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第31話 告白1

 そんなわけで、遅めの朝食を食べた後。俺はローレンスの自室に顔を出した。寝台に隣り合うようにして端座位し、話を切り出そうとした。 「……あのさ、ローレンス」 「どうした」 「えっと、あの……」 「ん?」 「………」 「?」  う……いざとなると、言えない。ローレンスは俺のことを好いてくれているんだから、告白するといってもハードルは低いはずなんだけど、それでも伝えるには勇気がいる。  嘘で好きだと伝えた時は、もじもじする演技さえできる余裕があったのに。今は演技じゃなく、マジでそわそわして落ち着かない。心臓もばくばくと脈打って鼓動がうるさい。  とにかく緊張、する。言葉じゃなくて行動で伝えられないかとも思ったけど、まさかいきなりキスして押し倒すことなんてもっとできないしなぁ。どうしたもんか。  右手で左手の甲を意味なく擦っていたら、そういえば今は結婚指輪をつけていないんだよな、と改めて思う。そしてその時、ふと以前ローレンスに言われたことを思い出した。 『本当に俺のことを好きになってくれた時に、またつけてほしい』  俺ははっとした。――それだ!  勢いよく寝台から立ち上がり、「ちょっと、待ってて!」と部屋を一旦飛び出して、俺は急いで自室へ向かった。テーブルの上に置いたままの小さな箱を持って、もう一度ローレンスの自室に行く。 「ごめん、お待たせ」  小さな箱を後ろ手に隠し、またローレンスの隣に端座位する。どきどきしながら小さな箱を手元に持ってきて、中に収めてある結婚指輪を取り出し、――左手の薬指にはめた。  その動作に、ローレンスは目を見開いた。 「え――」  ローレンスも以前に自分が言ったことを覚えていたんだろう。俺の動作の意味を理解したようで、ただただ信じられない、そんな顔をしている。 「リ、アム……もしや話、とは」 「……うん」 「俺のことを……本当に好きになってくれたのか?」 「はい……」  俺は気恥ずかしくて、ローレンスの顔を見られなかった。それでも、きちんとこの想いを伝えなきゃならない、とぽつぽつと口を開いた。 「昨日の事件で人質に取られた時……俺、死ぬかもって思ったら、頭に浮かんだのがローレンスの顔だったんだ。ハグしておけばよかったとか、もっと一緒にいればよかったとか、後悔の念ばかりに襲われた。それで最期に一目会いたかったな、って思った時、ああ、俺はローレンスのことが好きなんだ、って気付いた」  事前にお義父さんから指摘されていたから、気付けたというのはあるかもしれない。お義父さんに言われていなかったら、俺は今でもきっと自分の気持ちが分からないままだったろう。 「いつからかは正直分からないんだけど、でも俺の中でローレンスの存在がすごく大きくなっていることがようやく分かったんだ。昨日の事件の後、ローレンスの顔を見てすごくほっとしたよ。俺はローレンスのことが好きなんだ、って強く実感した」 「そう、か」 「気付くのが遅くてごめん。散々振り回してきたしさ。ここ最近も、身勝手に避けて……不安にさせていたよな。本当にごめん」 「……その理由を聞いてもいいか」 「やっぱりまだ、馬車の一件が尾を引いていて……それに、サマンサさんの方がローレンスに詳しいから、俺、サマンサさんには敵わないなぁってずっと思ってて。劣等感っていうか、だから気持ちに余裕がなくて。サマンサさんからの手紙をすぐに読むローレンスが、俺よりサマンサさんを優先させているように思えて、嫉妬していた」  結婚指輪に視線を落としたまま、俺は正直に語り終えた。面倒臭い男だと思われたかもしれない。それでも本音を伝えなきゃ、ダメだと思った。  一拍置いて、ローレンスもぽつりと呟いた。 「……実は、父上から少し話を聞いたよ」 「え? お義父様から?」 「ああ。俺は家族よりあなたを選ぶし、あなたが嫌ならサマンサとももう関わらない。でもあなたが望むのはそういうことではないだろうし、きっとそれであなたの悩みが解決するわけでもないんだろう」 「………」  俺の左手の上に、そっとローレンスの手が重ねられた。 「これから先、ずっと俺の傍にいて俺を幸せにしてくれないか。それはあなたにだけしかできないことなんだ」 「俺だけにしかできない、こと……?」 「そう。俺の隣にはあなたがいてほしい。そして笑っていてほしい。それが俺の幸せだ。他の誰でもない、あなたにだけしか俺を幸せにはできない」  俺はゆっくりと顔を上げ、ローレンスを見た。優しげな瞳と目が合う。 「これから一緒にたくさんの思い出を作っていこう。そうすれば、いつか他の誰にも負けないくらいの思い出が俺たちの間にできる」 「ローレンス……」 「それではダメか?」  ローレンスの幸せには俺が必要で。もちろん、俺の幸せにもローレンスが必要で。  目の前の壁も二人で一緒に乗り越えていこう、とローレンスは言ってくれているんだ。  俺は涙声で声を振り絞った。 「…っ……ダメ、じゃない…っ……」  なんだか不思議だ。あれだけ思い悩んでいた重い心が、すっと軽くなっていく。  決して悩みが無くなったわけじゃない。だけど、それでも前向きに進んでいきたいと今なら思える。ローレンスと二人ならきっと乗り越えられると思える。 「なら、ずっと一緒にいよう」 「うん…っ……」  俺たちは見つめ合い、吸い寄せられるように、どちらからともなくキスをした。

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