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第3話 欸貝哦世界の基本。
風呂から上がった俺はいかにもな中華風コスプレ・長衫 に袖を通す。
玖 が昔着ていたおさがりらしく、サイズ感は大丈夫だ。
「うん……急ごしらえだったが……なかなか良いものだな」
玖 ったら何だか満足げ……?まぁ無事サイズは合ったわけだからね。
さらには番になるのだからと、玖 の臥房 に案内されてしまった。
床 は武林の家にもあった四角い枠に囲まれた中華風床 だが、玖 の臥房 はもちろん俺の兄弟と一緒の臥房 とはけた違いの広さ。
さらに床 が大きいくせに、壁に埋め込まれるタイプの特別製である。
「すごい床 」
「ははは、そう言うものなのか?」
「そりゃぁ……今までは子供部屋で、兄弟一緒だったし、普通に二段床 だよ」
「ふむ……二段……?床 か……?武林だからこそなのか……庶民もなのか」
やっぱり名家のお坊ちゃん。二段床 のイメージが湧かないとか?何だかかわいいと感じてしまう。
床 に並んで腰掛ければ、玖 が早速だと本をいくつか手渡してくれる。
「ここら辺の本が分かりやすいと思う」
「あ、ありがと」
まぁ武林は特殊な環境だが、一応義務教育的な手習い所があり文字は習っているから、本があればありがたい。まぁそれ以外はほぼ武術を極める修行だったけどねー。
「だが私からも紹介させてくれ。まずはこの本だな」
「うん、分かった」
玖 は優しいな。ついついスパダリ臭を感じてしまう。
玖 に示してもらった本は【初めての欸貝哦世界 】と言う題である。
まさに俺が求めていそうなものだ。
本を開けば、ずらりと並んだ漢字とともに、図や表が記されている。
「では、まずこの世界は欸貝哦世界 ……男女の他に欸性 、貝性 、哦性 と言う二次性の存在する世界だ」
うん、そこは地球のオメガバースと同じである。ただ、二次性の呼び名が違うだけ。地球では……中国語でのオメガバースはABOで、アルファがA、ベータがB、オメガがOだった気がするのだが。
でもこの世界にアルファベットに相当する文字があるとは限らないからな……車はあるけど……。
むしろ世界は中華系だけなのか、それともなんちゃってヨーロッパもアリなのか、まだまだ知らないことが多すぎる。
武林の中も車が入ってくることはなかったから、車があることにも驚き。思えば迎えも武林の入口にだったし……。
もしかしたら武林の中は車両禁止なのかな。烈哦性 は車に乗るよりも走って跳べばすむし、そもそも土地自体ゴツゴツしてるわ、いかにもな細長い山が点在しているから車の通行は難しいのかな……?少なくとも高級車は無理だろうな。
――――――そして続けて玖 が説明するには。
二次性については、
欸性 は男女。
貝性 も男女。
しかし哦性 は男人 のみ。
通常は男女で子を成す。
・欸性 (♂)×欸性(♀)
・貝性 (♂)×貝性(♀)
・欸性(♂)×貝性(♀)
の組み合わせ。
哦性 の男人は女性との子は成せず、欸性 の男人と番うことで子を成せる。
さらには欸性 の亜種・劣欸性 がおり、こちらも男人のみ。
そしてもちろん烈哦性 もおり、こちらも男人のみで、哦性 の亜種であるがゆえに欸性 の男人と番うことで子を成せる。
因みに欸性、貝性、哦性の比率は=2:6:2である。
その中で劣欸性 、烈哦性 は欸性 と哦性 の中でも稀である。
まぁ烈哦性 は武林になら纏まってたくさん暮らしているのだけど。
「因みに、欸性 と哦性 が番うと次代に優秀な欸性 が生まれる確率が上がり、そして哦性 も生まれやすい。だが武林では烈哦性 と欸性 が番うと、次代にも烈哦性 が生まれる確率がぐんとあがる」
「……確かに、周りに烈哦性 以外の子どもはいなかったなぁ」
「そうだな。武林では烈哦性 の番以外の二次性はとても少ないのだ。私の媽 も武林から来たが、こちらで私を生んだからか、欸性 の私が生まれた。武林の外では欸性 が生まれることも多々あるようだが……武林以外でも烈哦性 は稀に生まれるらしいな」
「そうだったんだ」
武林ではよく生まれる烈哦性 。
「武林には武林なりの、不思議な力がありそうだ」
うーむ、地球で言うパワースボットみたいなものかな……?だとしたら烈哦性 が欸性 を支配していた間は烈哦性 の子孫を残すのはどうしていたのだろう。……だからこそ烈哦性 は……戦いのためだけじゃなくて武林に隠 ったのかな……?
「あぁ、あと、これだけは覚えておいてくれ、リュイ」
「……なぁに?」
突然神妙な顔をして。
「この世界では……男人 の欸性 はどうしても、哦性 の哦激素 を求めてしまう。それ故に大切に扱われることもあれば、それを理由に哦性 を軽視する欸性 もいる。さらには、貝性 からは理不尽な嫉妬にさらされることもあるだろう」
「……何で……?」
ついつい返してしまったが、愚問だったかも。
「欸性 と言うのは優秀でモテる」
「あぁ、欸性 の基本三原則だよね」
この世界でも同じかな?
「超能力 、超級市場 、帥哥 だよね」
「いや、ちょっと違うような気もするが……」
え?世界差?
「往々にして、優秀 、超級夫 、帥哥 だ」
ほら、合ってんじゃん、俺の。あれ、でもどこか違ったような……?でもまぁいいか。
「それに憧れる貝性 も多い。そして彼らが決して立ち入ることができないのが欸性 と哦性 の番と言う関係性だ」
「あぁ……なるほど。そして発情期 の際に欸性 を際限なく誘惑しちゃうから、嫉妬するわけ」
「そうなるな」
どこの世界でも、哦性 の立ち位置はそんなものか。
そして発情期 もまた、哦性 への侮蔑や偏見に繋がるのだ。
「俺たち烈哦性 は誘惑なんてしないけど。向かってくるなら……殴り倒す。哦性 も好きで誘惑してるんじゃない。そう言う生態なんだから、欸性 どもが気を使え!」
「ははは、それはな。さすがは烈哦性 、逞しいな。私も哦性 の発情期 は本能的なものなのだから、哦性 を守るためにも、高価な抑制剤を手に入りやすくしたり、欸性 自身も雄激 抑制剤を服用することを提案したいが……まだまだ哦性 自身の問題だからと取り合わない欸性 もいるし、誘惑する哦性 が悪いと見なす欸性 もいる。貝性 の中では露骨に哦性 を毛嫌いすることもある」
玖 は……哦性 を下に見たりはしない。ほんとできすぎてんな、イイコちゃんすぎるわこの欸性 。
まぁ、母親が烈哦性 ってだけのこともあり、哦性 ファーストの考え方が染み付いてるのかも。
どうやら烈哦性 伝統の皮鞭 は必要なさそうでなによりだ。
「それに昔は発情期の烈哦性を見たら逃げろが合言葉だったそうだな。媽から聞いた。烈哦性は発情期も強い。だから発情期に苦しむ哦性も守ってきた。リュイとは運命であるがゆえに反応してしまい、抑えきれなかったが、普段は雄激 抑制剤も飲んでいるのだ」
「へぇ、なかなかしっかりしてんじゃん。でも昔は殴り倒すと言うか襲いかかってオラオラセックスだったからなぁ。今は意中の欸性 にしかしない、ほかは拍拍屁股。つまりはおちりぺんぺんな」
「あはは。媽の言っていた烈哦性 伝統の拍拍屁股か。全く烈哦性はタフでとても誇らしいな……しかし、私以外とはセックスは禁止だ」
「俺はそんな尻軽じゃねぇよ。殴るぞ」
「……すまん、調子にのってしまったようだ。拍拍屁股ですらないのが来たな。お詫びに晩飯のリクエストは何かあるか?」
いや、お前拍拍屁股はして欲しかったのか?Mなの?まぁ烈哦性 は完璧ドSだから相性はバッチリだけども。
まぁ、とりま晩飯のリクエストをしていいなら……。
「……んー、麻婆春雨」
「分かった。厨師長 に伝えておこう」
玖は笑顔で頷いた。
「あと、リュイ。実はこちらに烈哦性 が来る時は、大学機関で特別武術講師も務めることができるのだが、興味はあるか?」
「え……っ」
大学機関……?こちらの教育機関については何も知らないけれど。俺が講師ってこと?
「あと、講師の傍ら、大学の座学を受講してもよい」
「それは面白そうだけど」
異世界での学園生活的なものだろうか。大学ではあるけれど、でも憧れないわけではない。
「今度見学でももしてみるか?」
「……っ!うん……見学からなら……そうだね」
俺は晩飯の麻婆春雨を楽しみにしつつ、大学見学がどんなものなのか玖がパンフをくれたので、それに目を通していた。
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