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第18話 欸性的作法

――――温泉旅行から帰って、暫くのころ。入学式シーズンもすぎ、新入生たちも少しずつ高中(こうこう)生活に馴染んで来ているようだ。 俺も哦性(オメガ)の心得の課にて、新たな新入生の哦性(オメガ)ちゃんたちを受け持っている。 そして本日も課が行われる教室に向かっていた時だった。 「リュイ老師(せんせい)!助けてぇっ!」 えっ!? 突如悲鳴を上げながら駆けて来たのは……。 「どうしたの!?」 彼は俺が受け持つ課の哦性(オメガ)ちゃんだ。しかも、頬が赤く、呼吸が粗いこの状況。発情期(ヒート)を起こしている! 「とにかく抑制剤を!」 予備の緊急抑制剤を取り出し、口に含ませる。これは水がなくても大丈夫な代物だ。そして口に含ませて暫くして、哦性(オメガ)ちゃんの頬の熱が引いていく。ふぅ……落ち着いたか。 「(ホアン) (リュイ)老師(せんせい)……!(イン)は……っ」 「もう大丈夫」 そして一緒に来たのであろう、彼の恋人の欸性(アルファ)に声をかける。彼にはここまでよく我慢したとも言いたいが……。 「だけど……まさか……」 「ひいいぃぃっ!?違います(ホアン) (リュイ)老師(せんせい)いいぃ――――――っ!!欸性(アルファ)鶏鶏睾丸(チンタマ)に誓って、伴侶(つがい)を泣かせることなんてあり得ません!」 「よくぞ言った!」 その度胸は褒めてやろう!しかし……! 「ならば何故、哦性(オメガ)ちゃんが泣いている」 烈哦性(オメガネス)として、哦性(オメガ)ちゃんが泣くことは何としても阻止したいものである。 「それは……っ」 彼氏の欸性(アルファ)が悔しそうに口ごもる。 「リュイ老師(せんせい)(ハオ)は悪くないの。むしろぼくを守ろうとしてくれたのに……っ、うぅ……っ」 そして哦性(オメガ)ちゃんが辛そうに話してくれる。 「ぼくの家にもう少し力があれば……っ」 欸性(アルファ)の彼氏もまた……。 「……一体、何があったんだ?」 「実は……外から留学生の欸性(アルファ)が来たんです!その欸性(アルファ)がいきなり、俺の伴侶(つがい)を運命だって言い出して……」 「しかもぼく、発情期(ヒート)を起こしちゃって……その留学生が運命だからって強引に迫ったの!」 ふたりの涙ながらの訴えに、ふつふつと烈哦性(オメガネス)の闘志が燃え滾る……! 「何と言う狼藉欸性(アルファ)め!」 烈哦性(オメガネス)のいるこの高中(こうこう)で、よくもそんな乱暴なことをしたものだ! そして教室の方から遅れて駆けてきた欸性(アルファ)を睨む。 「あ……あのひとです……!(ホアン) (リュイ)老師(せんせい)!」 欸性(アルファ)の彼氏くんが叫ぶ。 「ほう……?哦性(オメガ)ちゃんに無理矢理迫った狼藉ものはあやつか……!」 「リュイ老師(せんせい)済みません!足止めしきれず…!」 そうか、教室では留学生の欸性(アルファ)を担任の貝性(ベータ)老師(せんせい)が止めてくれていたのか……!しかし、その腕をふりきってきた。まぁ、単純に欸性(アルファ)の方が貝性(ベータ)よりも強いからな……。 ゴンちゃんは欸性(アルファ)なのに貝性(ベータ)馬走(マーゾウ)老師(せんせい)よりも弱いが……。それは馬走(マーゾウ)老師(せんせい)が特別に鍛え上げているドMと言うだけだ。 「リュイ老師(せんせい)、彼をこちらに」 そして騒ぎを聞き付けた他の貝性(ベータ)老師(せんせい)たちが駆け付けて来てくれて、発情期(ヒート)が落ち着いた哦性(オメガ)ちゃんを預ける。 「彼はぼくの伴侶(つがい)だ!渡してもらおう!ぼくは地級市を治める(タン)家の令息だぞ!」 地級市……ねぇ。 この国には3種類の行政区画がある。 俺たちが今暮らしている武林・少数民族区域と呼ばれる辺境区画。 国の中心に近い区画。 これらの他に国の直轄市と言うものがあり、地級市と言うのはこの3番目の直轄市に関する行政区画である。 例えるならば、東京都23区のうち、23区だけが独立して国の直轄市となっているイメージ。この23区外がその他の行政区。この東京都セットが国中に点在し、そしてそのさらに外に東京都ではない部分……辺境存在する感覚だ。 そしてこの地級市とは、23区の区長の下のさらに下。けれどそれでも23区。 辺境からしたら国の直轄市を治める一端を担う名門中の名門である。 そして欸性(アルファ)とあっては……跡取りの可能性も高いわけだ。 こうした名門の欸性(アルファ)が留学と称して辺境に来ることはある。 大学にも留学生の欸性(アルファ)はいるからね。多くは国内でも数が少ない割にこちらでは哦性(オメガ)ちゃんと出会える率がぐんと上がるので、哦性(オメガ)ちゃんとの出会いを求めて来ると言う。 因みに留学とは国を跨ぐイメージがあるのだが、こちらでは国内が広大すぎて、隣の領地ですら全く異なる方言を使ったり、文化を持っていたりする。なので自分が暮らしている領地の外の学校に在籍したり、短期で所属する場合は留学と言う言葉を使う。 そして名門だからこその、この自信と傲慢さ。 「ち……違う!俺の伴侶(つがい)だ!」 ほう……?それでもそんな相手に言い返すだなんて、意外と度胸のある欸性(アルファ)じゃないか。 「貴様……っ!他の欸性(アルファ)の運命の伴侶(つがい)を奪うと言うことがどういうことだと分かっているのか!?ぼくの家は淡一家だぞ!その覚悟はできているのだろうな!?」 「そ……そ……れはっ」 ふるふると、震え出す。運命……運命ね。確かに俺も(ジウ)とは運命の伴侶(つがい)だが、それは(ジウ)欸性(アルファ)として烈哦性(オメガネス)への礼儀をわきまえていることと、それから烈哦性(オメガネス)伴侶(つがい)になってやってもいいと惚れた男人(おとこ)だからである。 もしも(ジウ)が俺に見合わないと思ったのなら、とっくに鶏鶏睾丸(チンタマ)捥いでいる。 そして烈哦性(オメガネス)にはそうする力があり、哦性(オメガ)ちゃんの笑顔のためならば、いくらだって欸性(アルファ)鶏鶏睾丸(チンタマ)を捥いでやろう……! 「運命を、恐れるな」 俺の声に欸性(アルファ)の彼氏くんがハッとして顔を上げる。 「確かに運命の伴侶(つがい)は大切な存在だ。しかし、運命が全てじゃない。たとえ運命の伴侶(つがい)だとしても、伴侶(つがい)として相応しくなければ、何の意味もない。君が彼の伴侶(つがい)なのであれば……誰にも渡したくないと思うのであれば、恐れず叫べ!告げよ!」 伴侶(つがい)哦性(オメガ)ちゃんを大事にすると言うのなら、君の傍には烈哦性(オメガネス)がついている!あと、生徒だってのもある。これは老師(せんせい)であるがゆえの特別サービスだ。 「(ホアン) (リュイ)老師(せんせい)……っ」 「リュイ老師(せんせい)でいい。この俺が付いている。彼の生涯の伴侶(つがい)であることを望むのであれば、欸性(アルファ)としてこの俺の前で度胸を見せろ」 それがこの土地で生まれ育った欸性(アルファ)の作法。留学してきた欸性(アルファ)もまた、烈哦性(オメガネス)に対するこの作法を理解することも大切だ。じゃないと鶏鶏睾丸(チンタマ)捥ぐかんな? 「はい……っ、リュイ老師(せんせい)欸性(アルファ)の彼氏くんが力強く頷く。 しかし留学生の欸性(アルファ)くんはまるで馬鹿にしたように吐き捨てる。 「はぁ……?何だ、お前、哦性(オメガ)か……?哦性(オメガ)のくせに生意気な……!」 その瞬間……様子を見に飛び出した貝性(ベータ)哦性(オメガ)たち、欸性(アルファ)であるがゆえに、発情期(ヒート)に当てられないように警戒しつつ様子を伺う欸性(アルファ)たち、講師たち。 みなの顔がサアァッと青ざめる。まぁ、そうだろうな?この愚かな欸性(アルファ)め。 そして同じ留学生でも、烈哦性(オメガネス)のことをよく理解して来ている子らはまともである。ほら、一緒に青ざめてるだろ? 「リュイ老師(せんせい)は強いんだ……!俺なんかよりもずっと……!俺だけじゃ守りきれないけど……でもリュイ老師(せんせい)が付いていてくれるなら……俺だって負けねぇ!あいつの伴侶(つがい)は俺だ!お前なんかに渡さない……っ!」 「……浩っ!」 哦性(オメガ)ちゃんがうるっと涙を溜める。 「ぼくもだよ……!」 抱き合うふたりの伴侶(つがい)。学生だからまだ番ってはいないが……細かいことはどうでもいい! ふたりの思いは、通じあっている……! それに対し、留学生欸性(アルファ)くんはと言えば……。 「ふざけるな!ぼくを誰だと……っ」 「知ったことか!」 俺が容赦なく吐き捨てれば、その声に応えるものがいた。 「その通りだ」 「(ジウ)!」 (ジウ)も騒ぎを聞き付けたのか。いや、俺の言動全てを把握してそうな(ジウ)だもの。真相は分からない……が、ちょうどいいタイミングで加勢に入るとは。相変わらずだな。 しかし留学生の欸性(アルファ)くんも怯まない。 「校長か。ぼくの家のことを知っているだろう?それはぼくの哦性(オメガ)だ。それを阻むのならば……」 「烈哦性(オメガネス)の前でそのような狼藉を働くとは……鶏鶏睾丸(チンタマ)が惜しくないのだな……?留学生を受け入れるに至っては、烈哦性(オメガネス)への礼儀と作法に関するオリエンテーションへの参加は義務になっているはずだから……当然しっているだろう?」 (ジウ)がにっこりと微笑む。わぁー……腹黒欸性(アルファ)の顔やぁ――――。そしてそんなオリエンテーションやってたんだね。留学生の子たちにやたら敬礼されるのもそのせいだろうか。 そして……。 「え……烈哦性(オメガネス)!?」 留学生の顔がサアァッと青ざめる。ちゃんとオリエンテーションに出ていたことは結構。しかし、目先の哦性(オメガ)ちゃんに迫り泣かせるなどと、片腹が痛い。 「リュイ、好きにしていい」 「え?鶏鶏睾丸(チンタマ)捥ぐけど?」 あんな狼藉欸性(アルファ)、許してはおけない。 留学生欸性(アルファ)の顔がさらに青くなる。股間を咄嗟に押さえるが、それは烈哦性(オメガネス)鶏鶏睾丸(チンタマ)狩りには効果ないぞ? 「問題ない」 「それじゃぁ……一個睾丸摘下了(ヒトタマ極地捥ぎ拳)!!!」 俺は駿足で欸性(アルファ)に迫り、背後を取る。そして欸性(アルファ)の股間を覆う手などお構いなしに……タマを捥ぐ……!! 「ギャ――――――――っ!」 烈哦性(オメガネス)を敵に回した愚かな欸性(アルファ)の悲鳴がこだました。 「ふん……っ、タマひとつで勘弁してやったのは……高中(こうこう)生プライスだ。まだ人生は長い。これから欸性(アルファ)としての心得を学び、磨き、精進せよ。……だが次やったら今度こそ全捥ぎにすっからな」 「ひいいぃぃ――――――――――っ、あぁぁぁぁ――――――――っ!!!」 青少年にとっちゃぁちぃと厳しい沙汰ではあるが、号泣する欸性(アルファ)くんがまともに育つことを老師(せんせい)としては願うぜ。 「……でも良かったのか?一応地級市なんだよな」 烈哦性(オメガネス)はそんなこと気にしないが、(ジウ)やお義父さん、鶯媽(インマー)に迷惑がかからないかなというのはちょっと心配だ。 「烈哦性(オメガネス)鶏鶏睾丸(チンタマ)を捥がれる欸性(アルファ)の方が悪い。父上もこの点に於いては大賛成だろう」 さすがお義父さん。烈哦性(オメガネス)(つま)に持つだけのことはある。 ――――その後……。被害に遭った哦性(オメガ)ちゃんと伴侶(つがい)の彼氏くんは医務室に待機し、ご家族のお迎えと共に本日は帰宅することになった。 留学生の欸性(アルファ)くんの留学は取り止め、実家に即呼び戻されて地級市に帰ることになったらしい。あと、お義父さんがさらりと(あに)が称賛していたと言っていたけれど……それ、王さまだよね!? そういや……そもそも(ジウ)の方が血筋的にすごかった。

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