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第23話 サマンサの来訪2

 ローレンスと離縁してもらえないか。  俺は咄嗟になんと返したらいいのか分からなかった。 「ローレンスは私の大切な幼馴染なんです。ローレンスには幸せになってもらいたい。話し合って解決したという旨はローレンスから手紙で聞きましたが、リアム様はローレンスにお気持ちがないんでしょう? リアム様だって、好きでもない相手と結婚していたって仕方ないじゃないですか」 「そ、それは……」 「これ以上ローレンスを傷付けないで。ローレンスの心をもてあそばないで。お願いだから、離縁して下さい。それを訴えに私は王都まできたんです」 「………」  サマンサさんはきっと、心からローレンスの幸せを願ってる。そりゃあ、大切な幼馴染の婿が、でも幼馴染に気がないなんて知ったら別れさせたくもなるよ。ふざけんな、って言いたいところだろう。  ――でも。 「……離縁はしません」 「え?」 「私はローレンス様と、夫夫として再出発すると決めたんです。確かに今はまだローレンス様に心は傾いていません。だけど、いつかきっと傾く日がくる。そう信じています。ですから、離縁するつもりはありません」 「……そう、ですか」  しばし、沈黙が下りた。  諦めてくれたかな、と思ったけど。サマンサさんは挑むような眼差しで俺を見上げて。 「でしたら、私があなたを見極めます。ローレンスにふさわしいかどうか」 「え……」 「ふさわしいと判断したら、もうあなた方の関係に口は挟みません。ですが、ふさわしくないと判断したら、その時は。――旦那様からも離縁するようにローレンスに言ってもらいます。もしそれさえも断るのなら、親子の縁を切る、と」 「え!?」  い、いや、ちょっと待てよ! なんで親子の縁を切るとまで話が飛躍するんだよ!?  驚いたけど、仮にそうなったとしても……多分、ローレンスは俺を選んでくれるだろう。でも、家族との縁を切らせるなんて、そんなことできるはずがない。  だからこれはきっと、ローレンスに家族との縁を切らせたくないのなら身を引け、ということに違いなかった。俺がローレンスにふさわしくないと判断された場合のことだけど。 「お話は以上です。どうぞ、自室へ戻って下さい」  サマンサさんはすたすたと俺の横を通り過ぎ、台所で食器を片付け始めた。俺は少しの間、放心してその場に突っ立っていたけど、それでサマンサさんからの評価がよくなるわけでもない。言われた通り、二階の自室へ引っ込んだ。  とんでもない展開になってしまった。サマンサさんから及第点をもらえなければ、俺はローレンスと離縁するしかない。お義父さんは俺にローレンスのことを頼むって言ってくれていたけど、あれから気が変わったのかな。  どうしよう。俺はどう振る舞ったら、サマンサさんに認めてもらえるんだ。ローレンスに優しくするとか、尽くすとか、か? いやでも、ローレンスにはそういう、嘘で塗り固めたような接し方をしたくない。  本当にどうしよう……。  サマンサさんとのことを、ローレンスには言えるはずもなかった。  告げ口するみたいで嫌というのもあるけど、何より家族と縁を切っても構わないという方向に流れてしまうことを俺は恐れた。 「リアム、今日のボランティアはどうだった」 「あ、うん。楽しかったよ」  その日の夜。俺はいつものようにローレンスと広間でまったりと過ごしていた。でも、気もそぞろな俺の様子にローレンスは気付いたみたいだ。気遣わしげな顔をした。 「何かあったのか? 例の子の問題とか……」 「い、いや、その子の問題なら解決したよ。ちゃんと家族で話し合えたみたいだから」 「そう、か。また悩みがあるのなら遠慮なく話してくれ。頼られると嬉しい」 「う、ん……」  嘘をついているわけじゃないけど、隠し事をしているのもなんだか気まずい。  今夜は話もそこそこに切り上げて、俺は自室に戻った。寝台に横になって目を瞑る。今日の日中はずっと、頭を悩ませていたけど……これといっていい案は思いつかなかった。  ローレンスにふさわしい人、か。そういう視点で客観的に考えたことがなかった。俺がローレンスにふさわしいだなんて、とてもじゃないけど思えないよ。  離縁……するしかない、のかな。  結局、離縁を回避するいい手立てを思いつかないまま、あっという間に五日が過ぎた。その間、俺はいつも通りに過ごす他なかった。 「じゃあ、朝食を食べたら出かけようか」 「分かった」  朝食の席でそうやりとりを交わすのは、ローレンスとサマンサさんだ。今日はローレンス、休日なんだよ。それでサマンサさんの王都見物に付き合うらしい。  二人で出かけるということにもやっとするものはあったものの、今の俺はそれどころじゃなくて、その点はあまり気にならない。  それよりも、サマンサさんが帰る日まであと二日しかないよ。俺、加点されるようなことを何もできていない。このままじゃきっと、ローレンスにふさわしくないって判断されてしまう。うう、どうしたら……。 「リアム様。リアム様も一緒に行きませんか?」  サマンサさんの声に、俺は意識が現実に引き戻された。  え、俺もついていっていいの? 二人の邪魔になるんじゃないのか。  そう思って固辞しようとしたけど、ローレンスも「そうだな、一緒に行こう」と誘うものだから、拒否していいのか判断がつかず、俺は言葉に詰まった。 「えっと……ご一緒してもいいんですか?」  恐る恐る訊ねると、サマンサさんは笑顔で頷いた。 「もちろんですよ。ローレンスと二人じゃ、話が盛り上がらないですし」 「それは悪かったな」 「そう思うのなら、もう少しコミュ力をつけることね。ともかく、決まりですね。今日は三人で出かけましょう」

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