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How much!?
「なぁ、部屋に鍵ってかけられないんだよな?」
「あ?無理に決まってんだろ。」
消灯前のいつもの点呼。いつものようにTシャツにスウェットというラフな格好で現れた木崎に俺と美鳥は部屋から顔を出す。
ドアの前で面倒くさそうに俺たちの顔を確認した木崎に何かあるかといつも通りの事を聞かれ、そう言えばとダメ元で聞いてはみたのだが……案の定バッサリと切り捨てられた。
この寮は各号室の玄関に鍵はついているが、個人の部屋に鍵は一切つけられない決まりになっている。まぁ、部屋に籠られて教師の目の届かないところで色々と問題を起こされては困るというのは理解できるので、却下されるのはわかりきっていたのだが。
「やっぱ玄関の鍵だけじゃ不安なんだよなぁ。」
チラリと部屋の隅に立てかけていたヴァイオリンケースに視線を向ければ、木崎も俺の発言の意図を理解したらしい。
「あー。……あれ、やっぱりお高いのか?」
何故か声を落としてひそひそと問われれば、俺としてはまぁそれなりにと曖昧な返答を返すしかない。
隣で美鳥も目を輝かせて興味深げな視線を突き刺してくる。
親父から譲り受けた物なので正確な値段はわからないが、まぁ確かに大きな声で言える金額ではないのも確かだ。
しかしまぁ、隠されれば知りたくなるのも人の性ってやつで。
「……ゼロ五つ、とか?」
興味本位で聞いてきた木崎に、そこはニヤリと笑んで正直に答えてやる。
「そんなんで足りるわけねぇだろ。」
ピシリと美鳥と木崎の顔が凍りつく。
「マジか!ゼロ六つ!?楽器ひとつで数百万とかすんのかよ!?車買えんじゃねぇか!」
「ひっ、そ、そんな高価な物を、ひ、ひ弾いて貰っちゃったの!?ど、どどどどうしよう!」
「あー、いや…」
オールドヴァイオリンの相場なんて……そうだよな、知るわけないか。
俺にとっては当たり前の事なのだが……うん、常識からズレてるのか。そうか。
「お前、それもう金庫なりなんなり用意しろよ!そんなもん部屋に転がしとくな!」
ギャーギャー騒ぐ木崎と色白の顔を真っ青にする美鳥を横目に、俺ははぁ、とため息をつき、髪をかき乱す。
ゼロ……もう一つ足りないんだけど。
なんて事は、口が裂けても言えそうになかった。
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