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第19話 我媽が来た!
――――それはある日のこと。
「リュ~~イちゃんっ!来ちゃったっ!」
「え……?:媽(マー)!?」
玖 と一緒に帰ってくると、公館 に:媽(マー)がいた!そう、俺の:媽(マー)だよ!おかんだよ!
「何してるのここで!」
てか何でいるの!?
「何って、決まってるじゃない!リュイちゃんの様子を見に来たの!」
そりゃぁそうだと思うけど!
「急に来るなんて聞いてない」
「鶯 ちゃんには連絡したけど?私は跳んででも来られるけれど、せっかくだからって、お車で送迎してもらっちゃったっ!」
烈哦性 だもの、歩いてでもなく走ってでもなく、文字通り跳んで来られる。それでこそ烈哦性 だし、俺も場所が分かれば跳んでいける。
最初はこの公館の場所を知らなかったから車で送ってもらったのと、玖 が送り迎えの車で一緒にイチャイチャしたいと言うので車移動だが。
そして鶯媽 には連絡してたんかい!息子は!?息子に報せは!?
「これも一種のさぷらいず!リュイちゃん、昔よくしてくれたじゃない!」
げふっ。そういや……俺は昔、弟弟 たちと一緒に:爸媽(両親)にサプライズを仕掛けてたな。
例えば:媽(マー)に突如空中宙返り百連を見せたり、猛ダッシュで草原を駆け回り、ミステリーサークルを仕上げたり。
「あ、そう言えば……鶯媽 と:媽(マー)って……」
「リュイちゃんが帰って来たなら、さっそく始めましょうか!」
ババーンと躍り出たのは、やっぱり鶯媽 !
「この阿麗圭特 ・皇 ・鶯巒案昂 !ホアン武林のウーシェンがひとり、孔股叩剥裸 ・皇 ・眩巫打達 に手合わせを申し込む!」
鶯媽 がサッと拱手 をキメれば、媽(マー)も拱手を返す。
「我はホアン武林のウーシェン・孔股叩剥裸 ・皇 ・眩巫打達 !阿麗圭特 ・皇 ・鶯巒案昂 からの挑戦、喜んで受けて立とう!!」
まぁ仲良しの烈哦性 が久々に再会すれば手合わせも始まると言うもの。それでこそ武闘派烈哦性 。
俺も武林時代の幼馴染みと会ったらやるかもしれない。……場所があればだが。
「玖 、ここに烈哦性 が試合できる場所があるのかな?これから武林行く?」
:媽(マー)来たばかりだけども。
「いや、我が家の敷地は広いからな。:我媽(母)が裏庭に烈哦性 向け小武林場 を作っている。普段は烈哦性 たちとの訓練や、たまに:我媽(母)が烈哦性 たちと手合わせをしてる」
なんと……!さすがは鶯媽 、ちゃんとそういうグラウンドを作ってた!
「リュイちゃんも滾った時は自由に使っていいからね!」
「あ、ありがとうございます、鶯媽 !」
もうすぐ走って発情期 も来るだろうし……玖 が来るまで時間がある時は使わせてもらおうかな……?
そして俺たちはグラウンドへと向かった。そこはまさに烈哦性 たちの武闘大会ようのリングのようで、実際に技をぶつけ合うスペースはテニスコート二面分くらいはあるだろうか?大会など以外のふたりだけの果たし合いでは武林中を駆け巡り……なんてこともあるのだが、周りの烈哦性 たちが観戦する時なんかはこうして範囲を狭めているのだ。
今回は公館でなので、大会と同じ要領のコートで行うらしい。
その周りには観戦用の椅子などもあり、玖 と俺はこちらに座って観戦だ。俺としても、ウーシェンの:我媽(マー)と、:我媽(マー)と並び立つ鶯媽 との手合わせには興味がある。
公館の烈哦性 たちもふたりの手合わせとあって続々と駆け付けている。さらには……。
「こたらはぜひリュイさまが」
「わぁ、ありがとう」
他の烈哦性 たちから桴 を持たせてもらう。
そしてグラウンドに常備してあった銅鑼の中心を……。
ゴーン……っ!と打つ!
その瞬間、:我媽(マー)と鶯媽 が同時に地を蹴り……激しく拳をぶつけ合う……!再び椅子に腰掛ければ。
「終了の銅鑼の合図は夕方だろうか?」
「そうだよ。夕飯仕度があるから」
さすがは鶯媽 の息子の玖 。玖 も烈哦性 あるあるをよく理解しているのだ。
烈哦性 の試合には、時に実力が拮抗し勝負がつかないことがある。その場合、夕方になった時点でこの銅鑼を鳴らすのだ。
何故夕方かって……?もちろん、食べ物を大事にする烈哦性 だもの!お夕飯は大事!ついつい熱中し過ぎてしまうのと、2人の拳を止めるタイミングを見図らないと終われないからこうして銅鑼を用意する。
今回は俺が開始の銅鑼を鳴らさせてもらえて嬉しいかも。
激しくぶつかり合う:媽(マー)2人。
お茶を啜りながら……
2時間が経った。
「リュイさま、そろそろ」
「うん」
陽が暮れてきたもんなぁ。そしてやっぱり決着つかないのかよ、この2人。:媽(マー)たちらしいけど。
再び桴を受け取り……。
ゴーン
ゴーン
ゴーン
終了の銅鑼の音3回。
「ぐ……っ。今日も決着がつかなかったわね」
「えぇ……。時間が経つのは早いのね」
最後の鶯媽 の突き拳、:我媽(マー)の両腕のクロスガードがぶつかり合い、試合は引き分けで終了した。
そして……。
「阿麗圭特 ・皇 ・鶯巒案昂 、孔股叩剥裸 ・皇 ・眩巫打達 との手合わせ、感謝いたす!」
「このホアン武林ウーシェン孔股叩剥裸 ・皇 ・眩巫打達 、阿麗圭特 ・皇 ・鶯巒案昂 との手合わせ、大変有意義であった!感謝いたす!」
そして手合わせ終了の拱手 を上げ合うと、:媽(マー)たち2人が観戦席へと戻ってくる。
「久々にいい汗かいたね~」
「うんっ!肩凝りもほぐれた感じ~~」
先程の激しい戦闘など微塵も感じられない和やかさ。あと鶯媽 の肩凝りは、夫人としての机作業ゆえだろうか?でもほぐれたんなら何より。烈哦性 同士の試合はこう言うことにも有用なんだなぁ。
「鶯 、素晴らしかったよ」
は……っ、この声は……!いつの間に!
「珊 ったら、いつの間に見てたの?」
鶯媽 が照れながらも笑顔を返す相手はもちろんお義父さんである。
「今日は鶯 と眩巫打達殿との手合わせがあると聞いていたからな。早めに仕事を終えて来たまでだよ。やはり華麗に舞い闘う君は、逞しく美しい」
はぅあ――――っ!?何その甘い褒め文句~~っ!玖 みたい――――って……。当たり前か。玖 の父親なのだから。
「んもぅ、よく分かってていいこ」
鶯媽 もにこにこしながらお義父さんの頭を撫でている。
「……あ、そう言えば:媽(マー)。爸 と弟弟 たちは?」
「あら、リュイちゃん。3人とも元気元気。今回はリュイちゃんの様子を見に来ただけだから、武林でお留守番中。でもみんなリュイちゃんに会いたがってるから、たまには帰ってらっしゃいな」
「うん……そうだなぁ~~」
「今は発情期 前だから……無事に番ったら会いにいらっしゃい」
「それもそうかも」
そう、:我媽(マー)と微笑み合う一方で……。
「楽しみだな」
こらこら、耳元でエロい声で囁くんじゃありません!玖 ったら……っ!
※※※
さて、本日は:我媽(マー)を交えての晩餐。
厨師長 からの黄菜に加えて今回は……。
「じゃん」
俺も厨房の一郭を借りて作ってみた。武林では弟弟たちに作ってあげたり、和洋食が恋しくて作ることもあった。
「久々に、:我媽(マー)への手料理」
「あら、リュイちゃんのアレンジ料理!嬉しいわぁ」
あ……アレンジ。まぁ実際は前世で見知っていたんだけども。
玖 は分かったのか、妙に意味深な笑み……っ!
「どういう名前の料理なんだ?」
じ、玖 ったらさりげなく聞いてくるんだからぁ~~っ!
椅子に腰掛けつつ、解説する。
「肉じゃが、卵焼き、タコさんウィンナーサラダ」
「タコさんウィンナー?」
「:我媽(マー)のためにちゃんと8本脚にした特別製」
普段は4本脚だけど、せっかく:我媽(マー)が来てくれたんだもの。タコさんウィンナーの脚にも気合いが入ると言うもの。
「まぁ、見事ねぇ」
鶯媽 とお義父さんも、タコさんウィンナーの脚や卵焼きに感嘆の声を漏らしてくれる。
「リュイちゃんったら、昔から器用でね。よくこうした飾りつけをしてくれるの。それから、肉じゃがも美味しいから、食べてみて」
:我媽(マー)が2人に勧めてくれて、俺も玖 に取り分けてくれる。
「とても美味しいよ、リュイ」
そして俺の手料理を口に含んだ玖 が舌鼓をうってくれる。
「だが……今度は私のために、作ってほしいな」
ほぅあ――――っ!
「き、気が向いたらだかんな?」
:媽(マー)たちの前で惚気るのはちょっと気恥ずかしかったが。
他にも厨師長からの黄菜を:媽(マー)にオススメし、あとこの間の旅行で購入した帆立の貝柱の乾物も:媽(マー)にお土産にお裾分けした。
――――さして晩餐後、:媽(マー)は客間に泊まることになったのだが。
「寂しかったら:媽(マー)のところにきていいからね?」
「ちょ、何言ってんの、:媽(マー)」
さすがにそんな年では……。武林では弟弟たちがよく床 に潜り込んできたけども。
しかしそれを聞いて玖 があたふたしていたのは……珍しい光景だった。
※※※
――――翌朝。
「それじゃぁ、リュイちゃん。みなさんと仲良くね」
「うん、:媽(マー)」
武林へ帰る:媽(マー)とハグを交わす。
そして俺の耳元で……。
「もうすぐ来る発情期 が楽しみねっ!」
「んもぅ、:媽(マー)ったら!」
発情期 を楽しみにするのは烈哦性 くらいではないだろうか?
でも……玖 と番う日が来ること同時に楽しみでもあるのだ。
俺は皇甫 一家の車で武林に帰っていく:媽(マー)に手を振りつつも。ちらりと玖 を見れば……。
「楽しみだな」
そうにっこりと笑った。さっきの:媽(マー)からの言葉、聞こえてた……っ!?
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