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第35話 公太子来訪15★
その日の夜、セオは改めて赤薔薇宮に顔を出した。
カシェート帝国での画策が成功したことは、セオの側近を通して事前に聞いていた。だから無事なのはとっくに知っていたのだが、やはり直接顔を見るまでは不安だった。
――無事でよかった。
今、隣り合って寝台に座っているセオの温もりに安心する。
「あの、さ。セオ。聞いてほしいことがあるんだ」
ライリーは緊張に身を固くしながら、おずおずと切り出した。
セオが無事に帰ってきたら伝えようと思っていたこと。それは。
「す……き、です」
勇気を振り絞って言うと、隣のセオは息を吞んだ。
「え……」
「いつからって聞かれたら、自分でも分からないんだけど。でも、カシェート帝国に送り出した時、セオのことが好きだって気付いて。帰ってきたらこの気持ちを伝えなきゃって思って、ずっと待ってたんだ」
視線を絨毯に向けたまま、吐露する。
セオの顏を見るのはなんだか怖くて、視線を合わせられなかった。別にセオが心変わりしているのではないかと思っているわけではない。だが、自分の本心を伝えるというのは、受け止めてもらえるかが思いのほか不安なものだ。
今までセオが伝えてくれていた愛の言葉は、決して軽いものではなかったのだと、伝える側になって理解した。
「俺……正直、セオの『愛している』って言葉を信じ切れてなかった。今だけだ、そのうち心変わりするに決まってる、って自分で自分の心に予防線を張ってた……と思う」
自分が傷付かないように。
自分の身の保身だけを考え、セオの真っ直ぐな言葉から逃げていた。
「でも、もうそういう考えはやめる」
セオからの愛がずっと続くかどうかは、確かに分からない。本来の歴史世界のように、五年後にはエザラとの間に子をなし、結ばれるのかもしれない。
それでも。今この時、セオと過ごす時間を大切にしたいと思う。
「セオが俺を愛してくれるように、俺もセオのことを全力で愛したい。だから、俺と一から始めてもらえないか。――本物の夫夫として」
いつまでも視線を合わせぬわけにはいかないと、意を決してセオの顔を覗き見た。驚きに見開いた空色の瞳が、やがて柔和に細められる。
気付いたら、セオに抱き締められていた。
「ありがとう、ライリー。すごく……嬉しい」
ライリーからセオの表情は見えないけれど。声音は、穏やかだ。
「一生、大切にする。永遠の愛を誓うから」
「うん……」
一旦、体を離し、どちらからともなく唇を重ねる。
触れるだけのキスから段々と深くなっていき、互いに舌を絡み合わせた。
「んっ、は…ぁっ……」
貪り合うと、緩やかな快感が押し寄せる。それになんの味もしなかったはずなのに、不思議となんだか甘ったるい。
そのままディープキスしながら、二人は互いに衣服を脱がせ合う。裸になると、寝台に上がって、倒れ込むように身体を重ねた。
セオはいつものように丁寧な愛撫から始めたが、今回はそれがじれったく感じてしまい、ライリーは自ら足を大きく開く。
「セオ……きて」
後孔が疼いて仕方ない。身体が早くセオを受け入れたいと主張している。
セオは戸惑った顔だ。
「だが、きちんと中をほぐして……」
「大丈夫だから。早く……一つになりたい」
素直な訴えにセオは一瞬逡巡したのち、寝台の脇にある潤滑剤を手に取った。ぬるりとしたそれをライリーの後孔に塗りたくり、またセオ自身にもしっかりと馴染ませる。
「挿れるぞ」
「うん」
後孔にあてがわれた怒張が、ゆっくりと侵入してくる。たまらず、「あぁっ……」と吐息がこぼれた。
久しぶりの性行為だが……元々、とろとろに蕩けていた秘処は、すんなりとセオを受け入れた。花襞を限界まで押し広げられ、熱い肉棒に貫かれる感覚がたまらない。
セオは熱芯を中に馴染ませてから、そっと抽挿を開始した。
「あっ、あぁっ、んんっ!」
中を擦られるたび、目の前に快楽の火花が散る。
しかし、今は快楽よりも、セオと一つになっている喜びの方が大きい。愛する人と身も心も一つになれることが、こんなにも幸せなことだと知らなかった。
「好きだ。好きだよ」
愛おしいという気持ちが、溢れて止まらない。
セオは嬉しげに笑い、ライリーの唇にキスを落とす。ライリーもまた、その首裏に腕を回してしがみつき、応えた。
やがて、少しずつセオの腰の動きが速くなっていく。激しく揺さぶられながら、ライリーは絶頂を駆け上がっていく。
「出すぞ」
「いいよ……全部、出して……、あぁああああああ!」
腰を強く打ちつけられると、中で雄が爆発した。衝撃で同時にライリーも果てた。
互いに息を弾ませながら、二人は抱き合う。
「ライリー。愛している」
「俺も」
二人は再び、触れるだけのキスを交わした。
「あ……そっか。ルパートさんが皇位につくんだ」
「ああ」
愛し合ったあと、寝台の中で話しているのは、カシェート帝国のこと。ルパートを旗頭として担ぎ上げて革命したのだから、そりゃあルパートが新たな皇帝になるほかあるまい。
だが、ライリーはなんとも複雑な思いだった。
ルパートが皇帝になる。だとしたら、アレックスと結婚する道は、完全に潰えたといってもいいだろう。アレックスは……ルエニア公国を存続させたいのだから。
手放しでは喜べない結末だとこの時は思った。だが――三年後、思わぬ展開が待っていた。
それがなんなのかは、まだ別の話だ。
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