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空と君と_2
「祇園の目って本当真っ黒だよな。すげー綺麗で吸い込まれそうなぐらい。漆黒って言うの?俺のと全然違ぇーの。羨まし」
ふと笑みを潜めた表情に昔の理海を垣間見た様な気がした。
だがそれも一瞬で距離を空けた理海は屋上の扉へと向かっていく。
「戻るのか?」
「まあ、一応留年はしたくねぇし。うるさいオカンに見つかっちゃったし」
「あ?誰がオカンだ、誰が」
冗談だと笑う背中。小さい頃は俺より小さかった背も今では殆ど変わらない。体格差もほぼないはずなのに、今でも時々守ってやりたいと思ってしまう事がある。何故だか、不思議と。
「…………なあ」
「何ー?」
「俺が言ってやろうか?担任に……これでも教師受けは悪い方じゃない。俺が言えば多少はマシになるんじゃないか?」
俺の言葉で理海の足取りは止まった。
「……えー、ガキじゃあるまいしいいよ。でもその気持ちは嬉しいっかな、ありがと」
「…………そうか」
昔はすぐに泣きついてきたくせに、今ではもう振り返りもしないのか。
ひらひらと手を振る背中が酷く遠く感じる。
胸を燻ったのは焦燥感。
気付けば足は動き出し、振られた手を取ると強引に自分の方へ理海の体を振り向かせていた。
「な、何だよ?てか近っ!顔!近いってーの!」
お前もさっき同じ距離だっただろとかそんな悪態は口に出ず、ただ目に映る空色に心を奪われた。
「お前の方が羨ましい」
「は……?」
「俺は昔からずっと綺麗だと思っていた。その空色を見るのが俺は好きだ。だから本当に困ったのなら言え、俺が守ってやるから」
一気に捲し立てたお陰か燻っていた焦燥感はスッキリと消えた。
「…………」
「これだけ言いたかった。悪かったな引き止めて……戻るか」
歩き出した俺に付いてくるかと思いきや、理海は一歩も動かない。
「おい、戻らないのか?そろそろ授業始まるぞ」
「……あー、うん。気変わった。もう少し寝てくわ」
「だから寝てばっかいると留年するって言ってんだろうが」
「分かってるって。その辺は上手く調整してっから。ほら、優等生は戻った戻った」
有無を言わせぬ強引さで背中を押され、俺の体が屋上のドアを潜った途端、バタンと音を立ててそれは閉ざされた。
「おい!」
「マジで寝不足なんだって!あとで戻るから先行ってろ!」
「…………分かった。ちゃんと戻って来いよ」
「うん」
理海には意固地なところがある。
俺がここで粘ってもこのドアが開くことはないだろう。
仕方ないと踵を返す。
もしまたアイツが目のことを咎められていたら、その時は……。
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