて、伊集院はかわす様にふざけて告げた。 「何かしんけーん。あのですね、世の中にはね、知ってはいけない不条理なことって山のようにあるわけですよ。あなたみたいな純粋な人には知られちゃいけない、闇の世界がね」  しらけた無表情のかけるに、伊集院は懲りずに次の手をうってくる。 「これ、言いたくなかったんですけど……。僕ね、針金ひとつでカギ開けるの、天才的に得意なんですよね昔から」 「何しに来た」  相手の冗談を聞かぬ振りで、被せる様に問うたかけるを長い事見つめて、ふ、と伊集院は笑った。彼らしい柔らかさを欠いた、表情の読めない謎めいた笑い。  すっと立ち上がり、と思うともうかけるのすぐ目の前に立っている。余りに素早い動きに咄嗟に後ずさるタイミングを逃していたかけるを、あろう事かひょいっと伊集院は両手に軽々と抱え上げて。  うわっ、と声を挙げて、本能的に暴れようとした。落とされてもいい、いやいっそ落とされた方がましだ。まともな意識下で男にお姫様抱っこなんかされてしまった屈辱を思ったら。  なのに意外な腕力を見せた伊集院は、そこは見慣れた楽し気な笑いでもって抱えたかけるを押さえ込む様にしながら、さっさと歩き出している。  数歩で辿り着く隣の部屋だ、もがくかけるを寝室のベッドに下ろした伊集院は、密着したままの体を覆い被さる姿勢に変えてかけるの上に乗り上げながら、両の手首を押さえ込んでかけるの抵抗を防いだ。 「加納センパイとあなたの匂いでいっぱいだ……幸せで、幸せ過ぎて、ヨダレが出そうなくらい、抜群にあなたは美味しそうです」  言われた内容と抑え込まれた力強さに圧倒されて、かけるはごくりと唾を飲む。くすっと笑った伊集院の顔は、それ迄のどこか中立的で中性的な曖昧さを手放した様に、生々しく身に迫る感じなのだった。 「なにしにきたのか、なんて……」  呟く言葉を載せながら、伊集院の唇がかけるの首筋を滑る。びくっと身をすくめるかけるに笑う息をぶつけて、本性を出した男は続けた。 「言ったでしょ。頂きにきました。最高のシチュエーションと雰囲気でのあなたを、ね」 「加納センパイは指でするのが好きなんですか、それとも口と舌派?」  敏感な乳首を指先で弾かれて、腰が跳ねる。くすりと笑う伊集院は、片方のそれには指先での愛撫を、もう片方には舌先での愛撫を加えながら、言葉を続けた。 「両方同時、かな。かけるセンパイのやらしいカラダは、そう言ってるみたいですもんね」 「……っ……」  声を、全面的に塞がれている。手首を括るだけに留まらず、伊集院はかけるの口に猿轡に似せて布を噛ませていた。  伊集院らしくない野蛮なやり方。それに加えて浴びせる言葉で、伊集院はかけるをおかしくさせたいのかも知れなかった。 「ホント、美味しい……体中どこも全部、とろけそうに甘い。前以上にね。愛されて感度が上がっちゃうなんて、どんだけ乙女なんですかあんた」  余す処なく体をなぞられ唇を舌を這わされ、快楽の絶頂に突き上げられる。いつもは保っている最後の理性を、早い時点で伊集院も放棄しているらしかった。 「この部屋で、加納センパイの存在を感じながらあなたを抱くのが、僕の望む最高の幸せなんです。あなたはあなただけのものじゃない、加納センパイのもので、僕は加納センパイ毎あなたを愛したいんです」  真面目に語られたそれには相変わらず理解は出来ないが、伊集院にとってはそれが制御の解禁となる指標らしい。恐ろしく執拗な愛撫に、それは現れていた。  蜜をこぼすかけるの昂ぶりに、柔らかく手が掛かる。長い指が蟲いて、鬼頭の先端から窪みから張り出した竿からあらゆる箇所を刺激する。声は出せない、反応は浮き上がり悶える様に左右に揺れる腰に顕著に現れる。 「ああ、可愛い……あなたみたいな可愛い人は知らない、今まで出会ったことがない。狂いそうだ、あなたの体に、あなたの気持ち良さに……ねえ、気持ちいいですか? 僕の指、気持ちいいですか? 僕のキスは、僕の口は? 舌は? 歯は? 僕はあなたを気持ち良くさせてあげてますか? ねえ、かけるセンパイ……?」  熱を持つ言葉はねっとりと絡みつき、まるで脳を溶かす酸の様だった。緩く性器をしごかれ、声をこぼせないもどかしさに全身が震える。立てた膝にも力が入らず、体が溶けてしまいそうだった。  ……この男は、本当に伊集院なのか。そう疑いたくなるのは、熱く囁く言葉の、今迄にない情動的かつ野生的な響きのせいだ。 「欲しい……あなたが欲しい。あなたを泣き叫ばせて、気を失うまで……どんなに嫌がってもやめてなんかやらない、ああ、気持ちいいんだろうな今のあなたは……奥まで、深い奥まで僕を全部、呑み込ませてあげます。あなたを喘がせて、よがらせて、悶えさせて、何度でも、乱れるあなたを抱きたい――ああ、僕の手の中で、命を止めてやってもいい……」  強欲とも言える言葉の羅列に、まず脳を犯される。矢張り雄大なんかより数倍も、伊集院の欲望は異常性を秘めていたらしかった。  その間にも途切れる事のない愛撫は続き、けれどもそろそろ限界は伊集院にも訪れつつある様だった。ぐいっとかけるの足は左右に開かされ、のしかかる体の重さと共に後孔に熱く硬い凶器が押し当てられる。  解いて欲しくて括られた両手を動かそうとするが、そんなかけるの主張をうっとりと細めた目で受け流した男は、珍しい早口で囁いた。 「犯します。長いですよ、きっと……壊れるくらい、抱いてあげます。気が変になるくらい、もう抱かれることしか頭に浮かばないくらい。最高潮に気持ち良く、してあげます」  言葉の途中で、ズブッ、と太い肉棒が後孔を割った。既に雄大に快感として覚えさせられた挿入は、突き立てられる毎にかけるを甘く哭かせる――声を、自由に出せるのならば。  感じている事を明確に反応として表せなくて、かけるは溜らず自らも腰を揺らしていた。だがそんな刺激は相手以上に自分を煽るものになってしまう、口を塞ぐ布を噛み締めて、かけるは乱れに乱れた。 「あぁっ……最高、です……かけるセンパイ、好きだ、愛してます……ああ、ずっとこのまま、こうして、あなたと……かける、センパイ……っ!!」  うなされた様な伊集院の声は叩きつけられる腰以上に荒々しく、かけるにはもう快楽に溺れる以外の選択肢は残されていないのだ。 「ああ、僕の求めてるあなただ……もっといっぱい加納センパイに愛されて、加納センパイに夢中になって、もっと甘くなっちゃって下さい……あなたの中に、常に加納センパイを感じられるくらいに。ああ、もっとあなたが欲しい、かけるセンパイ、かけるセンパイっ……!!」  注ぎ込まれる熱情は更にかけるを狂わせる、縛られた両手をどうにか動かして伊集院の首の後ろに回す形に持っていくと、気付いて息の上がった男は心底嬉しそうに囁きを迸らせた。 「そう、そうやって僕を抱いて。あなたから、僕を求めて。加納センパイにするみたいに。僕だって、あなたが欲しいんです……あの人以上に。声を聞かせて。僕を呼んで。かけるセンパイ、あなたの声を……」  激しい腰遣いの中、伊集院の手がかけるの口を塞いでいた布をもどかしく外しさった。ああっ、とまず歓喜の声がこぼれ、次いでかけるは真っ直ぐに伊集院を見上げて、かすれた声を放った。 「伊集院、俺も……欲しい。お前が、欲しい……もっ、とっ……」  繋がった体を、ぎゅうっと抱き締められる。内部で、爆発寸前の男が一層膨張するのを感じた。 「あっ、ダメだ……イキます、かけるセンパイ、でももっといっぱいしてあげますから」  余裕なく言葉を走らせて、爆ぜた伊集院から放たれた熱い濁流がかけるの中を灼いた。抱きすくめられて、自身も相手を強く抱き返して、快楽の波に身を委ねる。そっと上げられた顔が愛しくかけるを見つめて、今迄交わせなかった口付けを繰り返す。  ――伊集院の中の、眠る獣が目覚めてしまった。純粋にかけるを求める、貪欲で凶暴な新たな伊集院。多分に、いや確実に、引き出すばかりか増幅させてしまったのは自分だ。  その事実はかけるの中に、今迄感じた事のない昏い悦びを呼び醒まし、同調する様に自身もその昂ぶりに拐われて――  ……堕ちてはいけないと自らを戒めた激情の奥底に、既に沈んでしまった自分をかけるは分かっていた。

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