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第6話 ラティラの望み
―――法廷
俺の母上・ベアトリーチェが連行され、そしてスザナさまが別室で引き続き経過観察を受けている間、再びの再び法廷は仕切り直しとなった。
「さて、ラティラ」
父王の厳かな声が静寂を取り戻した法廷に響く。
「はい」
「私は最初、そなたは聖魔法を持ち更には帝国の皇族の血を引くが故に、その身を王国の管理下に置くため塔への生涯蟄居を命ずる予定だった」
「えぇ、だと思いました」
「そうか、やはりそれすらも見抜いていたのだな。そなたは私すらも辿り着けなかった真実に辿り着いた」
うん、まぁ全部原作小説の知識の受け売りなんだけど。それに母上のスザナさま幽閉の際に使われたロストテクノロジー・空間監獄と言うえげつない代物は、本来は物語のラストに明らかになるのだ。さぁ、全ては片付いたと思った時にルイスを絶望のどん底に叩き落とす。
あれは異空間に張り巡らせた監獄である。その昔、倒しきれない強敵や罪人を強制的に閉じ込めたと言われている。それは装置の隠し場所を見つけて破壊するか、もしくはその装置の起動者が死ぬと収監されたものは外に出られる。しかしその間に起動者が交代すれば再び新規の起動者が死ぬまで、もしくは装置が壊れるまで外には出られない仕組みになっている。
これは異世界ものでよくある空間魔法の失われた禁忌の代物。普通、生きているものは入れられないマジックボックスやマジックバッグの生き物用なのだ。そのようなえげつない代物は、現代の人類の技術では追いつけない。と言うか禁忌とされている。
そんな伝説上の禁忌のロストテクノロジーを彼女が得たのは偶然であったそうだ。古代の遺跡で見つかったそれは起動と維持に膨大な魔力を必要とした。その魔力の生贄のために多くの命が散ったのだろう。そしてその魔力がなくなればおのずと装置も壊れてしまう。恐らく帝国はそれ以外にも色々と持っていそうな気がする。皇帝・アイルもその一種の犠牲者と言っていいのだから。
「ラティラ」
再びの父王の呼び声に、俺は考え事をやめて顔を上げる。
「はい」
「そなたの計略には多くの犠牲が伴った。それは事実だ」
「えぇ、そうです」
「だが、それと同時に救われた者も多い。わたしもラティラのおかげで救われた。二度と会えないと思っていたスザナと生きて再会できた」
「はい。けれど結果的にラピス嬢をひどく傷つけたことには変わりはありません」
「確かに。ラピス嬢」
「はい」
父王に名前を呼ばれ、ハッとしてラピスが父王を見上げる。
「そなたは、ラティラに何を望む。意見を聞かせてくれ」
「私は」
彼女は、静かな目で俺を見据えた。
「私は、ラティラさまをお慕いしておりました」
彼女の目が潤むのが分かった。そしてルイスが複雑そうな表情を見せる。ルイスは最初からラピスのことが好きだった。一目惚れだったはずだ。―――原作では。
そしてルイスの様子を見るからに、ルイスは長い間彼女をずっと思い続けている。彼女の公爵家 が抱えていた闇は周到に隠されて、原作で明らかになるのはルチアを断罪してからだったっけ。まぁ、タイミングとしてはたいして変わらないけれど。
「けれど、ルチアと親しくするようになり、私に冷たくなったことで裏切られた思いでいっぱいでした」
「ラピス」
ルイスがそっとラピスに寄り添う。もうラブラブゴールインじゃねぇかお前ら。
「けれどラティラさまは私のために自ら悪役を買って出て、人知れず私を守ってくれていたのですね。それにも気が付かず、私は自分のことしか考えられずっ」
「いや、ラピス嬢が気が付いていたら計画が頓挫してたし」
と、俺がボソッと呟けば。
「そう、ですね。私も踊らされてしまいました。けれど私はラティラさまに深く感謝しております」
ラピス嬢は被告人の俺に深く頭を下げたのだ。純粋に、素直な謝意を表す礼を。
「だけど、お前はこのままルイスとくっついて幸せになれよ。せっかく王子妃教育頑張ってきたんだろ?」
「えっ」
間違ってもルイスの気持ちを台無しにしないためにも、そこは強調しておく。いや、俺のもとに帰ってくるエンドとかマジでないと思うけど。自意識過剰かもしれないがそれでもそうなってしまえば俺の皇帝・アイルたんとのイチャラブ計画が台無しにっ!ひいては世界滅亡にぐぐっと近づいてしまうのだ!
「やはり、ラティラさまは全てお見通しなようです」
―――いや、俺が見通しているのは原作の知識だけだ。
「私は、私はラティラさまに感謝こそすれ、ラティラさまが罪を背負うことを望みません」
「原告のラピス嬢がそう言うのなら、此度の訴えを取り下げることもできる」
確かに、父王の言う通りそもそもの原因は俺のラピス嬢への侮辱だ。あとは王命の勝手な放棄。しかし王命の勝手な放棄の処罰だけではだめだ。
「ですがその場合、ルチアやその両親を道連れにできません」
まぁ、いずれラピス嬢へのあの家の連中の罪についても、父王とルイスが動いてレガーロ公爵家の家令と料理長、そしてその家族を保護した上で明るみに出してくれるだろう。
「そうだったな。そなたはそれを目論んでいたといってもいいな。そしてやはり気になるのは、先ほどベアトリーチェに言っていたそなたの“やるべきこと”についてだ。そなたが罪を甘んじて受け止めることでやりたいこととは一体何だ?」
「えぇ、俺をグラディウス帝国の皇帝に嫁がせてください!」
『え』
法廷の空気が、凍り付いた。
俺、氷属性なんて持ってないんだけどおかしいな。
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