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第12話 深夜の強襲
―――後宮内・寝室。
―――はっ!!
何だ!?誰かの息づかい、か!?
「―――ぇか」
俺は誰かに覆いかぶさられていた。
暗闇の中でも嫌と言うほどに妖しく輝く真っ赤なルビーのような瞳。
「ぁ、アイル、たん?」
「―――たん?」
あああぁぁぁ―――っ!!!しまったぁっ!!ついつい今までの癖が出てしまった。
「えっと、陛下?―――んむっ!?」
ぢゅぱっ
唇に重ねられる柔らかい感触。まるで肉欲を抑えきれないように滴る唾液が落ちてきて、俺の唇や口のナカを濡らす。
「んんっ」
ぢゅぷぢゅぷとむしゃぶるように唇をしゃぶられ、そして無意識に開いた唇の隙間からぬとりと生ぬるいものが降りてくる。
生ぬるいそれは俺の舌を絡めとり、まるで分泌される唾液をありったけ搾り取るかのように執拗に巻き付いてくる。
そして絡みついてくる舌に招かれるようにして俺の舌が吸い上げられ、直接舌から分泌される唾液をしゃぶるかのように吸われる。
「んむ~~~っ」
「んんっ―――うまい」
まるで全てを吸い尽くすように途中力を込めながら離れていく唇が俺の舌を解放すれば、そのむしゃぶるような口づけを落としてきた主は、そう呟いた。
―――確かに、原作でも聖女を襲ってそう言うことを言っていたっけ。彼にとっては聖魔法の魔力はそう感じるらしい。
原作通りでよかった。これでラピスは少なくともルイスと幸せになれるな。
「へ、陛下」
俺はいきなり俺をむしゃぶってきたその主を静かに見上げる。ルビーのような真っ赤な双眸は肉欲を滾るのを抑えきれないようにギラついている。暗闇になれてきた俺の目がその輪郭を更にはっきりとさせていく。
本来ダークグレーの髪は闇に溶け込み切れず、仄かに闇よりも薄い色を保っている。顔のつくりはととのっており、原作通りの妖艶な魅力を持つ美青年だ。そしてその肌を覆うように彼を蝕む闇の因子は、首の肌を完全に覆いながら頬まで伸びている。
しかしながら、やっぱり。―――やっぱりアイルたん尊いっ!その憂い気に俺を見降ろしてくる表情とかマジいいっ!原作やコミカライズでは見られなかったアイルたんの生顔じゃああぁぁぁいっ!おっしぇええぇぇ―――いっ!!
―――俺は心の中でガッツポーズを決めた。
「―――何だ、その“アイルたん”、とか言うのは」
へ?
「数週間前から頭に絶えず響いてくる」
数週間前?俺の裁判が行われたのも数週間前だ。そして嫁ぐための準備などにいろいろかかり、帝国への移動も含めて数週間は経っている。つまり俺が前世の記憶を取り戻して、“アイルたん”への愛を叫んでいる期間とも同じでは?
んまっ、まさかアイルたんには原作に無いシークレットスキルがあるのか!?
「俺の、心の声聞こえるのか?」
アイルたんマジ尊し、アイルたんマジ尊し。いと尊きかなアイルたん。これ、全部聴こえてる?
「―――いや、お前が“アイルたん”を連呼するのが聴こえる、だけだ」
んなぬぅっ!?それはつまり、心の中でルギウスルイツァリオンを叫ぶのと同じ!!
―用もないのにやめろ、俺は今眠い―
んぐおおおぉぉぉっ!ルークぅっ!お前は何でいつもぐーたらなんだよっ!俺今絶賛寝込みを襲われ中なんですけど!?
―んぁ?皇帝相手に交尾するのがお前の役目だろ。くだらんことで呼ぶな―
どうやらルークとはルギウスルイツァリオンを叫ぶことで心の中でもテレパることができるらしい。
―だからいたずらに呼ぶな―
うぇーい。ってか、お前のその認識は何なんだ!確かにそれもお役目だけど、俺は一応妃の仕事もしてんだからねっ!!
全くウチのルークは。はい、脳内テレパり会議終了!お休み!
―くーくーくー―
いや、既にアイツ寝てっし。少しは主君を心配しろっての。さて、本題に移ろう。
「あ、じゃぁ、“アイルたんマジ尊し”の“アイルたん”だけ聴こえるってことですか?」
「そうだ。だが“マジ尊し”とは何だ」
アイルたんの目がすっと細められる。そんなアイルたんも妖艶でステキっ!!
「俺が如何にアイルたんを尊いと思っているかを示している表現ですが!」
「お前は何を言っている」
―――推しを、愛でる言葉だ!
はぁ~、アイルたんマジ尊し、アイルたんマジ尊し、アイルたんマジ尊っ
んぢゅぷっ
「連呼するな」
「ひゃひっ」
ぢゅっ、んちゅっ
その後もアイルたんは俺の唇をちゅぷちゅぷとむしゃぶり、頬をしゃぶったり、耳たぶをしゃぶったり。
「あの、陛下」
「やめろ」
「ふぇ?」
「頭の中に散々連呼しておいて、表面だけそのように繕っても無駄だ」
つまり、公式にアイルたん呼びをしていいということかっ!?
「ん、アイルたぁんっ」
俺はアイルたんに愛撫されて最高に気分が良かったため、めっちゃ上機嫌でその名を呼んだのであった。あぁ、アイルたんマジ尊し。
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