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第7話 国王陛下の生誕祭2

 はは……確かに俺ってバカだ。本当に許されたのだと勘違いしてしまった。そんな都合のいいことなんてあるはずないのにさ。そりゃあ、あれだけ嫌がらせを受けていたら、仕返ししたくなるよな。頭では分かってるよ。でも。 「…っ……」  視界が涙で滲んだ。率直に言ってショックだった。二人のことを信用した直後の仕打ちというのが、想像以上に堪えて。  だけど、これは『リアム・アーノルド』の自業自得だ。なんで『俺』が代わりに報いを受けなきゃならないのかっていう思いはあるけど、今はただただ茫然自失状態だった。 「さむ……」  俺は自分の体を抱き締めるようにして二の腕を擦った。少しだけ温かくなったが、それもほんの数秒のこと。ずっと擦っていなければ、体はちっとも温まらない。  誰か、テラスにきてくれないかな。  誰か、いなくなった俺に気付いて、助けにきてくれないかな。  そんな他力本願な思いを抱いて、俺は黙って『誰か』が現れるのを待ち続けた。だけど、待てども、待てども、目の前の分厚い扉が開くことはなかった。  ああ、寒い。寒いよ。マジで凍え死んでしまいそうだ。  前世では若干二十歳で車に轢かれて死んで、今世でも十八歳という若さで、それもこんな惨めな死に方をするのかよ、俺。俺の人生ってなんなんだよ、一体。  なんだか、瞼が重くなってきた。眠い。まさか、凍死の前兆か?  また死ぬんなら、来世こそは幸せな人生を―― 「リアム!」  目の前の分厚い扉が、勢いよく開いた。顔を見せたのはローレンスで。珍しく焦ったような表情を浮かべていて。 「大丈夫か!」 「ロー……レンス、様……」  お前……助けにきてくれたのか。  力尽きて倒れかかった俺を、ローレンスの力強い腕が受け止め、抱き締める。その人肌の温もりが心地よくて、そこで俺の意識は途切れた――。  目を覚ますと、まず見慣れない天井が視界に映った。  家の自室じゃない。なら、ここはどこだ。 「目が覚めたか」  聞き覚えのある声に俺ははっとして、慌てて寝台から上体を起こした。声がした方向を見やると、国王陛下が椅子に腰を下ろして俺を見つめている。気遣わしげな、それでいて申し訳なさそうな表情を浮かべて。 「体は大丈夫か? 俺の側婿たちが酷い仕打ちをしてしまった。すまない。許せとは言わないが、彼らのことはきちんと罰することを約束する」  モブ側婿たちの代わりに謝罪しようと、俺が目覚めるのを待っていてくれたらしい。もう外はうっすら明るい。寝ずに待っていてくれたのかもしれないと思うと、恐縮する思いだ。  俺はそっと目を伏せた。 「……いえ。彼らのことはお咎めなきようお願いします」 「何故だ」 「彼らが私に仕返ししたいと思うのは当然のことです。今回の件は私の自業自得に過ぎませんから」  いや、『俺』としては是非とも処罰してほしいんだけどさ。今の俺は『リアム・アーノルド』だ。きちんと過ちを悔い改めたっていう態度を示さなきゃならない。  国王陛下は息を呑んだ。 「……本当に変わったんだな。ローレンスから話を聞いただけでは、半信半疑だったんだが」 「犯した過ちは消えません」 「それでも、過ちを悔い改められるというのは素晴らしいことだ。といっても、俺の側婿に戻すことはできないが……ローレンスと末永く幸せに暮らすといい」  国王陛下は俺にそう優しく微笑みかけ、「では、失礼するよ」と席を立った。背後に立っているローレンスに「リアムのことは頼んだ」と声をかけてから、部屋を颯爽と出て行く。  国王陛下こそ、素晴らしい人格者だよ。『リアム・アーノルド』がぞっこんだったわけだ。 「本当に体は大丈夫か」  ローレンスもまた、気遣わしげな表情をして歩み寄ってきた。こいつが俺を助けてくれたんだよな。きちんとお礼を言わないと。 「はい。ご心配をおかけしました。助けて下さってありがとうございます」 「いや、助けに行くのが遅くなってすまなかった。陛下があなたに挨拶するという時になってから、会場にあなたの姿が見えないことにやっと気付いたんだ。あんな寒空の下、一人でつらかっただろう」 「いえ……陛下にも申し上げた通り、私の自業自得ですから」 「あなたは変わったんだ。あまり自分を責めるな。あの側婿たちのことだって、庇う必要はない」  俺は曖昧に笑い返した。悔い改めた『リアム・アーノルド』として振る舞っただけで、別にモブ側婿たちを庇ったわけじゃないんだけど……それを口にしたら台無しだ。 「……ところで、ここはどこですか」 「王城の客室だ。ここで好きなだけ休んでいいと陛下から言われたが……家の自室の方が安心するだろう。家に帰ろう」 「はい」  寝台から下りようとした俺だったけど、足が床に着く前にローレンスの腕にひょいと抱え上げられた。お姫様抱っこというやつだ。  げげっ、まさかこのまま家まで運ばれるのか? 早朝とはいえ、誰かが道を歩いているかもしれないのに。こんなところを目撃されたら恥ずかしすぎる。 「ロ、ローレンス様、自分で歩けますからっ」 「無理をさせたくない」  心遣いはありがたいんだけど、お姫様抱っこだけはマジ勘弁!  考えた末、俺はか細い声で訴えた。 「……せ、せめて、おんぶにして下さい」

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