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流れ星に願いを

この前、俺の提案でナナとプラネタリウムに行った。特別星が好きというわけではないんだけど、たまたま面白そうなテーマの上映をやっていて、たまにはこういうロマンチックなデートをしてみるのもいいかなと思ってナナを誘ったら、「超楽しそう!!」と快く誘いに乗ってくれた。 実際はまあ‥ナナは爆睡だったんだけど(笑)、そのことをちょっと罪悪感に感じていたのか、しばらくしてナナから「もう一回見に行こう!」と声をかけられた。どうせなら本物の星を見せてやりたい、そう思ってネットで天気予報を調べまくって‥降水確率0%、雲ひとつない晴天の今日、オレはレンタカーを借りてナナのアパートへ向かう。行き先は車で1時間ちょいの、星がよく見える小高い丘。 免許を取ってすぐの頃、俺は運転の練習のためにレンタカーを借りてよく一人でドライブをした。ここはそのときに見つけた秘密の場所だ。 「うわーすごい!!星がいっぱい!」 車を降りた途端、ナナはそう言って一目散に丘の上まで走り出す。この様子だと、今日はうっかり寝てしまう心配はなさそうかな。 早く早くと急かされて、俺も丘の一番上まで登る。‥我ながらベストな日を選んだなと自画自賛してしまうほど、最高の星空が目の前に広がっていた。 「修くんすごいね!ホント、すごいね!!」 どうやらナナもこの場所を気に入ってくれたみたいだ。興奮気味にそう話す姿をみて、思わず笑みが零れた。 「手伸ばしたら掴めそう!」 必死に腕を伸ばしながら、ナナは大きな瞳を子供のようにキラキラと輝かせて夢中で星空を眺める。‥気がつくと、そんなナナの横顔を俺は夢中で眺めていた。 「あ!流れ星!!修くん、急いでお願いしなきゃ!」 そう言ってナナは勢いよく手を合わせる。いつになく真剣な表情に思わず見惚れてしまう。一体どんなことを願っているのかな。聞いたら教えてくれるだろうか。 自由奔放なナナは、自分の世界をしっかりと持っている。次から次に湧いて出る興味関心も、突拍子もない言動も、今まで周りに流されまくってきた俺にはなんだかすごく羨ましくて、そして‥時々言いようのない不安に襲われる。 いつか、ナナの関心が俺に向けられなくなってしまったら、俺は必要とされるのだろうか。 ふと目を離した隙にどこかにいなくなってしまいそうで、流れ星のように一瞬で消えてしまいそうで、 どうか、何処にも行かないで―― さっきナナが指差していた方角の空を見上げると、流れ星はもうどこにも見当たらなかったけれど、俺は必死にそう願った。 「修くん何お願いしたの?」 ナナの声で現実に引き上げられる。‥困ったな、俺が聞こうと思っていたのに、先に聞かれてしまった。 ナナが教えてくれたら教えてあげる、と冗談っぽく笑って言うと、ナナはニッと笑い返して教えてくれた。 「んとね、“修くんと、ずっとずっと一緒にいられますように”ってお願いした!」 ナナの言葉はいつだって正直でまっすぐで、だからすごく、すごく‥救われる。 「修くん泣かないで」 そう言ったナナの指が頬に触れて初めて、泣いているんだと気づかされる。ナナの前で泣くのはこれで何度目だろう。いい加減呆れてるに違いない。‥そんな風に思ったんだけど。 「次は修くんの番だよ!」 そんな心配はお見通しとばかりに、ナナはいつもと変わらない屈託のない笑顔を向けて俺に訊ねる。 「修くんの願いごと、教えて?」 勘のいいナナだ。きっともう気づいているに違いない。それでも俺は、俺の言葉で、伝えようと思う。 ナナを抱き寄せて、俺は力いっぱいその身体を抱きしめる。 「どこにも行かないで‥ずっと、俺の側にいて‥」 頷く代わりに力強く抱きしめ返してくれたナナを、俺は心の底から愛おしく思った。

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