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第7話 判決とその後
―――法廷
「俺をグラディウス帝国の皇帝に嫁がせてください!」
「げほっ、ごほっ。その、理由を聞いてもよいか」
父王がむせながらもそう問うてきた。
「まず一つ目の理由が、ベアトリーチェに相応しいであろう罰を下すことができるからです」
帝国の皇族であるベアトリーチェは罪状から考えても極刑が相当だろう。やったことがやったことだ。それに今確実に罰を下さなければおのずと父王を毒殺する。あるいは相当量のことをやってのけるだろう。例え塀の中にいようともあのひとはそうするはずだ。
だが、彼女が帝国の皇族であるからこそその罰を科すのが難しい。帝国の皇族を極刑に処せば、帝国との軋轢を生むかもしれないからだ。
―――そこで俺だ。
「帝国は表には出しませんが、優れた聖魔法使いを必要としています」
皇帝・アイルが聖魔法を必要としている。
「皇族の血を引き聖魔法が使える俺を帝国に送れば解決します。大罪を犯したベアトリーチェと罪は犯したものの皇帝が必要としている聖魔法使いのどちらを帝国が取るか、それはわかりきっています」
「確かに、な」
父王も頷く。
「だが、ラティラは国でも2人しかいない聖魔法使いだ」
「いいえ。その点については修正があります。まず、ルチアは聖魔法使いではありません」
「どう言うことだ?」
ルチアは聖魔法使いとして国に認められている。だが違う。それを本来受け継ぐべきものがいるのだ。
「ラピスを急ぎ王族籍に入れてください。そうすれば真なる聖魔法使いが明らかになります。我がカレイド王国が聖魔法使いを得ることができ、また帝国も手にすることができます。まさしくウィンウィンでしょう?」
その言葉に、一同が目を見開きラピスを見やる。
「あ、可能性としてなので。まずはラピスを王族籍に入れてから今一度ルチアとラピスの聖魔法使いの鑑定をお願いします」
「わかった。かねてよりラティラの卒業と共に婚姻を結ぶ予定であった。もちろんラピス嬢とルイスの意思も確認したい。断ってくれても不利益を被らないようよう保障しよう。そしてラピス嬢への公爵家の罪も必ず明らかにして処断する」
「父上、私はもちろん承諾します」
「私もです、陛下」
うん、思ったより迷わなかった。これでふたりの未来はひとまず何とかなったかな。
「では、早速手続きに入ろう。ラティラについては、本日付で仮釈放とする」
「はい、陛下」
ま、そうはいっても出歩いたりはしないけど。父王も分かっていて言っているのだろう。そしてもしもの時のために皇帝に嫁ぐ準備をしなくては。
―――数日後
ラピスとルイスが正式に婚姻し、すぐにラピスに聖魔法が顕現し、そしてルチアが力を失った。これはもぐりの魔法使いに頼んで違法にラピスの魔力をルチアに移していたからだ。そしてそれはラピス・レガーロとして契約しているので王族籍に入りラピス・カレイドとなったことで契約が切れたのである。
よって、後の裁判で公爵家の3人は有罪となり、共にラピスを苦しめた使用人たちも捕縛された。ルチアは修道院送りと言う選択肢もあったのだが、全く反省の色が見えなかったためルイスは厳罰を訴えた。そしてルチア、その両親は身分剥奪の上平民になり終身刑で強制的に肉体労働が科されるらしい。使用人たちは無期懲役刑となった。
なお、ラピスの味方であり続けた家令、料理長とその家族は宮廷に召し抱えられ、今は王子妃となったラピスに専属で仕えているらしい。
その後、帝国との取引で俺が嫁ぐことで正妃・ベアトリーチェは極刑となり処刑された。ま、前科持ちなので聖魔法使いだけども荒れるかなぁと思ったのだが。割とすんなり受け入れられた。
何でかなぁと思っていたら、新聞を見せられて噴いた。
俺は何と国の英雄扱いになっていた。ラピスとルイスのために献身的にその身を犠牲にし、そのまた正妃が犯した罪を償うため自ら聖魔法とその身を帝国に捧げる決意をした俺は、思いっきりほめたたえられていた挙句、父王からの恩赦で無罪放免になっていたのである。
んなっ、バカなっ!
やっぱりパパっ子の息子のために父王が頑張ったのだろうか。
そして、暫くすると俺の元にルイスが現れた。今までは敵陣営だったものの、今では完全に俺にしっぽを振っているような気がする。
「ラティラ兄上」
「は、はい?」
何だかすごい真摯な目で、跪いて見上げられた俺は固まっていた。
「今まで誤解をしてあなたにきつく当たったり、敵意を向けて申し訳ありませんでした」
「あ、いや?まぁ、敵を騙すにはまず味方からって言うじゃん?」
全ては終わり良ければ総て良しなのだ。当時はそんなつもりは全くなかったわけで。ルイスの認識は正しかったのだ。だから!き、気にしないっ!!
「味方、ですか。兄上はずっと俺とラピスのために尽くしてくださっていたのですね」
「う、うん?」
「兄上がラピスに手ほどきをしてくださり母上の治療を担当して、母上も随分と元気になりました」
「あぁ、それは良かったな」
スザナさまは暫くは静養になるが、いずれは王妃として復帰するという。第3王子のゼンも喜んでいるようだし。
「兄上。どうか帝国へ行ってもお元気で。カレイド王国のことは俺に任せて安心してください」
「あ、う、うん。ルイスならいい王太子にも王にもなれるさ」
「はい!兄上。帝国へ行かれてもまたお手紙をお書きしますね!」
当然のことながら差出人が確かなら手紙のやり取りはできるらしいし。今後の展開のこともあるから情報交換は必要だ。帝国に召し抱えられると言っても側妃だろう。カレイド王国とは違って後宮の外に出ることは一生かなわぬかもしれない。だからこそ外のことを知る伝手は必要だ。ま、ルークも付いてくるから安心だし。
「うん、俺も手紙書くよ」
そう言って、笑顔で手を振り合いながらルイスが俺の部屋を後にする。
ふぅ。何とか断罪は乗り切ったな。
後は帝国に嫁いで皇帝・アイルたんを聖魔法で救うだけだな。その他は冷遇されても放置されても、アイルたんの嫁と言う肩書だけでも俺、生きていける気がする。帝国でも頑張ろう。
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