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第3話 裁判の始まり
―――引き続き静かになった法廷
「では、ラティラ・カレイドよ。そなたの罪はわかっているか」
父王が気を取り直して再びそう告げた。
「はい。わたくしラティラ・カレイドは、学園の卒業パーティーと言う公の場でラピス・レガーロ公爵令嬢に婚約破棄を告げ、不当に吊るし上げ、やってもいない罪で侮辱しました」(※棒読み)
「んなっ!それはつまり、わかっていて不当にラピスを陥れたということか!」
ここで主人公・ルイスの発言。
「まずは落ち着きなさい。ルイス」
「うぐっ」
父王に手で制されルイスは渋々引き下がるが、隣に立つラピス・レガーロ嬢は不安げに俺を見つめてくる。あぁ、本当に美少女だわ。ラピス。インディゴブルーの流れるような艶髪は見事なものだ。スカイブルーの瞳は吊り目がちではあるものの、それはそれで顔の美人パーツを強調させており、いかにもな真の小説のヒロイン感満載の美少女である。
あぁ、何で俺こんな子を貶めちゃったのかなぁ。でも、タイプはグラディウス帝国の皇帝・アイルだから。俺はアイル一筋。ラピスと婚約破棄したことよりも、よりにもよってルチアと婚約宣言をしてしまったことが悔やまれる。あぁ、アイル。至らない俺を許してくれるか?
「ラティラ。何故、わかっていてそのようなことをしでかした」
「それが、彼女のためだと思ったからです」
「ほぅ?」
俺が何を言い出すのか興味津々な父王とは対照的に、俺の言葉に普段はクールキャラのルイスが怒りをあらわにする。うん、原作小説でもコイツはラピスのことになるとこうやってマジ切れするのだ。溺愛体質と言っていい。
「本気で言っているのか!あなたのせいで彼女がどれだけ傷ついたのかわかっているのか!?」
「若―――いっ!!」
俺はルイスに向かって声を荒げた。一瞬俺の斜め後ろ両側に控える騎士たちが身構えたのだが、俺が一歩たりとも動かないので手を引っ込めた。済まぬな、無駄な仕事をさせてしまったか。
「は?」
ルイスはきょとんとしている。コイツこんな顔もできたんだ。一応コイツも完璧超人王子なのだ。ただ俺がアホやったってだけで、互いに王位を競う派閥ができるほどには完璧超人王子なのだ。ただ、俺の方が後ろ盾がひっじょーに多く有利だったってだけで。
「苦労もせずに幸せになろうだなんて甘すぎるわぁっ!!」
「んなっ」
俺にそう怒鳴られルイスが怯む。
「えぇと、ラティラ。騎士たちが困っているから落ち着きなさい」
「はい、申し訳ございませんでした父上」(※棒読み)
騎士たちは先ほど2度目の空振りをしたところだった。
「ラティラ。どういうことか説明しなさい」
父王の鋭い眼差しが俺に向かう。
うむ、ここからが勝負だっ!!
「まず、俺がルチアと浮気をした件についてですが」
その話題と共に、ルイスの鋭い視線が俺に突き刺さる。
「これはひとえに、レガーロ公爵家からラピス嬢を守るためでした」
だからこそ、あの3人を五月蠅いから外に出してもらったということだ。この話題が出れば、絶対に更にうるさくなること間違いなしっ!審議が進まんっ!ってことで。
「どういうことだ」
「ルチアは昔から、ラピスのものをなんでも欲しがる癖がありました。おもちゃ、ぬいぐるみ、ドレス、宝石、そして友人、父親の愛情さえも、公爵家での居場所さえも奪ってきたのです。そして、ラピス嬢の婚約者である俺もそのひとりでした」
その俺の言葉に法廷がどよめく。そして当のラピスが驚いたように俺を見つめているのが視界の端に入った。何故知っているのだという表情だった。うん、だって原作小説に書いてあったもん。それにそれを裏付けるようなルチアの行動が今ならわかる。
「ですから、俺は敢えて反抗せずにルチアと浮気をすることにして、彼女への風当たりを減らすことにしたのです」
「だが、それが真実だとしてラピスはあなたに裏切られてどんなに傷ついたとっ!」
確かに。幼い頃から婚約者同士であった俺をラピスが拠り所にしていたという表記が小説にあったな。ラピスの母親が亡くなり、すぐに公爵は後妻とその娘でラピスと同い年のルチアを迎え入れた。それも、公爵の実の娘だ。つまりはラピスの母親が妊娠していた時に堂々と後妻ともハッスルしてたってわけだ。その事実に気が付いた幼いながらも聡明なラピスはどれだけ傷ついただろう。
そして、父親が政略結婚であった実の母よりも後妻の方を愛していたとわかった時の絶望はどれだけのものだっただろう。次第に後妻からの虐待を受け、ルチアから搾取され、父親の公爵からは見て見ぬふりをされた。
使用人たちも古参の彼女を庇うものは後妻によって辞めさせられて、屋敷内では確か長年勤めている家令と料理長がこっそりと彼女を支えていたはずだ。
更には王城での王子妃教育は大変だっただろうが、家にいるよりはましだと彼女は寝る間も惜しんで取り組んでいた。そして俺との週に1度の茶会を楽しみにしていたのを、小説の知識で知っている。ま、現実の俺はそんなこと知らずにルチアと浮気していたわけだが。
「では、何故!何故それを公にしなかった!」
ルイスが叫ぶ。
ま、これを秘密裏に断罪できたと言えば、できるんだけどな。
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