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第9話 皇弟殿下

―――帝国城・貴賓室 「それで、お話とは?」 出された茶に何の躊躇いもなく俺は口を付ける。毒物などの心配をしないのかといえば、俺は優れた聖魔法の使い手なのでその手の類は自動で体内で浄化されるのだ。 「単刀直入に言いますが。あなたにはスパイ容疑がかかっております。なお、抵抗などしないでくださいね。ここにいる部下たちは少々手荒いので。聖魔法使いのあなたには不利でしょう。それも護衛はひとりだけ」 確かにな。ルークの正体を知らなければそう思うだろうよ。因みに俺は剣はできるが現在持ってきていない。扱える魔法も聖魔法。ま、コントロールはパーフェクツッだが。 コイツらがどう言ったやつらかは知っているが、ルークにかかればあっという間に片付く。それに臆す気はない。 何故なら俺はどうしてもっ、アイルたんの嫁になりたいのだっ!せっかくここまで来たのに嫁になれないとか嫌だしっ!! 「それは、何故です?」 「ふふっ、あなたが法廷で語ったことは裏が取れています」 密偵放ってたか。ふんっ。てか、気が付いてたなら教えろよルーク!アイツは絶対に気が付いていた!! 「“皇帝陛下が聖魔法を必要とされている”。そう、語られましたよね」 「えぇ、語りましたよ?必要だと思われましたので」 「それは何故、でしょうか」 あぁ、俺が何でアイルたんの秘密知ってるって?嫁になりたいほどズッキューン♡だからに決まってるだろ。 「皇帝陛下ですよ?日々の疲れ、腰痛、頭痛その他もろもろ、聖魔法は便利です。それも俺は最高峰の使い手ですからね。きっとお役に立てます」 「その説明で納得するとでも?何故、王太子の座を捨て我が帝国に来られたのかと聞いているのです。本来ならばラピス・カレイドでも良かったはず。新人の聖魔法使いを取っておいて、熟練した聖魔法使いを寄越すのは不自然でしょう?」 いや、それはルイスとラピスがラッブラブだからだよっ!それにルイスの方が王太子に相応しい。そして第1の理由は。アイルたんは男にしか勃たねぇんだよっ!弟のくせにそれを知らんとは。そう言えば、アイルたんが原作でルイスを抱こうとしているのにめっちゃ反発をしてたな。いや、単にルイスにヤキモチ妬いていただけで知ってたのかな。まぁ、よくわからんが。 ―――でも、それではダメなのだ。 皇帝・アイルに必要なのは聖魔法使いの聖魔法。しかしアイルが肉欲的に求めるのは男の体。つまり原作のアイルはラピスを互いに望まずに体を重ね、そして本来の欲求を満たすためにルイスを抱くのだ。でも、アイルがルイスに本気で恋しているようには思えないんだよな。女を抱いてしまったからそれを帳消しにするために無理矢理やったような描写だった。 そんなの哀しすぎるじゃんアイルたん!俺ならどっちもできる!アイルたんに必要な聖魔法とこの男の肉体を捧げられる!それも、身も心も捧げてみせるよアイルたんっ!! ―――例え、アイルたんに愛されなくても俺はアイルたんを愛してる!嫁と言うだけで俺は満足だアイルたあぁ~んっ!! 「―――ふぅ。先代皇妹の処刑と引き換えに俺の嫁入りを許可したのはそちらでは?あ、逆ですかね」 「確かに」 「帝国側がそれを許可したのは先代皇妹の勢力が未だに帝国で優勢であり、皇帝アイルた、いや陛下にとって対抗勢力となっているから。陛下サイドとしてもその勢力を削ぎたかった。けれど先代皇妹を極刑に処すことを無条件で許せばその勢力が不平を漏らすでしょう。だからこそその息子であり、希少な聖魔法の使い手である俺を迎えることでその不満を押し殺した。違いますか?」 「―――ふっ。どうやら報告は本当だったようですね」 コンラートがにやりとほくそ笑む。ついでにこれは本性の一歩手前ね。 「あの先代皇妹・ベアトリーチェの御子はたいそうなうつけだと聞いていましたが。先日の法廷の件があって以来我が帝国では一気にあなたへの見方が変わりました」 「でしょうね」 「そのままのうつけならば、ベアトリーチェの勢力が傀儡として利用しようとしたでしょうが」 「そうですね。その場合は王位継承権を剥奪の上、塔に幽閉されたでしょうが。ベアトリーチェへの協力者が俺を塔から逃がしたはずです」 まぁ、その場合は俺がルイスに殺人未遂を犯すため、彼らが帝国に連れ帰る前に俺は処刑されるのだが。 「そしてそんなうつけなら、自ら王位継承権を放棄し、そして帝国に嫁ぐなどと言う選択はしなかったでしょうね」 「確かに。仰ることは正しいですね」 そうならなかった場合は、限界に達した皇帝・アイルが聖女・ラピスを無理矢理誘拐して犯すのだ。そして聖魔法を使わせる。そして聖女・ラピスを無理矢理抱いた後、口直しのために助けに来たルイスを抱くのだ。 「俺のことをスパイだと言ったのは、俺がベアトリーチェが残した勢力と繋がっていると言いたいので?」 「おや、鋭いですね」 因みに俺のスパイ容疑、ベアトリーチェの勢力については小説の知識外である。バカっぽくなっていた俺だが本来は優秀なんだよ。優秀な王子なんだよ。信じて~。 「はっきり言いましょう。今のところ彼らからの接触はありませんし。それに」 「それに?」 「俺はアイルたんの嫁になれればそれでいいですっ!!」 ガチャリッッ!! 思いっきりカップをソーサーに叩きつけ(※お行儀悪い)、俺は目を見開いて威嚇を放った。そう、推し押しビームと言う名の必殺技を(※実際は単なる推しに賭ける熱いまなざしである)放った。

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