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正しい休日の過ごし方 前編 ※

会いたいと思ったときに会えない、触れたいと思ったときに触れられない。遠く離れている僕らはいつも、寂しくて不安で押しつぶされそうになる。 だから一緒に過ごせる短い時間に精一杯、君に甘えて、触れて、感じたい。 * 肌寒さを感じて目が覚める。一糸纏わぬ姿に一瞬驚くが、すぐに冷静になって卓上の置き時計を見た。時刻は午前6時23分。 昨晩は遅くまで行為に及んで、そのまま寝てしまったらしい。ゆっくりと身体を起き上がらせて隣に視線を落とすと、スヤスヤと寝息を立てている恋人もまた同じ姿であるこに気づき、徐々に思い出されていく映像に修作の身体は否応なしに熱くなる。 「ん‥あ、おはよ」 気配に気づき、七海も目を覚ます。まだ眠たそうに目を擦る仕草が愛おしくて仕方ない。ほんの些細な動作にすら興奮を覚えてしまうなんて、どんだけ欲求不満なんだ‥そんな風に自虐しながらも、修作は七海に絡みつきながら唇を重ね、七海もまた、その心地よさに溺れて修作に応える。 起き抜けでまだボンヤリする頭には少々刺激が強すぎるようで、舌を入れられただけで七海の身体はブルっと震えた。 横になったまま何度も唾液を交換し、飲み込みきれなかった分は互いの口元を伝いシーツに染みを作る。そんなことを気にする暇もなく、ただ目の前の快感を求めて夢中で貪り合った。 疼く入り口をなぞられると、七海は切なく喘ぐ。潤んだ瞳で承諾の合図を送ると、修作は昨夜のまま乱暴に放り投げられたローションを手に取って手際よく支度を整えた。 「う‥っ、あ‥ぁ」 ズズっ‥と指が侵入してきて、冷たさと異物感で思わず声が漏れる。ニ日前に隣人がしばらく留守だと言っていたのを思い出して、七海は最初から声を抑えることは諦めた。角度を変えながら何度も抜き差しされ、その度に耳につく粘着質な音が七海の色欲を誘う。 「は‥ぁっ‥修くんの指‥好き‥ぃ」 「‥指?」 「ん‥太くてゴツゴツしてて‥気持ちいい」 「‥っ」 今どき三流AVでもそんなセリフ言わないだろ、なんて思いつつも、エロい顔の愛しい恋人に言われたらそれはそれで興奮する。 ‥本当、身体は正直だ。 「俺もナナの指、好きだよ」 そう言いながら誤魔化すように汗ではりついている七海の前髪を手で整えるのだが‥ 「‥ホント?」 腕を伸ばして自分のモノを手で包み込みながら嬉しそうなユルユルの笑顔を向ける七海を見て、修作はたまらず色気混じりのため息をこぼした。 お互いの手でイったあと、それでもまだ熱の引かない身体を重ね、それから一緒にシャワーを浴びて。再びベッドに横になると、寝不足と疲労感が相まって間もなく、どちらからともなく寝息が聞こえてきた。 * 「んん‥‥あ、」 夢から覚めて重たい瞼を開けると、すぐ目の前にある大好きな人の無防備な寝顔が目に入った。その姿越しに時計を見ると、時刻は11時を少し回ったところだ。 再び視線を恋人の横顔に移し、小さく名前を呼んでみる。 「修くーん‥」 「‥‥」 返事はない。七海は手持ち無沙汰から、修作の少しクセのある緑色の髪を指に絡めてその柔らかい感触を楽しんでみることにした。時折鼻を摘んだり頬を突いてみるが、深く寝入っているようで全く起きる気配がなくて‥少しつまらない。 これならどうだ!と、七海は体を起こしてそっと口づけをする。唇を離すと、目を瞑ったまま締まりのない顔で「ナナ‥」なんて呼ぶもんだから、思いがけず七海のスイッチが入ってしまった。 仰向けに寝ている修作の上に跨がると、七海は先程よりも長く唇を重ねる。さすがの修作も息苦しさで目を覚まし、下から見上げてどうしたのかと尋ねると、 「したくなっちゃった‥」 「え‥、っ‥」 七海は修作の頬を包んで覆いかぶさるようにキスを落とした。唇を舌でなぞり、そのままゆっくりと口腔内へ差し入れて絡めると、気持ちは一気に高まる。顔を上げると糸を引いた唾液が口元を伝い、それを親指で拭う仕草は実に色っぽい。それでいて、微笑を浮かべて修作を見下ろす瑠璃色の瞳は驚くほど野性的だ。七海が時折見せる、男の顔。 こういう時の修作は、素直に主導権を七海に譲る。一方的に奉仕してもらうのはあまり好きではないのだが、自分へ向けられる七海の気遣いと優しさが心地良くてつい身体を預けてしまうのだ。 耳から首筋にかけてゆっくり甘噛みしていくと、吐息とともに修作の身体がピクンと反応する。ここが修作の弱い部分だと知っている七海は、クスクスと笑いながら丁寧に舌を這わせ、耳元で何度も愛の言葉を囁いた。 「ナナ‥そこ、くすぐったい」 乳首を弄っていると、修作に頭を撫でられてストップがかかる。‥何度やってもここだけはどうにも感じないらしい。 「ちぇっ。つまんないのー」 七海はそう言うと少しふてくされた表情を見せたが、すぐにニッと笑って修作の下半身へと手を伸ばした。 優しく丁寧に扱くと、そこはあっという間に硬く反り立ち、生温かい粘液が指に絡みつく。手の動きはそのままに躊躇うことなく口に含むと、口腔内に広がる苦くてほんのり甘くも感じる精液の味に、今日の七海はいたく興奮を覚えた。夢中で口淫に及んでいると、再び頭を撫でられ熱を帯びた声で名前を呼ばれたので、七海は名残惜しげに口を離して自身で修作を受け入れる準備をした。 柔らかく解れたそこに修作をあてがい、浮かせた腰をゆっくりと沈めていく。修作のむき出しの欲望が粘膜を割って入ってくるこの瞬間、この感覚が七海は何よりも好きだった。額にじんわりと汗を滲ませ恍惚とした表情を浮かべる七海に修作の気持ちも高ぶり、持て余した両手をそっと伸ばす。 不意に腰の辺りを触られ、ビクついた七海は「ひゃっ」と驚いたような声を上げた。撫でられただけでゾクリと感じて身震いし、身体の内側が急に熱くなるのを感じた。こんなことは初めてだ。 「や‥やだ、まって‥」 見えない恐怖に襲われて必死に抵抗する七海だが、高揚して惰性を止められない修作にそのまま腰を引かれ一気に奥まで挿入されると、声にならない声を上げて内側を痙攣させた。 「あ‥」 「あ‥う、そ‥」 ‥まさか入れただけでイくなんて。 互いに驚いて顔を見合わせるが、徐々に七海の中の羞恥心が大きくなり、みるみる赤面していくのが修作にも面白いくらい分かった。 「も‥う、終わり」 耳まで赤くして逃げるように視線を逸らしながら、七海は慌てて身体を離そうとするのだが‥どうやらその表情にあてられて、今度は修作のスイッチが押されてしまったようだ。 「俺、まだイってないよ」 「え‥あ、やだ、っ‥あっ‥ぁあ」  浮かせた腰をもう一度引かれて再び奥まで修作が入ってくると、七海は喘ぎながら身体を大きく跳ねさせた。 一度オーガズムを迎えた身体は少しの刺激にも過敏に反応し、修作に突き上げられるたびに感じる身体中を電気が走るような感覚に、七海は呼吸することさえままならない。連続して襲ってくる快感の波を受けて、七海の中は否応なしに修作を締め付ける。 「あっ‥あ、っ気持ちいいの‥止まんない‥っ」 「ナナの中、ずっとビクビクしてる‥」 「‥っ、や‥しゅ、くん止め‥て」 おかしくなりそうで、怖くて、涙目になりながら思わず腰を引く。が、修作に手首を掴まれてしまう。 「ごめん、無理」 「ひ‥っあ、ぁああ‥っ」 腕を引かれて背中が反らされると、強すぎる刺激に一瞬意識が飛びかけた。 内側がヒクヒクと痙攣している感覚だけははっきりと分かるのに、あとは全部真っ白で何も考えられない。開いたままの口からは涎が流れ、先から絶えず溢れ出る液が繋がっている部分の滑りを良くさせた。 終わりの見えない快感に恐怖ばかりが襲ってくるが、それはいつしか七海に“気持ちいい”よりももっとずっと深い意味の感情を抱かせる。 (ああ、すごく‥幸せだ‥) そんな言葉を漠然と思い浮かべながら、時々遠くから聞こえてくる自分の名前と愛の言葉に酔いしれた。 ‥結局、修作がイくまで付き合わされた七海はしばらく放心状態でベッドに横たわっていた。ぐったりしながらもブーブーと愚痴をこぼすが、 「だって誘ってきたのナナの方じゃん」 そう言われて何も言い返せず、そっぽを向いてふくれっ面でふて寝するのであった。

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