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第10話 後宮入り
―――帝国城
「ただいま」
「あぁ、早かったな」
皇弟・コンラートにやっぱりコイツバカなんじゃないかと言う眼差しを浴び、俺は解放された。ここからは後宮にご案内されるらしい。
コンラートの狂犬騎士が案内役を買って出てくれた。相変わらず監視体制と言うわけか。別にいいもんっ。俺はアイルたんに思いを馳せられればそれでっ!!
「ひとつ、お聞きしても?」
「どうぞ」
狂犬騎士に不躾な質問を浴びたとしても特に気にしない俺。だって狂犬化した時にコイツら恐いんだも~ん。なるべく波風はたてないようにしないと。ここはある意味アウェーなのだから。
「あなたは故ベアトリーチェ先代皇妹殿下の処刑に物申さなかったと聞いております。むしろそのためにこちらに自ら嫁がれることを選んだのだと」
「それが何か」
「母子の情はなかったのですか」
狂犬騎士にそれを聞かれるとは思わんかった。
「さぁ。俺はパパっ子なので。国王陛下がお決めになられたことには特に反対はいたしません」
「ふっ、そうですか。パパっ子ね」
うっせぇ、笑うなや。お前らの上司お兄ちゃん大好きっ子だろうが。ブラコンラート皇弟殿下だろうが。口には出さずに満面の笑みを浮かべておく。
―――後宮内
さて、狂犬騎士に後宮内に案内されルークと二人っきりになった俺たちは早速荷解きに移る。先ほど荷物を運び入れ終わった送迎担当たちに別れを言い、彼らは帰国の途に着いた。
まぁ、男性同士でも魔法で妊娠可能な世界である。後宮も男用、女用に分かれているハイスペック・ザ・グラディウス帝国。
女用後宮には現在、帝国内の有力貴族、属国などからの令嬢・王女が皇帝の妃候補として生活しているらしい。その中から恐らく皇后や皇妃などが選ばれるのだろう。
男用後宮へ入ったのは俺だけらしい。俺は別に皇后や皇妃は望まない。しがない側妃で構わない。そして俺は候補ではなく正式な皇帝の妃として嫁いだのだ。
ひとりしかいないとはいえ、後宮や妃としての仕事もこなさなければなるまい。そこら辺は元王子だから少しは何とかなる、と信じたい。
ま、お渡りがなくともあろうとも、アイルたんのお役に立てるならいいかぁ。
それに、アイルたんは俺の聖魔法に頼らざるを得ない。聖魔法目的でも来てくれれば、そのアイルたんをこの目に、脳裏に焼き付ける!俺はそれだけで満足だ、うん。
「なぁ、ティル」
「何、ルーク」
ルークは普段は俺のことを愛称で呼ぶ。故母上は“ラティ”と呼んでいたが。ルークは昔から“ティル”と呼ぶ。俺もティルの方が気に入っていたりするのだ。
「俺は疲れたから暫く寝るわ」
と言って、クッションを枕にソファーに横になって寝だす俺のぐーたら側近・ルーク。ほんっと仕事しねぇな、コイツ。ま、いいけども。
まずは服を出していかなければ。
一着礼装は出しておくか。謁見があるかもしれないし。
後は寝巻と普段着を何着かすぐ着られるように出しておいて。後はクローゼットに箱ごと運んでおくっと。その他は調度品や日用品である。
俺の後宮用のお部屋は王子の部屋よりも広かった。後宮ってすごっ。帝国の後宮って広っ!
それとも現皇帝・アイルたんの男の妃第一号だからかな?一番いい場所を取れたとか?だったらいいなぁ~。
ふっふふ~ん♪
「ルーク、お前の荷物は侍従部屋に運んどいていい?」
「あぁ、そうしといて」
「うん」
せっせと肉体労働をこなす俺。
―――いや、てか、何で側近の分まで俺が荷物運んでんの!?いや、着いたばかりでやることないしいいけどもっ!適度な運動も大事だけども!
そう言えば俺の寝室はっと。すとんっ。
おぉっ!キングサイズベーッドッッ!
わぁ、ふっかふかぁ~。今日は寝心地良さそう!
「へぇ、良さそうなベッドだな」
何だ、ぐーたら側近・ルーク。
「言っとくけどお前の寝室はあっちだぞ」
「知ってる」
侍従用の部屋にベッドも用意されている。それも高級なベッドが。
「俺はそっちで寝てくるわ。荷物運び終わったんだろ?」
「あぁ、うん」
「ふぁ~」
欠伸をしながら侍従用に用意された部屋に向かうルーク。いや、荷物入れ終わるの待ってたのかよお前っ!!
そうだ、そう言えば厨房はどうなってるのかな。因みにそこも男用と女用で分かれている。
―――厨房
ガラーンッッ
誰もいない!そりゃそうだ俺しかいないんだから!くぅっ!ラピスの家の料理長スカウトすべきだったか!いや、それはラピスに悪いしな。
あ、でも食材は毎日届けられるらしく、今日の食材の納入は終わっていた。
―――作ろう。
幸い、前世で料理をしていた記憶がある。大体なら作れるはずだ。うん。
せめて料理担当を連れてくるべきだったと思いつつも、洗濯についてはランドリーに出せばいいだけなので良かったと思う俺であった。
後はアイルたんを想像しながら愛妻料理でも作ろうかなぁ~。
―――食べてくれるのはあのぐーたらルークだけだけどなっ!!
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