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僕のとなりに君がいて。2 前編 ※
少し遅く起きた朝。
ちょっぴり焦げたトースト。
そしてふたりのお気に入りのマグカップにはコーヒーとココア。
今日が学校じゃなかったらどんなにいいか。
誕生日という特別な日に、大好きなあなたをひとりじめできるのに。
*
11月17日、今日は修くんの22歳の誕生日。
修くんと付き合ってもうすぐ4年になるんだけど、日付が変わった瞬間、誰よりも早く修くんの誕生日をお祝いできたのは今年が初めてだ。
昨日は“いっぱい話をしたい”というオレの我儘を聞いてもらって、修くんとはエッチをしていない。せっかく一番にお祝いできたのに、エッチして疲れてすぐに寝てしまうのは何だかもったいないような気がして、空が明るくなるまでたくさんたくさん思い出話をした。
少しだけ寝て、眠い目をこすりながらいつもより少し遅めの朝ごはんを食べる。二人でボーッとしてたら、トーストがちょっぴり焦げてしまった。いつもなら凹んでしまうけど、修くんと一緒だとそれさえも楽しくて、仲良く茶色のトーストをかじる。
「修くん」
「なに?」
「誕生日プレゼント、ちょっと待っててもらってもいい?」
「ん?プレゼントとかいいのに」
「オレがあげたいの!」
誕生日プレゼントはまだあげられなくて‥来週末から始まるグループ展のときに渡そうと思ってる。
‥実は修くんに内緒で似顔絵を描いたんだ。人物画はあんまり得意じゃないんだけど、何か特別なプレゼントを渡したくて。
“Favorite‥”
それが今回のグループ展のテーマ。
オレの一番好きなもの、一番好きなひと。頭ん中に真っ先に浮かんだのが修くんの顔だった。
「楽しみにしてます」
少し照れ笑いながら修くんがそう言ってくれたのが嬉しくて、オレも笑って「はい!」って返事をして、残りのトーストを一気に頬張る。
グループ展まであと少し。修くんとまたしばらく会えなくなるのは寂しいけど、修くんに喜んでほしいからオレはいくらでも頑張れるんだ。
「ナナ‥」
「ん?」
なんとなく、さっきと声のトーンが変わった気がして、顔を上げて修くんを見る。
「‥やっぱエッチしよ!」
「え?!ちょっ‥修く‥っ////」
‥どうやら聞き間違えじゃなかったみたい。いきなり修くんが飛びついてきたから飲んでいたココアをこぼしそうになって、オレは慌ててマグカップをテーブルに置く。そのまま崩れるように床に倒れると、修くんはオレをぎゅってして、そのままなかなか離れてくれなかった。
「修くんオレ、そろそろ学校行かなきゃ‥」
「うん‥」
「‥‥あの‥遅刻しちゃう‥」
「うん‥」
返事をしたきり修くんはずっとオレに抱きついたままで‥今さっき頑張ろうって決めたのに、早くも気持ちが揺らいでしまう。
‥あーあ、今日が学校じゃなかったらどんなにいいか。誕生日という特別な日に、大好きな修くんをひとりじめできるのに。
マンガに出てくるようなちっさい天使と悪魔が、オレの耳元で囁く。
『今日くらい休んじゃいなよー!一日くらい平気だって!』
『ダメだよ!今までせっかく頑張ってきたのに、ズルしちゃうなんて!』
『だーいじょうぶ!課題の締め切りはまだ先だし、目処はついてる!』
『周りの友達に置いてかれちゃうよ?』
『明日からまた頑張れば大丈夫!大好きな人の誕生日だよ?一年で一日しかないんだよ?それでも学校に行く?』
‥情けないけど、悪魔の圧勝だ。
「‥休んじゃおっかな」
そう呟いたら、ガバッて勢いよく顔を上げた修くんが「いいの?」って真剣な顔で聞くから、思わず笑っちゃった。
「だって、修くん離してくれないんだもん」
「あ、ごめ‥」
「ウソ。いいよ。オレも‥修くんといたい。誕生日、一緒に過ごしたい」
「ナナ‥」
一度そう決めたらもう迷いはなくて。オレの頭の中は修くんでいっぱいだ。
「ホントにいいの?大丈夫?」
「うん、今回は課題の提出期限までちょっと余裕があるんだ」
「ナナ、頑張ってんな」
「へへっ。‥オレ、学校サボるの初めてだよ」
「え?そうなの?何か意外‥」
「‥それどういう意味ー??」
「あ、ゴメンゴメン」
「オレ超真面目だよ!」
「授業中居眠りするのに?」
「そ、それは高校のとき!今はしてない!」
そんな会話をしながらふたりで笑い合い、その声が途切れると不意に目が合って、オレの心臓は大きく跳ねる。こうなるともう、エッチなことしか考えられなくなっちゃうんだ。修くんもそうなのかな?‥そうだったら、いいな。
ぼんやりとそんなことを考えていたら、いつの間にか修くんの顔が目の前にあって、そのままゆっくりと唇を重ねる。軽めのキスを何度もして‥ふとオレは大事なことを思い出した。
「‥っん‥ま、って‥友達に連絡しとかなきゃ」
連絡なしに学校を休むのはさすがにマズイと思って、オレは少し体を起き上がらせてテーブルの上からスマホを取ると、友達にメッセージを打ち始める。その間も、上から覆いかぶさってきた修くんは背中や足を撫でて、首にキスして、
「ナナ早く‥」
耳元で何度もそう言って急かしてきた。
「待ってってば‥文字、打てな‥」
「もう待てない」
耳の中に舌を差し込まれ、思わず身体か震える。
「あ‥っん、まだ‥送れてない、から‥っ」
飛びそうになる理性を必死に捕まえてオレは何とか送信ボタンを押す。既読を確認する余裕なんてない。手から滑り落ちたケータイの鈍い音が聞こえて、そのあとはもう‥夢中でさっきのキスの続きをした。
「今日はずっと一緒にいられるね」
オレがそう言うと、修くんは嬉しそうに頷く。
「今日だけは俺のわがまま聞いてくれたりするの?」
「えー?いつも聞いてるじゃん」
「あ、そっか」
そう言ってまた笑い合う。
「修くん‥」
名前を呼んで今度はオレから抱きつくと、それに応えるように、修くんはオレの体を強く抱きしめ返してくれた。
「今日はオレにやらせて‥?」
上から見下ろす修くんの頬を両手で包み込んで唇をペロリと舐めてあげると、恥ずかしそうな顔をして少しだけ口を開いてくれる。柔らかい唇の間をぬってゆっくりと舌を入れると、修くんの体がブルッと震えた。上も下も優しくなぞって、熱い舌を何度も絡めて、さっきよりも深くてエッチなキスをすると、修くんの唾液がオレの口元を伝う。‥気がついたら無意識に腰を動かしていて、何だか恥ずかしい。
名残惜しけに唇を離して、今度はオレが修くんの上に跨がる。‥と、何だか違和感。あっ、と声を上げると、どうやら修くんも同じことに気がついたみたい。
「ナナ、ベッド上がろっか」
「ふふっ、うん」
そういえば、朝ご飯の途中だったんだ。硬い床から体を起こしてお互いの服を脱がしっこしながら裸になって、修くんに手を引かれるとそのままふたりでフカフカのベッドに沈み込んだ。
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