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第16話 一夜明けて
―――だ、だるい。だるすぎる。
俺は昨夜のことを思い出し、そして頬を紅潮させるもどんよりとした目で後宮の豪華な天井を見上げていた。そして俺の体を抱きしめるようにして隣で寝ているのは。
グラディウス帝国皇帝・アイルそのひとであった。
すっかり夜が明けて寝台の上ですやすやと程よい寝息を立てているのは、漆黒の闇に染まり切らないダークグレーの髪に雪のように白い肌を持つ美青年だ。しかしその首から下の肌はどんよりとくすんでいる。うん、これでも昨夜俺の聖魔力をふんだんに貪ったため随分と薄くなったのだろう。
アイルた、いや、グラディウス帝国皇帝陛下が聖魔力を必要としているその証拠が、この陛下の肌を覆うくすんだものにある。
―――そして、これは定期的に聖魔力を補充しなければ、皇帝陛下を永遠に蝕み続ける。
だからこその俺の存在なのだが。
あぁ、アイルたん尊い。寝顔すらも尊い。めっちゃ美しい。あぁ、最高。今でも夢のようだ。謁見には呼ばれないし会いに来ないし。アイルたん来ないかなー、来ないなーとは思っていたもののっ!何故急に夜這いのようにして昨夜現れたのかっ!―――その点はよくわからないが。
「んっ」
俺はアイルたんの腕を抜け、そしてむくりと体を起こす。昨夜、聖魔力をアイルたんにこってりと搾り取られた俺は、めちゃくちゃだるかった。
「朝飯作るくらいは、残ってるか」
うん、まずは朝飯に。ベッドから降りようとすれば、途端に腰に何かが巻き付いた。ふと見てみれば。
あ、アイルたんの腕―――っ!!
「ん……ティル、何故、逃げる」
「ふぇっ!?」
我が愛しのアイルたんがうっすらと瞼を開き、その神秘的なまでの赤い瞳を覗かせていた。
「あの、朝ご飯を作りに」
「何故、お前が」
まぁ、そりゃぁ妃自ら料理は普通せんわな。まさか自国から料理人を連れてくるのを忘れてたとは言えまい。
「えっと、アイルたんへの愛夫 料理っ!」
てへっ、とかわいらしく微笑んでみた。
「は?」
うおぉ。アイルたん。眠たげながらも完全に「?」である。
「あ、アイルたんは何食べたい?食材にもよるけど」
「いらない。どれもまずい」
ぐはっ!!さすがはグルメなぐーたら側近・ルークをもあきれさせた食への無関心っ!何故、ここまでっ!一体何がそんなに我が愛しのアイルたんを歪ませたというのかっ!!
「い、一度食べてみて。一応俺、聖魔法使いだから。作ったものはしっかり浄化してるし毒や食中毒とは無縁だよ?」
「―――ティルが、自ら作るのなら、食べてやってもいいが」
おぉっ!マジで!?俺のことをそんなに信用してくれているんだろうか。けど、何故そんなに?少し釈然としなかったが、それでもアイルたんが俺の料理を食べてくれるのなら!
「それじゃぁ、少し待っていて。準備ができたら呼ぶから」
「では、キスをしてくれ」
―――え?
「キスをしてくれないと、俺は寂しい」
んなあぁぁっ!?いきなりの推しの寂しがり屋甘えっ子モードっ!!当然ながら原作では敵キャラのひとりであるアイルたんがそんな一面を見せてくれたことなどない。現実のアイルたんは、小説のアイルたんよりも最高だ!いや、現実なのだから当然だ。俺はいま隣で俺のキスをねだってくれるアイルたんが大好きだっ!!
「そ、それじゃぁっ」
俺がキスをしようとアイルたんの方へ向き直れば。アイルたんも腕の拘束を緩めてくれて。俺は上から覆いかぶさるようにしてアイルたんの唇に自身の唇を重ねた。
「んっ。いいな」
「そう?嬉しい」
最初は俺の聖魔法だけでも求めてもらえれば嬉しいと思っていたけれど。
―――何だろう、これってまさかの溺愛モード!?
本当にほぼ初対面のはずなのに何故溺愛モード!!
なお、パーティーや夜会などで会うことはあっても、彼は一国の皇帝である。おいそれと世間話ができるような関係でもない。父上に続いて挨拶をするくらいの関係なのに。それなのにアイルたんが俺にこんなにも甘ったるく接してくれるのはどうしてだろうか。
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