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第12話 城市約会
それは玖 と一緒に学園祭を回ってから数日経ったある日のことである。皇甫 一家の臥房 にて、玖 が俺の腰を抱き寄せながら微笑む。
「えっと、城市 へ行くの……?」
「そうだ。この間学園祭で約会 をしただろう?」
「……う、うん!」
「そう言えばと思ったのだ。まだ城市 のことを詳しく案内していなかったと思ってな」
「そりゃぁね?でも、忙しいんじゃない?そう言うことなら別に……俺ひとりでも城市 は行けるよ?」
何かあっても拳ひとつで欸性 の群れすら駆逐できる!
「伴侶 との約会 の時間くらいは捻出できる。むしろ、そのための欸性 は有能であるべきだ」
なぬ――――っ!?
それは……それは哦性 溺愛欸性 の心得とも言うべき成句である……っ!
「それに、リュイをひとりで城市 にだなんてとんでもない。迷子になったらどうするんだ?」
「屋根を伝えば公館まで辿りつけない?」
「それはそれでできると思うが……叶うことなら私自らリュイを案内したい」
「う……うん、そう言うことなら」
「それにいくつかリュイの好きそうな武器屋や防具屋も調べてある」
「はうぅ……っ」
「熊猫 グッズショップもだ」
「あぁぁぁぁっ!!」
それは……好っきいいぃ――――――っ!!!
「お……俺の旦那さまが超級丈夫 すぎて……っ」
「リュイがかわいすぎるな」
「玖 」
「リュイ……?」
「城市 で何かあっても、俺が守るからな!」
「それは私の役目なのだが……しかし、強いリュイを見るのも好きだぞ」
「はぅーんっ!?」
烈哦性 の強さを好きだと言ってくれるとか、やっぱ俺の旦那さま大好きかもっ!
※※※
そんなわけでやってまいりました!皇甫 一家の公館最寄りの城市 !
西洋ファンタジー異世界とはもちろん違う。中華ファンタジーの町並みってどう表現したらいいだろうか……?
瓦屋根の立派な公館や商家はあるものの、和風建築とはちょっと違う。色合いには朱や金が取り入れられており、縦に吊り下げられた中華提灯や中華模様の塀や柵がどうしてか懐かしいような異国情緒を醸し出している。
「昼間と夜でも、趣が全く異なるんだ」
「それは楽しみかも」
あの吊り下げられた提灯が光れば、また幻想的な表情を見せそうだ。
「基本は石畳に道案内があるが、表通りを外れれば脇道は時に迷路のようになる」
「本当だ。石畳がきれいだと思ったけど、矢印とか、番地のようなものが書いてある」
「そうだ。それから店の名前なんかも」
「観光には便利だなぁ。それに脇道も……」
ちょっとわくわくしてしまうのは……気のせいだろうか?玖 と一緒じゃなきゃ入ってみてたかも。
「ははは、慣れないうちはあまり潜り込まない方がいい。だがリュイなら、屋根の上に登れば帰って来れるな」
「それはそうかも」
迷ってもそれで帰れるか。何せ皇甫 一家の公館はここらで一番大きいし、メインストリートに戻れば道案内がある。
「でも、冬は?瓦屋根があるってことは、あんまり降らないのかな」
武林は高地だからか冬はわりとしっかり降るのだが……ここもよその地域と比べれば高地なんだと静 嵐 ちゃんが行っていた。
「雪は降るぞ。ここらの瓦屋根は、雪が降らない地域と比べれば、雪に対応した造りになっている。雪瓦と言うんだ」
「瓦に違いがあったとは」
そういや実家は……トタンっぽかったけど、所々に瓦がついてたな……?あれも雪瓦なのだろうか。
「だが……冬は屋根の上には上がらない方がいい」
「どうして……?」
「滑るからだ。烈哦性 は丈夫だから大丈夫だと思うが……滑って屋根から落ちるリュイは、何かかわいそうに見えそうだから」
クスッと嗤う玖 。
「いや、さすがに俺も冬は登らないよ。雪降ろしの時以外は」
昔……冬に遊びで登ったら滑って落ちたし!もう経験済みだよ!!
※危ないので決して真似しないでください
それに雪庇や氷柱も落ちたら危ない。
まさか……見抜いて……!?
「ん……?」
さらりと余裕の笑みを見せてくる玖 。
き……気付いてはいない……よね。
あ……そう言えば。
「何だかいい匂いがする」
「あぁ、そうだな。ここら辺は飯屋や屋台が多い。何か買っていこうか?」
「いいの?」
「もちろんだ。どれがいい?」
「んー……玖 、あれは?美味しそうな肉串!」
「あれは羊肉串だよ。屋台では一般的だから、一般家庭なら持ち帰って食べることもあるが……うちの料理には確かにあまり出ない」
あ……そうかも。羊肉は食べるけど。
「武林でも肉串はあったけど」
「食べ比べてみてくれ」
「うんっ!」
玖 が俺と自分の分を買ってくれて、俺にも1本差し出してくれる。
「はむっ。ん……味付け!」
「ははは、そこか」
「うん、武林だとバター味が多かったかなぁ。こっちはピリ辛。でもこっちの肉串も美味しい」
「気に入ってくれて嬉しいよ」
うん……ここは玖 の家が治める領地なんだもんなぁ。
肉串を食べ終われば、城市 の名水を頂き舌をリフレッシュ!
「ここは水も美しい。所々に水路や橋があるんだ」
「確かに……!武林にも河はあるけど繋がっているのかな?」
「武林の河が上流で、こちらが中流だな。武林で烈哦性 たちが河を大切にしてくれるから、私たちもきれいな水にありつける」
「う……うんっ」
烈哦性 は時に岩を砕くが、自然は大事にするのだ。砕いた岩もちゃんと自然に返すまでが烈哦性 。
そう言ってもらえると、烈哦性 としても嬉しいなぁ。そう言う一面もあって、皇甫 一家の土地では烈哦性 を尊敬してくれるのかもしれない。
「この後は自然公園にでも寄るか。水の美しさにあやかって玉の泉と呼ばれる観光地だよ」
「へぇ……いろいろあるんだなぁ。俺も見てみたい!」
建物の異国情緒も素敵だし、食べ物も美味しいし!
「武器屋や防具屋も近くにあるぞ」
「はぅ――――んっ」
それは最高である!
自然公園が近付けば、店の並びも雑貨屋や服屋が増えてきた。
「あそこが防具屋だ」
玖 が示した先には、確かに軒先に防具を吊り下げる店がある!
「行ってくる!」
「ははは、私も後からついて行くよ」
グローブや肘当てを見ていれば、玖 も追い付いてきた。
「気に入ったのはあったか?」
「うーん……グローブはちょっと欲しいかなぁ」
武林では手作りしていたけれど、防具屋の職人作成の防具も中々の魅力。模様何かにもこだわりがあるのだ。そう言えば、親戚の烈哦性 から外からのお土産にもらった防具には、これと同じような模様が書いてあった。
「玖 、この模様はなぁに?」
「それか。それはここいらに古くから暮らしている少数民族の独自の文字で、今でも使っている者もいるし、住民たちには親しまれているよ」
ここで暮らし始めて暫くたったけど、それは始めて知った!
「大学にも確か講義があったはずだから、興味があれば受講してみるのもアリだな」
「うん!静 嵐 ちゃんに聞いてみる!因みにこれは何て書いてあるの?」
グローブの甲に書いてある文字をなぞる。
まるで、漢字ができる前の成り立ちを表す絵のようだ。
「天空 ……かな?」
「天空!何か俺みたい」
「確かに……このグローブの色にもリュイの色がアクセントで入っている。気に入ったのなら買おうか?」
「わーい!大事にする!」
「あぁ」
そう言うと玖 が店主にお会計を済ませてくれたので……早速身に付けて、見せてあげる。
「じゃんっ」
「かわいい」
瞬時にぼふっと抱き締められた。
「いや、おい。ちゃんと見てる?」
「コンマ一秒でも脳内録画保存可能だ」
それも欸性 であるがゆえの特技なのか……!?
「ちょ……玖 ……?そろそろ……」
「ふふ……それもそうだ」
玖 がようやっと抱擁を緩めてくれる。
「さて、次は武器屋だな」
「おうよー」
そして次に向かった武器屋にはいろんな武器が揃っており……一通り見せてあげていたら、いつの間にかひとだかりができていた。
「やっちゃった……?」
「いくつか売れて、店の主人も喜んでいるよ」
それなら、良かった~~。
そんなこんなで自然公園の橋を探索だ!
「おお……っ!何か楽しい!」
「はしゃぎすぎて池に落ちないようにな?」
「そんなへまは……」
その時だった。俺に何かが向かってくる!?
「お……が……哦性 だぁぁぁっ!!よこせえぇっ!」
はぁっ!?
無論、新調したグローブでぶっ飛ばす……っ!
「げ……げほぁっ」
そして男人 が仰向けに倒れる。
「欸性 ……か?しかし、何か違うな」
急いで玖 がぶっ飛ばされた男人 を確認に入る。周りからも警備員が駆け寄ってきた。
「玖 、この男人 ……」
「うん?」
「劣欸性 」
欸性 の特性が生まれつき薄いもの、それから……烈哦性 に鶏鶏睾丸 捥がれた睾丸 なしだ。
「捥ぐ睾丸もない」
「なるほど……一度烈哦性 から鶏鶏睾丸 を捥がれながらも、再び烈哦性 ……いや哦性 を狙うとは、命知らずな」
「お……烈哦性 ……そんな……哦性 ……哦性 ……」
劣欸性は皇甫 一家の抱える警備隊に連れて行かれながらも脅えたようすで呟いていた。
「あの男人 については、しっかりと調査した上で処罰をする。あのようなやからは滅多に出ない。安心してくれ」
「そりゃまぁ……哦性 も生き生きと城市 を闊歩していりゃわかるよ」
哦性 たちも俺が烈哦性 だと分かるのか、すれ違う時に手を振ってくれたし。とても幸せそうだった。
そんな城市 には時折、あぁやって希少な哦性 狙いの欸性 が侵入する。そして烈哦性 に鶏鶏睾丸 捥がれるやからもいるのである。
それでもなお罪を働くのなら……今度は何を捥がれるのやら。
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