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第13話 新たな侍従4※
ライリーの傍までやってきたイーデンは石鹸を拾い、さらにはライリーの下半身を覆っていた布を剥ぎ取ってしまう。
「ちょ、ちょっ――」
「お背中、お洗いしますね」
泡立てた石鹸で、優しくライリーの背中を擦るイーデン。
心地いい。心地いいが……やっぱり恥ずかしい。大の大人が、他人に体を洗ってもらっているなんて。
どうすべきか内心困っていると、あれよあれよのうちにイーデンの手が全身に回る。最後に行き着いたのはもちろん――ライリーの中心。
さすがにライリーは慌てた。
「イ、イーデンさん、そこは自分で……」
拒否しようと足を閉じたが、それよりも早くイーデンの手が花棒に触れた。
「ですから、遠慮なさらずに。ここのところ、陛下が毎日通われているとのこと。綺麗にしておかねばなりませんでしょう」
花棒が、ふんわりとした泡に包まれた。泡を纏ったそれを、イーデンの手が上下に扱く。
「っ!」
緩やかな刺激に、声が喉まで出かかった。だが、なんとか飲み込む。
(こ、こんなことまでするものなのか!?)
やばい。そんな風に扱かれたら――。
イーデンがくすりと笑った。
「お可愛らしいですね。ライリー様は」
「~~っ」
反応してしまった。僅かに、だけれども。
セオ以外の相手に感じてしまったという事実が、胸に重くのしかかる。別にセオへの罪悪感を抱いたという意味ではなく、不貞にあたるのではという危惧からだ。
もし、セオにバレて後宮を追い出されたら。そうしたら、フィンリーが後宮入りするルートが復活してしまう。それだけは阻止せねばならない。
イーデンの手を払いのけようとした時だ。浴室の扉越しに、宮女の声が響いた。
「ライリー様。陛下がいらしましたよ」
「!」
さぁっと顔から血の気が引いていくのを感じる。
まずい。セオが浴室まできたら。今の状況を目撃されたら。
(絶対に不貞を犯したって思われる――っっ!)
侍従に体を洗ってもらっていました、という誤魔化しで通じる気がしない。
この出来事が不貞にあたるのかどうか分からないものの――仮に本当に不貞を犯してしまっていたとしても、だ。ライリーにはそれを隠し通す以外の選択肢はない。
「わ、分かりました! 今、上がります!」
平静を装って宮女に返すと、宮女が去っていく足音が聞こえた。
「イーデンさんも、早く! 先に上がって下さい!」
語気を強めて命じると、イーデンは思いのほかあっさりと引き下がった。少し、拍子抜けしたくらいに。
本人はあくまで善意というか、務めを精一杯果たそうとしていただけなのかもしれない。
そのことにどこかほっとしつつも、ライリーは僅かに反応してしまっている自身の下半身に手を伸ばした。
時間が経てば落ち着くだろうが、今そんな余裕はない。自分で熱を鎮めるほかない。
手早く自己処理をして、シャワーで全身の泡を洗い流した。急いで脱衣所に出ると、今度はきちんと衣服を着たイーデンが待っていた。
反射的に身構えてしまったが、
「さっ、お着替えいたしましょう」
と、何事もなかったかのように、イーデンはバスタオルでライリーの体の水滴を拭う。その後も、ただ着替えを手伝うだけで変なことは一切してこなかった。
やはり、侍従としての務めに一生懸命なだけのようだ。
(よ、よかった。これなら不貞じゃない、よな?)
純粋に侍従に体を洗ってもらっていただけ。うん、そうだ。
まだ不安が残る自分にそう言い聞かせて、ライリーはセオが待つ広間へと向かう。
「セ、セオ。お待たせ。今日は早いんだな」
必死にいつもの笑みを作った。ぎこちなくなっている自覚はあったが、幸いにもセオに勘付かれることはなかった。
セオは、セオ比では柔らかく笑む。
「ああ。イーデンが着いたと聞いたから、挨拶をしなくてはと思って」
その言葉を聞いたイーデンが、前に進み出た。恭しく跪拝の礼をとる。
「陛下。改めましてイーデンと申します。本日よりライリー様の侍従という、大変光栄なお役目を与えて下さり、ありがとうございます」
「顔を上げろ、イーデン。こっちこそ、急な頼みですまなかったな。これからライリーのことをよろしく頼む」
「はい。精一杯、務めさせていただきます」
穏やかに形式上のやりとりをする二人。何か起ころうはずもないのに、見ていてはらはらする自分がいる。
今世界の夫と、本来の歴史世界の夫。だからだろうか。
言いようのない不安を抱きながら、ライリーはやりとりを交わす二人を見つめた。
「んっ、ふぁ…っ……」
夕食を食べた後。
自室に引っ込んでお決まりの性行為コースだ。寝台の上で、互いの舌を貪り合っていると……ふいと、セオの手がライリーの中心に触れた。
上下に扱いていつものように快感を与えるセオだったが、急に手を止める。
「ライリー。今日、自慰をしたか?」
ぎくりとした。
咄嗟に答えられず、質問に質問で返してしまった。
「な、なんでそう思うんだ」
「いや……いつもより、反応が鈍いような気がして」
――侍従の手に反応してしまい、鎮めるために自己処理しました。
なんて、言えない。言えるはずがない。
「あ……う、うん。その、セオがくるまで我慢できなくて。つい……」
媚びるような嘘になってしまったのは、身の保身からか。
セオの目が驚きに見開く。が、すぐに優しげな表情になって、ライリーを抱き締めた。
「そうか。ならば、期待に応えなければな」
愛撫が再開する。
愛情のこもった手に感じさせられながら、この日もセオに抱かれた。
……最低な男だというのは、百も承知。
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