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第4話 皇甫一家。
「アーナークォンダー・ホアン・リュイウーイェン!よくぞ皇甫 一家までやって来た!到着早々悪いが、そたなは我が息子玖狼 の伴侶 。つまりはうちの嫁!ならばその烈哦性 としての器量、存分に発揮してもらいましょうか……!」
晩飯の席で始まったのは、烈哦性 界ではよくあるイベントだ。
……そうだな、例えるならば少年漫画の喧嘩前のノリに似てる。目が合えばそれが戦いの合図!
しかし、ここは屋内。晩飯の場。そこが食事の場であるならば、やることは力比べと言う名の殴り合いではない。
烈哦性 語録。
『食い物 は大事に!』
「あの……取り敢えずなんですが。俺は確かにアーナークォンダー・ホアン・リュイウーイェンですけど、当主夫人さまで合ってますか?」
そのー、武林の中ならお互いに知り合いだから、ここで俺も相手や先輩烈哦性 の名を呼び挨拶をするのだが。
黒髪に瑠璃色の瞳を持つその美人を……もしかしたら見たことがあるのかも知れないが……普段は皇甫 一家にいる方で武林にはいないらだろうからかな……。名字 が分からない。むしろ烈哦性 、名字 めっちゃ長い上に覚えづらいんだよ。
「いかにも。私はこの皇甫 一家の当主夫人であり烈哦性 夫人。そして我が二つ名は……アーリーグェイトゥアー……」
「ま……まさかそれ……っ、そんなっまさか……っ!!」
聞いたことがある……!一度獲物に食らい付いたならば決してその獲物に噛み付いたまま放さず息の根を止める……!
伝説の烈哦性 武人、アーリーグェイトゥアー!
「あの……昔媽 に連れられて見に行ったホアン武林の舞闘大会の成人の部で……!」
成人の部はほんと、大人向けなので。子どもはあまり来ないのだが。つか子どもは子どもで子どもの部があるから、そっちに参加することが多いのだ。
でも珍しく媽 に連れていってもらったときに、見たことがある。そして媽 が話してくれた……!
何か……その……地球的に言えば、アリゲーターみたいな名前のひと……!
子どもの頃の話だし、武林の外では生活するホアン武林のひとはほかのウーシェンのお弟子さんだとあまり会わないので、顔がうろ覚えだった。
「最近はなかなかスケジュールが会わず、舞闘大会には参加できなくてね。でも暇な時はウーシェンに許可を取って出場させてもらうことがあるの。……でも私、だいたい噛み砕いて粉砕してしまうから……武器を使っても強すぎてしまって粉砕してしまうわ。だから同期ながらウーシェンになったシュアンウーダーダーが参加する時くらいしか許可がおりないの。私が当主夫人じゃなきゃ、私も師匠のウーシェンの跡を継いでいたかしら。いえ、いいのよ。今は弟弟 も強い烈哦性 となり、師匠の跡を継ぐため修行しているもの……」
「え?あー……シュアンウーダーダーって孔股叩剥裸 ・皇 ・眩巫打達 ですか?」
同じ名があったとしても、現在ホアン武林でウーシェンをしているシュアンウーダーダーはひとりしかいない。
「アーナークォンダー・ホアン・リュイウーイェン……何故その名字 を……!」
「いやー、あの、それうちの媽 ですけど」
あー、だから媽 が連れてってくれたのかな。同期だったから。因みに見に行った時、媽 も参加してたなと思い出す。
この方が出場するから、普段はウーシェンとしてあまり大会には参加せず、審判や運営に回る媽 が参加してたのか。
なお、ウーシェンが参加しないのは、強すぎて参加したら必ずウーシェンが優勝してしまうから。
媽 はこの方のために特別に出場したのだろう。
「なん……っ。まさか、シュアンウーダーダーの……!?まさか……そんな……名前、リュイって言ってたじゃない」
「それは愛称ですけど」
このひと、天然なんだろうか。
そして急いで媽 からだと思われる信 を取り出し、同封してあった写真を出す。それ常に持ってんの!?どんだけ媽 のこと好きなの!?いや単にライバルとしてなのかもしれんけど……!
そして写真を見た夫人がゆっくりと立ち上がる。
「写真と実物の顔が一致しない時ってきっとあると思うの」
「あー……それは、分かります」
俺も前世そう言うタイプだったから。ほんとみんなさ、何で写真みただけで実物と一緒だって分かるんだ……?天才すぎないか……!?
そしてそれは、この世界でも同じ。
思えばカメラがある時点でこの世界の疑問に気が付くべきだったか。でも仕方がないんだ……。俺にとっては……写真と実物一致しない問題の方が大きかったのだから。
前世の年齢+異世界年齢なんて関係ない。前世からの悩みは……尽きない。
だから同志がいたことは心強くもあるな。うん。
「改めてアーナークォンダー・ホアン・リュイウーイェン。我が名は阿麗圭特 ・皇 ・鶯巒案昂 。こちらでの略称は皇 鶯 。婆婆 でも、媽 でも鶯媽 でも構わないわ」
婆婆はおばあさんではなく夫の母親、つまり姑への呼び名である。いやしかし……鶯媽 ……鶯媽 はどうなんだろう。まぁ烈哦性 ならあながち間違いじゃないんだけど……。これが異世界文化冲擊 と言うものだろうか……。
「よろしくお願いいたします、鶯媽 」
だがしかし。烈哦性 なのだからいいじゃないか……!ある意味正しい!烈哦性 的には……!むしろその方がカッコいいとすら思う、それが烈哦性 !
「こちらこそ、よろしくね。アーナークォンダー・ホアン・リュイウーイェン」
「あの、リュイでいいです。略称だとリュイなので」
「では、リュイちゃん」
鶯媽 が笑顔で頷けば。さっと拱手 の礼の形に両手を組んだので、俺もすかさず拱手 の礼の形を取る。
本来、拱手 と言うのにはレベルがある。相手レベルに合わせて自分レベルを調整するのである。だが、烈哦性 同士の場合は違う。
共に武術を極め、拳をぶつけ合う存在として、いつも対等であれ。
そう言う精神なので拱手レベルは同じものを組む。
なお武人ではない欸性 の爸 は烈哦性 を立てるため、ひとつレベルの低い拱手を組むのだ。
まぁそんな背景があり……当主夫人と嫁と言う立場ながら俺と鶯媽 の拱手レベルは同じ。むしろ鶯媽 が当主夫人だからと拱手レベルを落とせば、鶯媽 を武人として対等に見ていないと逆に失礼になる。たとえ相手の顔を立ててこちら側が低い位置に下がろうとも。
対等に拳をぶつけ合うことこそを大事にしている烈哦性 にとって、拳をぶつけ合うことを拒否すると言ってるのと同じなので、メンツを傷付けることにも繋がる。
だからこそ、鶯媽 を武人アーリーグェイトゥアーとして尊敬するからこその拱手 の、礼!
そして声を合わせ……。
『鶏鶏睾丸一切都摘下了 !!』
やっぱり烈哦性 と言えばこれである。
そして気合いの入る合言葉を告げれば、2人で向かい合いながらにこりと拱手の礼を崩し、鶯媽 に導かれるがまま晩餐の席へと案内される。
「さ、ご飯にしましょう。今日は麻婆春雨よ」
「わぁい、ありがとうございます、鶯媽 」
――――――と、玖 と、それとよく似た年上の男性が腰掛ける晩餐の席に腰掛ける。食卓には麻婆春雨を中心にさまざまな中華料理~~!これだよこれ~~!食べたかったんだよねー!
「それじゃぁリュイちゃん。あれやっていいかしら。烈哦性 の食卓に於ける伝統の慣習よ。うちの欸性 ども、ちっともやってくれないのよ」
「あー、いいですよ。俺もいつも媽 や弟弟 たちとやってます」
爸 は形だけで、媽 たちも疑問がっていたが、欸性 とはそう言うもの、と言うのが媽 の見解。しかし俺には分かる。前世の記憶を持つ俺には。
「じゃぁせーの……の前に忘れるところだった。リュイちゃん、これが私の番の欸性 。当主の皇甫 珊狼 。一応覚えておいて」
あーうん、玖 の父親だよね。見た目で分かった。そして領主一族の当主だと言うのに何かついでのように紹介されている。
つか、鶯媽 に紹介忘れられてたんだけども。
烈哦性 は番への愛は情熱的と言うかセックスは激しいが、欸性 をそこまで欸性 さま欸性 さまはしない。あっさりとしている。あっさりしすぎだと思う……が。
まずは烈哦性 伝統の食事の挨拶である。
『擠欸汁 !』
何でいただきますが欸性 のアレを搾り取るなんだろうね!?烈哦性 うぅっ!
しかしそれに対し、玖 も当主さまも笑顔で頷くのみ。うちの爸 もだが……。ま、そうでなくては烈哦性 の番はやっていけないかぁ。
あ……麻婆春雨、好吃 。
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