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第16話 温泉旅行
――――それは夏が過ぎ、秋の空気が辺境に訪れた頃。
「温泉!?」
突然玖 から告げられたのだ。
「そうだ。この皇甫自治区内の秘湯でな」
「ホアン武林のじゃなくて?」
ホアン武林にも温泉はある。そしねこちらにも大きな湯船があるのは……恐らくホアン武林出身の鶯媽 の影響だろうか?
ホアン武林にはさまざまな温泉が湧いているし、知られざる秘湯もあって、修行帰りによく浸かりに行っていたものだ。
だからこちらでも湯船につかれるのも、温泉大好きな烈哦性 の鶯媽のお陰かな。
「確かにホアン武林の温泉も魅力的だが……その他にも観光客向けの温泉があってな。皇甫自治区の観光に力を入れている地区なんだ」
ふぅむ……そんなところがあったのか。秘湯……と言うのは、皇甫自治区自体が辺境の秘境だからかな。
「だから視察ついでにゆっくりするのもどうだろうかと思ってな。リュイも温泉は恋しいのではないか?」
「それは……うん、確かに」
ここでも大きな湯船に浸かれるけれど、温泉にしかない趣をとか……匂い、とか湯の花もあるんだよね。
「だから、旅行に行こうか」
「……うん、それはいいけど、いつ?」
「明日だ」
急だな!?急すぎるな!?まぁ、高中 での課も講義も、年度末でないからいいけど!秋休みですよ今はっ!こっちの世界では秋入学が当たり前。俺は中途編入したけれど、そう言うのは稀なのだ。
そしてこの秋休みにまさかの……サプライズ旅行を計画していたなんて!
くぅ~~、やっぱりいい丈夫 。
「玖 ったら、いいこいいこ」
ちゃんと褒めてあげなきゃね。なでなで。
「光栄だ。私のリュイ」
玖 は俺がなでなでしていた手をとり、そっと唇に押し付ける。
んもぅ、またそんなドキドキするようなことして……。だけど。
「玖 が俺のなんだよ」
そこは烈哦性 として譲れない。
「そうだな、違わない」
よく分かっていて、さすがは俺の伴侶 である。いや……むしろそう言われたくて言ってる……?
※※※
そんなこんなで翌日。さぁーて、やって来ました!温泉旅行!
ここが今日お世話になる温泉旅館。中華風の温泉旅館とはどんなやと思ったのだが。
わぁっ!ここも中華風雪瓦屋根の公館だぁ!でもここに温泉……中華って温泉……まぁ、秘境にならありそうだもんな……?
「チェックインを済ませてくるから、リュイは座っていて」
「うん」
旅館のロビーはと言えば。西洋風のチェアーや机。まぁそう言うのがあるのはもう慣れたけれど、内装やら細かい意匠なんかは中華なのだ。チェアーの手すりなんかには……龍が彫られていた。わぁ……すごっ。
手すりの意匠に夢中になっていれば……。
「リュイ、部屋に行こうか」
は……っ!
「うん……!」
暫くすれば玖 がチェックインを済ませて来たのか、こちらに来てくれる。その後は旅館のスタッフさんに案内されて部屋へ。
「わぁ……広くない!?」
大きな床 の臥房 に続いて、リビングルーム、後はキッチンもついている。
「当然、いちばんいい部屋だ」
「はぅあっ」
思えば領主の息子なんだから当然だ。
「温泉は!?」
「個室風呂がついている。夕飯を済ませたら入るか?」
「うん!でも夕飯って……お部屋食……?」
「部屋で……ルームサービスなら頼めると思うが……外食で考えていたが、部屋の方がいいか?」
はぅ……っ、日本の旅館みたいにとらえてたら違ったぁ~~っ!
「外食って何?」
「ここの名物の……海産物だ」
何ですと――――っ!?
「海の幸っ」
「うむ。山の幸もあれば海の幸もある。武林側とは違い、ここには山の他に大海がある」
そう言えば……皇甫 一家ではお魚が出たことがある。武林ではほぼ海魚は食べなくて……。当然だ。海はなく、山ばかりだ。河があるから、河魚なら食べられるが、地球で言う海の幸に比べたら、焼き魚にするのが主だった。
「生もある?」
「生……?刺身のことか?それも食べられるぞ。リュイは慣れていないからどうかとも思ったのだが。チャレンジしてみるか?」
そっか。武林出身なら食べ慣れていないと思われても無理はない。完全に……地球での日本人の記憶があるからこその、興味である。
あ……でも。前世の日本では、海外では生魚は食べてはいけないと聞いた気が……っ!もしや……異世界もか!?むしろ世の中の異世界ファンタジーのチート主人公たち平気そうに食べ過ぎぃっ!異世界にもアニサキスがいたら、どーっすんのっ!!
「寄生虫とか、大丈夫かな!?」
アニサキスとか、その他もろもろいろいろ!
「生で食べられるよう、検査をしたり、一度冷凍保存をしたりして安全には気を遣っているぞ」
はぅあぁぁっ!元日本人にもありがたい徹底さ!しかも一度冷凍保存!一度冷凍してあるとがっかりするひともいるだろうが、これが何よりも大事なのであるっ!
「それなら、食べる!」
「分かった。では、さっそく行こうか」
「うん!」
そうして向かった飯屋では……前世ぶりの海鮮丼にありつけた。
あぁ……これだよこれ。刺身、いくら、刺身、いくら、えび!!
「ずいぶんとがっつくな」
クスクスと玖 が苦笑していてハッとする。
「お……お行儀悪かった……?」
「いや。リュイらしくてほほえましいよ。お代わりしたければしていい」
「……っ!!じゃ、お代わりっ!!」
うちの丈夫 さまが超級 すぎて……っ!海鮮丼も……うまぁ~~っ。
※※※
さて、美味しい夕飯を済ませて帰れば、早速温泉である!
「楽しみ~~」
玖 と一緒に早速髪と身体を洗い……そう言えばお風呂の作法は地球にいた頃とそんなに変わらないな。烈哦性 たちも温泉に入るときはこんなもの。修行のあと泥や汗を落とさず湯に浸かれば先輩烈哦性 からげんこつくらうから注意である。
ドキドキしながら湯殿を覗けば、そこには、大人5人は足を伸ばして入れそうな湯船!さらにたぷたぷに張られた湯は乳白色だ。
「武林にもいろんな泉質があったけど、ここは乳白色なんだ。茶褐色とか、青とか、珍しいのでピンク」
「ほう?興味深いな」
「今度玖 も一緒に行く?俺の伴侶 なら大丈夫だよ」
「では、その時は是非」
「うん……!」
そう話をしつつも安全のためにかけゆもして……。
あ、因みにかけゆも烈哦性 的には必須だわ。
かけゆしないで入ったら関西のおっちゃんたちからのお怒りの比じゃないから。先輩烈哦性 からぶっ飛ばされるから注意ね。
そして烈哦性 を:媽媽(母)に持つ玖 ももちろん心得ている。
そして2人で湯船に入り……。
「ふひゃぁ~~、いい気持ちぃ~~」
「リュイ、知っているか?」
「んぅ~~ん?なぁにぃ?」
「お風呂に入った時に漏れでる声は、セックスの時に出る声とも言われている」
「……っ!?」
はいいぃぃっ!?
「本当にリュイはその通りでいつもかわいいな」
何故今さらそんな重大事実を――――――っ!?もうだいぶ一緒に入っていい湯だな~言ってるけど!?
しかも『いつも』って……今までずっとそう思いながら聞いていたんだろうか……!?この男人 はぁっ!!
「は……恥ずかしい……」
「あぁ、我が伴侶 がかわいらしい」
「んもぅ、言うなぁ~~っ」
何だか今日は、のぼせるのが早い。
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