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オリーとシーのドタバタ珍道中☆ 2

慌ててスーツケースに荷物を詰め、彼からの預かり物であるヴァイオリンも忘れずに肩にかけ、なんとか深夜の高速バスに乗り込んだ。車内ではターミナルの売店で手に入れたガイド本を片手に効率よく観光スポットを巡るコースを確認しつつネットでホテルの予約。それからしっかり仮眠もとって、いざ万全の体制で空港へ。 ……なんでこんな事してるんだろう、なんて考えたら負けだ。 国際線の電光掲示板を確認して、腕時計に視線を落とす。 アマンダさんからよろしくの一言と共にメールで送られてきていた情報によれば、そろそろ到着する頃なのだけれど。 出口近くのベンチに腰掛け待つこと数分、ゲートから出てくる人混みの中に見知った帽子とサングラスを掛けた人物を発見して、僕は思わず立ち上がっていた。 「オリ…、」 大声で名前を呼ぼうとして慌てて自らの口を塞ぐ。 来日しているなんて情報はもちろん非公開だし、向こうでは一般的な名前ではあるのだけれど、それでもオリヴァーの名は出すべきではない。万が一バレようものなら楽しみにしているであろう彼の京都観光はその時点で終了だ。 僕はほんの僅かの照れを咳払いして拭い去ってから、両手を自らの口にあてた。 「ナル!」 まだまだ慣れない愛称で呼べば、声は届いたらしい。キョロキョロと辺りを見回していた彼は、僕の姿を見つけると満面の笑みを浮かべて駆け寄ってきた。……ものすごい勢いで。 「シー!」 スーツケースを引きずりながら全力で駆けてきたオリヴァーは、手にしていたスーツケースを最終的には放り出し、その勢いのままあろうことか全力で僕を抱きしめる。 ふわりと香るシトラスの香りが懐かし……じゃなくて、視線が。周りの視線が。 「会いたかったぞ!シー!」 「ぐ、ちょ、っ、苦し、……目立つことはしないでくださいって、ぐるし、だめ、」 ミシミシと身の軋む音が聞こえてきそうなくらい熱烈な抱擁に彼の胸を全力で叩いて猛抗議すれば、オリヴァーはあははっと笑いながらようやく解放してくれた。 揉みくちゃにされてずれた眼鏡をしっかりとかけ直してから、もう、とオリヴァーを睨んでみても何処吹く風だ。 「恋人との久々の逢瀬だぞ?もう少し堪能させてくれてもいいだろう?」 「明日には帰らないといけないんでしょう?目立って人に囲まれて、時間なくなっても知りませんからね。」 あわよくばもう一度抱きしめようと伸びてきた手は、僕の一言でピタリと止まった。 「む、それは困るな。」 大人しく引っ込められた手に思わずクスリとしてしまう。 どうやら、よっぽど行きたいところがあるらしい。 「それで、突然京都になんか呼び出してどうしたんですか?」 ずっと飛行機内だったオリヴァーとは当然メールも電話も不可能で、僕は結局今に至ってもなぜこんな場所に呼ばれたのか不明なままだ。 とりあえず何を言われても大丈夫なように外国人観光客に人気の神社仏閣を巡るルートや甘味や着物、お茶体験といくつかのプランを作ってはみたのだけれど、はたしてオリヴァーの目的は何なのか。 僕の問いに、オリヴァーはキョトンとそのオーシャンブルーの瞳を見開いた。 「ん?キョートと言えばあれだろ?有名な所があるだろうが。」 「清水寺?金閣寺?京都は有名な神社仏閣や建築物が多すぎて…」 「神社?何を言っている。キョートと言えばproduction companyだろ。」 「へ?」 一瞬、何を言われたかわからなかった。 ぷろだくしょん かんぱにー? …………制作会社!!? 「って、もしかしてアニメの!?」 「そうだ!最近見ているアニメの制作会社がキョートにあるらしくてな。オシにオフセが日本のマナーなんだろ?」 ああ、そう言えば最近ハマってるアニメがあるって話をよく電話でしてたなこの人。 なんだっけ、吹奏楽部の話?いやいや、でもまさか久々の、お忍びの、ハードスケジュールを調整までして来日してきた理由が制作会社って。 急に頭痛がしてきた。 「それにキョートは『六花とキトリ』の舞台のモデルになっている場所がいくつかあるからな。」 「……それ、初耳です。」 「なんだ、日本の常識じゃないのか?」 そんなわけないでしょ!と叫ぶ気力は僕には残されていなかった。 ……ついに、ここまで。 超がつくアニメオタクへと成長してしまったヴァイオリン界の貴公子様は、どうやら僕の常識では対処しきれないらしい。 「さぁ、シー!セーチジュンレーだ!」 その場に崩れ落ちそうになるのを必死に耐え、僕はオリヴァーの腕をがっちりと掴んだ。 「……とりあえず、そこのコーヒーショップに入りましょう。」 「は?なんでだ?オレは別にコーヒーは…」 「いいから!ほら、スーツケース持って!行きますよ!」 「どうした、シー?なんか目が怖いぞ。」 困惑するオリヴァーを問答無用で引きずっていく。 「どうしたもこうしたもないです!とにかく行きたいところ全部教えて!!」 結局僕はオリヴァーを引きずった先のコーヒーショップで、二時間かけて考えていたプランをわずか十五分で練り直すこととなった。

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