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第14話 皇甫一家の秘密

(ジン) (ラン)ちゃんの元に、まさかの不躾な婚約者詐称やろうが現れたとあっては、黙っちゃいられない! だが一方で(ジウ)はと言えば、結構冷静……? おいどうした、哥哥(お兄ちゃん)妹妹(いもうと)の危機だぞ! ※正確には幼馴染みです。 「なるほど……面白いな。ひとつ、通してみたらいかがだろうか?」 「ちょ……、(ジウ)ったら正気かっ!?(ジン) (ラン)ちゃんは俺の朋友で……っ、お前にとっても……」 「大丈夫だ、リュイ。(ジン) (ラン)は私の(つま)の朋友だし、さらには幼馴染みだしな。私としても見定めなくてはなるまい?無論、相応しくなければ、堂々と追い返せばいい」 「(ジウ)ったら、もうっ」 (ジウ)(ジン) (ラン)ちゃんのこと、考えてくれてるんだよね。 ――――そして、ついに例の鳳洋(フォンヤン)が通された。 「おお……!美しき我が(ジン) (ラン)!」 そう両手を広げながら大々的に次げたのは、欸性(アルファ)……ではあるようだな。顔立ちはいいが……何だかじゃらじゃらとした宝飾品を吊り下げている。 何だろう……趣味が悪い……? 「勝手にわたくしをあなたのものにしないでくださいませ!」 そして(ジン) (ラン)ちゃんがキッパリと言い放つ。さすがは(ジン) (ラン)ちゃんっ!カッコよすぎる欸性(アルファ)女子である!いや、むしろ女傑と呼んでも似合う! 「我が婚約者殿は相変わらず手厳しい」 「あなたの婚約者になった覚えはありませんでしてよ」 「恥ずかしがらずともいい!」 「一昨日来なさい。来ても通しませんが」 話聞かない系ナルシストVS女傑の(ジン) (ラン)ちゃん!!(ジン) (ラン)ちゃんは全く負けてないが話聞かない系ナルシストが手強いいぃっ! そして不意に鳳洋(フォンヤン)が辺りを見渡す。 「おや、私の席がないようだが?」 何故あると思ったのだろう。 「お約束もしておりませんので、席はございません」 そうそう。 「だが我が家は県級市を治める名門だぞ!席を用意して当然だ!」 ん……? 県級市……と言うのは自治区のある辺境地域ではなく、都のある方向の中心部の領地区分。 この国では国の中心と辺境では行政区分が異なるのだ。 因みに県級市……と言うのは辺境の行政区で言うと自治県。都側は辺境を見下すこともあると聞いたが……行政区分的には(ジン) (ラン)ちゃんの家の方が上である。やはり辺境だからと自治州の長をなめているのだろうか……? 分かりやすく言えば自治州が市、県級市は町のような感覚だ。 なお、武林は広大すぎるので町と言う概念には収まらない。ただ区分が同等と言うだけだ。 「そこにいるのは……分かるぞ……!哦性(オメガ)だな!?私は欸性(アルファ)だ!欸性(アルファ)の私に席を譲らんか!このブス哦性(オメガ)め!」 は……はぁ……? 確かに烈哦性(オメガネス)哦性(オメガ)の亜種だが……かわいらしい見た目の哦性(オメガ)に対し、美人が多いと言われる。だが……ブス……?ブスって何。 (ジウ)のこめかみにもうっすら青筋浮かんでますが!? 皇甫(ホアンフー)自治区は烈哦性(オメガネス)を尊敬しているし、烈哦性(オメガネス)が守る哦性(オメガ)ちゃんに対しても寛容だ。哦性(オメガ)ちゃんに酷いことをすれば烈哦性(オメガネス)の天誅を受ける。 外から来るやからは……こうも哦性(オメガ)に対して失礼な態度を取るものだと言うことか……? 一度シメるか……っ。立ち上がろうとした時だった。 「いい加減になさいませ!」 (ジン) (ラン)ちゃんが立ち上がった。 「リュイはわたくしの朋友です。リュイを貶すことは許しません!」 「何だと!?たかだかブスの哦性(オメガ)など、高貴なる欸性(アルファ)である君にはふさわしくない!」 高貴さに欸性(アルファ)とか哦性(オメガ)は関係ない。無論貝性(ベータ)もだ。 単に優秀な欸性(アルファ)ぎ家を継ぐ確率が多い……と言うだけである。 しかし、その時。鳳洋(フォンヤン)(ジン) (ラン)ちゃんの服に掴みかかる……!はいっ!? 「きゃ……っ」 (ジン) (ラン)ちゃんも欸性(アルファ)だから強くはあるけれど……あれは……っ。 「(ジン) (ラン)ちゃんに何やっとんじゃぁぁあっ!!ワレええぇぇっ!!」 素早く鳳洋(フォンヤン)に突撃し、そして(ジン) (ラン)ちゃんの胸ぐらを掴む腕を折り、さらには回し蹴りいいぃぃっ!! 「がっはぁぁぁぁぁ――――――――っ!!!」 鳳洋(フォンヤン)はぶっ飛ばされて壁に激突した。 欸性(アルファ)だろうが、女傑だろうが、(ジン) (ラン)ちゃんも女の子なのだ。いきなりあんな不躾な欸性(アルファ)に胸ぐらを掴まれたら恐いだろうに……! しかし、ぶっ飛ばしてみてハッとする。 「あ、ごめん、壁が……」 壊しちゃった。鳳洋(フォンヤン)がめり込んでら。 「いえ、お気になさらないで。リュイ。助けてくださりありがとうございます。とてもカッコよかったですわ!」 「そ、そう……?」 「そうだな」 そして(ジウ)が立ち上がる。静観しつつも、烈哦性(オメガネス)の前には出ない。欸性(アルファ)として正しい行動だ。下手に前に出れば自分も烈哦性(オメガネス)の餌食になるからな? でも多分(ジウ)も……怒ってる。 伴侶(つがい)の俺と、烈哦性(オメガネス)の矜持のために見せ場を譲ってくれただけで。 「壁の修理代は、迷惑料として皇甫(ホアンフー)一家から鳳家に(ジン)家に支払うよう請求しておこう」 「あら、よろしいんですの?」 「もちろんだ。ここは皇甫(ホアンフー)一家が預かる自治区の一部だからな。州長である(ジン)家の面倒を見るのも当たり前のことだよ」 (ジウ)が涼しい顔で告げる。 しかしその時、苦しげな声が響く。 「う……ぐ……哦性(オメガ)……くせに……」 まだ生きてやがったか、クズ欸性(アルファ)め。 「この土地に足を踏み入れ烈哦性(オメガネス)も知らんとは。貴様の実家には苦情を入れておく」 「あ゛……?お前、誰……っ、我が家は県、級市の……」 「自治区長の息子だが?伯伯(おじ)上には県級市の家が自治区よりも偉ぶっている上に我が領地の州長の娘に暴力を振るって婚約者を騙って来たことを告げ口しておこう」 つ……告げ口っておいぃ。でも堂々とした告げ口なら、ある意味潔いかもしれない。 しかし……(ジウ)のおじさま……? お義父さんの……哥哥(お兄さま)……?でもそうならどうして領地を継いだのが弟弟(おとうと)のお義父さんなんだろう……?家を継ぐのは欸性(アルファ)になる場合が多いから第ニ性が欸性(アルファ)じゃなければ……あり得なくもないのだけど。 「自治区……?ただの……田舎だろう!」 そう言うには規模が大きいのが辺境なんだが、やはり中心部からは下に見られるのかな……?西洋ファンタジーで言えば(ジウ)皇甫(ホアンフー)一家は、辺境伯家。お前ん家、どっかの貴族の治める領地の町長!正確には結構違うところがあると思うけど、ざっくり言えばこう言うことである! 「安心しろ、伯伯さまにも言っておく」 「田舎区長一族のじじいが、何だと……っ」 「伯伯さまは国王でな」 は……?(ジウ)さんや、今何かすごいこと言わなかった? 「おばあさまが皇甫(ホアンフー)一家の出で、跡取りのいなかった皇甫(ホアンフー)一家に、当時第2王子だった父が婿養子に入ったのだ」 お義父さん、元王子~~~~っ!? てことは、今の王さまは……お義父さんの哥哥(お兄さん)!?そりゃ王家継いでたらここ継がないよね!?むしろ王家継ぐよね!! そしてそれを聞いた鳳洋(フォンヤン)は青い顔をして震えていた。まさかの辺境に来て国王の甥の前で失態を働いたのだ。ほんと、辺境なめすぎである。むしろ烈哦性(オメガネス)が住まう辺境をよくもナメられたものである。 「あと、鶏鶏睾丸(チンタマ)の件だが」 うん……!鶏鶏睾丸(チンタマ)!? 「あ、来た。父からは、事情は後で伯伯上に話しておくから、捥いでいいそうだ」 その伯伯さんって……明らかに国王だよね……? しかしこのような欸性(アルファ)がいるのも哦性(オメガ)ちゃんたちを危険にさらすだろうし、何より(ジン) (ラン)ちゃんに暴力を振るうようなクズである。 俺の気持ちは決まっている。 「鶏鶏睾丸一切都摘下了(チンタマ一式全捥ぎ拳)!!!」 レッツ、去勢――――――っ!!! 「ギャァグオアァァォォァ――――――――っ!!!」 こうして……断末魔の悲鳴と共に、またこの世界に愚かな欸性(アルファ)が消え失せた。 ※※※ その後(ジン) (ラン)ちゃんのご両親にめちゃくちゃ感謝されつつも、(ジン) 一家を後にした。 なお、同時に皇甫(ホアンフー)一家からやって来た家臣たちが鶏鶏睾丸(チンタマ)を失った劣欸性を拘束し、護送しに行ったらしい。 「(ジン) (ラン)ちゃんに変な虫が付かないよう、俺も頑張らなくちゃ……!」 「ははは、心配しなくとも、今回の一件で(ジン) (ラン)に手を出そうとする欸性(アルファ)は減るだろう。むしろほぼいなかったのだがな。烈哦性(オメガネス)鶏鶏睾丸(チンタマ)を捥がれたのだ。そうそうは出ない」 「それなら安心かも!でも……(ジン) (ラン)ちゃんも素敵な欸性(アルファ)を見つけられたらいいなって思うんだ!」 「貝性(ベータ)かもしれないぞ?」 「貝性(ベータ)でも俺が認めた男人(おとこ)なら許そう!」 「うむ、リュイが付いていれば、幼馴染みとしても安心だ」 うーん……やっぱりどこか哥哥(お兄ちゃん)っぽいけどね。

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