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第5話 ラティラの証人
―――法廷
「さて、証人が来たようですね」
俺がにこりと笑んだその時、父王の元に駆け寄る侍従が来た。
「なに?わかった、通しなさい」
そう、父王が伝えれば侍従が颯爽と駆け、法廷の扉を開いた。
そこから入ってきたのは、ちょっとしたお使いに出していた俺の側近・ルークである。そしてルークの腕には一人の女性が抱かれていた。
ぼさぼさの黒い髪を持つ、生気のない女性。その姿を見た父王とルイスは目を瞠り、そして父王が叫んだ。
「んなっ、まさかその顔は、す、スザナ!?」
「母上!?」
父王に続いてルイスが叫び駆け寄ろうとするが、それを俺が制する。
「治療をしても?」
「わ、わかった。頼む」
父王は俺の提案を呑み、こちらに向かって歩いてきたルークが“スザナ”と呼ばれた女性、もとい側妃でルイスたちの母を俺の前に連れてきた。俺は彼女にそっと手を触れ、聖魔法を放てば。
「ん、うぅっ」
女性がうっすらと目を開け、ルイスと同じ青い瞳を覗かせる。
「スザナ!」
父王は真っ先にスザナに駆け寄った。ルイスも共に。
「スザナ、私が分かるか!」
「へ、ぃか?」
「俺もいます!母上!」
「あ、ぁ、るい、す」
スザナは震えながらも必死に声を絞りだし、そして一筋の涙が頬を伝った。
そしてそんな感動の再会を邪魔する声が響く。
「んなっ、何でその女が生きているの!」
俺の母上・ベアトリーチェの声だった。
「“生きている”とはどう言う意味だ?ベアトリーチェ」
父王はその言葉を聞き逃さず、ベアトリーチェを見据える。
「スザナは行方不明となったが、未だにその身の安否はわかっていなかった。それなのに、何故」
「え、だって。普通は、そう思うでしょ?」
「私が何年経ってもスザナの身を案じ、探し続けているのを知っていて何故そのような」
「それはっ」
完全にベアトリーチェが側妃・スザナを敵視していたからなのだが。
「彼女の意識がはっきりすれば、母上の罪も明るみになるでしょう」
「んなっ」
母上は俺が全てを知っているという口ぶりに呆然としていた。
「あなた、ラティ!私があなたを王太子にするためにどれだけっ!」
そう、このひとはいつでもそのために必死だった。そしてなんでもやってきた。非人道的な行為も平気で。スザナをその手で始末せずに父王すら気が付かぬ場所に監禁し、生かしておいたのも何かあった時のためにルイスを脅すためだ。そして俺が処刑された後彼女はそれを、父上を毒殺してルイスを絶望のどん底に叩き落とし傀儡とするために使ったのだ。まるでモノのように。
「さぁ、存じ上げませんが」
「んなっ!私を誰だと思っているの!私はあなたのっ!」
「父上の側妃・スザナさまを監禁し、ルイスとゼンを虐待して脅して権力を得ようと企んだ罪深き母上ですよね」
俺がにこりと微笑むと、サアァァッッと母上の顔が青褪めた。
「ようやっとこうして、スザナさまの居場所を特定してお助けすることができました」
「何故、何故。誰も、誰も見つけられないようにしていたのに!」
今のは自白っすか、母上。
「何でよっ!」
何故裏切った。そう、言いたげな母上だが。
「俺には俺で、やるべきことがあるので。ルイスに王太子になってほしいと望みました。母上はきっとその弊害となるよう邪魔をするでしょうから。こうして母上の罪をつまびらかにしたわけです。間に合って、良かったです」
「う、う、に、偽物よ!」
「本物ですよ?ご自分が隠した場所を確認してみてはいかがです?帝国から秘密裏に持ち出したロストテクノロジーの中を」
「っ!!」
俺の言葉に、今度こそ母上が崩れ落ちる。
「ルーク、例のものはどうした」
「壊した」
「じゃぁ安心だな。父上。モノは正妃の部屋の壁に仕込んであります。多分ルークが破壊しているはずなので証拠の回収をお願いします」
「わ、わかった。急ぎ、回収を。ベアトリーチェを拘束せよ」
「はっ!」
父王の言葉に近衛騎士たちが颯爽と動いていく。
「そんな、そんな、この私がっ!ら、ラティラ、おのれ、おのれよくもおおおぉぉぉぉっっ!!!」
母上・ベアトリーチェの目は血走っていた。そもそも、前世の記憶を取り戻した俺が母上の肩を持つわけがない。なんせ俺に己の野望のため片棒を担がせ、更には俺が捕まったらとっととひとりで姿をくらましたひとだ。
だからこそかな。俺がパパっ子なのは。
母上の怒鳴り声は、騎士たちに法廷から引きずり出されてもなお残響のように轟いていた。
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