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第30話 パーティーのひととき

続々と来る出席者に挨拶を返し、返し、たまにアイルたんめっちゃ不機嫌、また挨拶、また挨拶、アイルたん不機嫌、喉を潤すためドリンクをぐいっ。 「お久しぶりです、皇后陛下」 「あぁ、アシェ殿下もお久しぶりです」 「妹からは、よく陛下のことをお伺いしております。目をかけていただいて、我がヴィンテル王国としても嬉しい限りで」 「いや、ツェツィの実力を正当に評価したまでです」 現在挨拶に来ているのはグラディウス帝国属国ヴィンテル王国の国王・王太子一行である。王太子のアシェ殿下とは俺は知り合いなので親し気に挨拶していたのだが。 「あまり皇后陛下を独占しては皇帝陛下に申し訳ないので」 「え?あぁ、はい。後程土産をそちらにお届けしますので」 「はい、楽しみにしております」 そう答えると、ヴィンテル王国の一行はそそくさとその場を後にした。何だったんだ?ドリンクごくごく。んっ、炭酸強いな。飲み過ぎたかも。 「―――ティル」 はっ!このイケメン低ボイスはっ!! 「陛下」 むっす―――。 「(あ、アイルたんっ)」 ここでさすがにアイルたん連呼はできないので、こそっと囁いてみる。 「あぁ、ティル。もっとティルに触っていたい」 そう言って、アイルたんが俺の頬に手を伸ばす。頬を優しく指で撫で、そして顎に指を伸ばせばくいっと顎くいを決めてくる。 「やはり、早く椅子を改良しようか」 「ん、うん?」 頷いてみたものの、その向こうにいる宰相の目がギラっと光る。今、他の招待客と話しているのに、一瞬で素早く俺の方を睨んできたぁ―――っ!!!あのひと、100人くらいが同時にしゃべってても聞き分けられそうだな。 あぁ~、んもぅ。また喉渇いたー。んくんく。 「皇后陛下、少し飲み過ぎでは?」 後ろからユーリが声を掛けてくる。 「んんっ?だいじょぉぶっ!お手洗いならまだへーきぃっ!」 「えっ」 何故かユーリが目を見開いて、ルークを見やるが。もぐもぐもぐ。 「宮廷料理長のスイーツもなかなかだな」 何でお前は護衛そっちのけでスイーツ食べてんのっ!!いや、アイツならケーキビュッフェ楽しみながらも護衛できるけども!サラマンダーが100匹同時に攻めてきても見ないで蹴散らせるけども!そう言うやつだってわかっているけども!そして大体の人間が、このコイツの行動をなんとも思わないのである。それが、ルークと言う存在で。 「何でスイーツ食べてるんですか?ルークさん」 あれぇっ!?ツッコんだ!?ユーリ、ルークにツッコんだ!?す、すごい。コイツの異常さを見抜けるだなんて。やっぱ優秀だ。ユーリは物凄い優秀だ。宰相の顔をくるっと覗いてみると。 ―――むすっ。 すんません、そっちが声かけようとしてた人材かっさらっちゃって。でも大丈夫、ユーリはこっちで幸せそうに働いてるからぁ~っ! 「いやぁ、お久しぶりですなぁ。皇后陛下ぁ~!今回は帝国に嫁がれたとのことですが、いつも通り例のものを土産に持って来ましたゆえ」 「ん~?」 あ、サザン諸島の国王夫妻じゃん。後宮で妃候補として生活してるナディア姫の両親だな。帝国とはもちろんやり取りがあるし、ウチの国とも国交がある。そのきっかけは国際会議でサザン諸島に俺が王子として赴いた時に気に入ったとあるものの影響である。 「あぁ~、例のあれねぇ~!嬉しぃ!ナディア姫も好きだろうか」 「えぇ、娘ももちろん好きですよ。サザン諸島民ですからね!」 「ならぁ~、作ったらお鍋をおすそ分けしてあげよぉ~」 「えぇ、皇后陛下は我が国でカレーをお召し上がりになられてからたいそうお気に召していただいて、調理人がいないからという理由で自らその作り方を習いに来られたこともありましたからな」 「うん~、作るぅ……」 「では、我々はこれにて」 「あぁ、またなぁ~!」 そう、笑顔で手を振っていたら、サザン諸島の国王夫妻がルークと何か話してる?そしてそれにユーリも加わって、何かあったのか? サザン諸島の国王夫妻が去っていくとユーリが急いで宰相とコンラートに駆け寄っている。 「ティル、ティル」 ―――ん? 「あぁ~、アイルたんが呼んでるぅ~」 うん?陛下? 「あぁ、俺の名を呼んでくれて嬉しい。顔が赤いが、熱でもあるのか?」 「ん~、それはぁ、アイルたんがちょーカッコいぃからぁ!えへへ~っ!なんちゃってぇ~」 俺はまだまだ大丈夫だよ、陛下。 「ね、もしかしてアイルたん、誘ってるのぉ~?」 「あの、兄上。ちょっと」 「何だ、コンラート。今ティルがかわいいところだ邪魔するな」 何故かコンラートがアイルたんの耳元で囁いてる。なんだろ? 「皇后陛下にはここでご退席いただいてください」 「ご退席ぃ?なぁにぃ?ブラコンラートって、ツンツンしているだけで本当は俺と遊びたいのぉ?」 「は!?」 え、何?コンラート、図星なの!?お兄ちゃん大好きっ子が、まさかの!? 「コンラート」 「あっ!アイルたんがたったぁ~」 何故かアイルたんがすっくと立ちあがり、圧を放ちコンラートをねめつけた。 「あっ、兄上誤解です!!俺は兄上一筋ですぅっ!!」 「ブラコンラートめー!素直じゃないなぁ~」 「何を言うかっ!兄上を誘惑する女豹めがっ!」 「メバチマグロくれるのぉ?」 「―――いや、何言ってんだアンタ」 「い、いいからお義兄さまを下げてください!ルークさんっ!!」 何かラピスの声が聴こえる気がぁ―――。 ん? 何か周囲の視線が俺に集まって、男女構わずみんな呆けたような表情をしている。あ、いけないいけない。ここはアイルたんの妻として、しっかりと笑顔を振りまかなくちゃ。 にこぉっ。 「陛下!皇后陛下を抱っこしていますぐ裏に下がってください!」 宰相の鋭い声が響いたと思えば。俺の体はふわりと浮き上がり、目と鼻の先には。 「あっ、アイルたんだぁ~」 アイルたんがすごく近くにいる―――。俺はそんな幸せな気分に浸りながら、心地よい揺れに身を委ねたのだった。

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