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甘さは卒業を待ってから

「お、いいの食ってんじゃねぇか。」 髪をかき乱しながらテスト問題作りに頭を悩ませていた先生は、ふと僕の手にするチョコ菓子の赤い箱を目にして無断で中身に手を伸ばしてきた。 細長いクッキーにチョコレートをコーティングした誰もが知っている定番菓子。先生は手にした一本をそのまま口に銜えた。 「めずらし。甘いもの食べるんだ?」 「あー、あんま好きじゃねぇけどな。……煙草切らしてんだよ。」 先生はチョコ菓子を齧ることなく口に銜えたままにしている。 タバコの代わりにするには甘すぎると思うのだけど、それでもないよりはマシなんだろう。 ……そこまでするなら、無理して禁煙しなくてもいいのに。とは、隠しているらしい本人には言わないけど。 言葉の代わりに、僕は立ち上がり先生に顔を寄せる。先生の銜えるチョコ菓子の先端が唇に触れるくらい近くに。 「な、んだよ。」 ほんの少し後ろに体を反らせた先生を追いかけて、僕も少しだけまた近づいて。ニヤリと口の端を吊り上げる。 「……口寂しいの?」 チョコ菓子の先端を銜えてポキリと折ってやれば、先生は眉間に皺を寄せ、じ、と僕を睨みつけた。 「お前なぁ、」 それは怒りではなく、たぶん焦りで。 滅多に見れない珍しい顔を見れたから、今日はこれでよしとしてあげよう。 「あははっ冗談だよ。」 わかってるよと笑って暗に告げてから、僕は口寂しい先生の為にコーヒーを入れてあげようと顔を離した。 互いの口にほろ苦い甘さを残したまま。

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