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第32話 目を覚ませば。

「んっ、アイルたんっ!それ以上はぁ~~~。あぁっ!んもぅ、情熱的ぃ~~~、―――んにゃぁ?」 「お目覚めですか、主君」 ここは、後宮の寝室?ベッドの上か? そして、ベッドの脇に腰掛けて俺を見降ろしているのは。 少女にしか見えないその人物は、艶のある黒い髪を左右でお団子に結い上げ、吊り目がちな瑠璃色の瞳を俺に向けている。 服装は黒一色。くのいちに見えなくもない。 「んぁれ、メイリン?」 「両手を万歳しながら皇帝陛下の御名を連呼する主君もまた尊いですね」 「ぎゃふっ」 何とっ!いや、確かに両手はあられもない感じで上に放り出しているけれど。急に恥ずかしくなって両手を掛布団の中にすっとしまう。 「あれ、俺どうなったの?」 「途中までは皇帝陛下の御名を心の中で連呼しておられましたが、途中から本音が主君の御口から漏れ出ておりましたよ」 「え、マジで?俺、何言ってたの?」 「皇帝陛下が思わずキュンキュンして主君を颯爽とお姫さま抱っこして裏に下がってしまうほどに誘惑しておられましたね」 「いや、俺に誘惑とか無理だから」 「―――今後は皇帝陛下と二人っきりの時以外はお酒禁止。皇帝陛下の勅命だそうです」 え、何勅命って。仰々しくない? 「主君はお酒に聖魔法をたらふくかけて飲まれたそうです」 「そんな記憶ないけども。う~ん、やっぱりあれは炭酸ジュースじゃなかったのか?」 「全く主君は。それだから勅命が出るのですよ」 「え?」 「まぁ、面白そうにへらへら笑ってたルークもルークですけど」 「え?何それどゆこと?」 「でも、我々としても酔われて妖艶さを振りまき皇帝陛下を誘惑しにかかる主君もまた尊っ、げほぁっ」 「いや、ちょっと何言ってるかわかんないけど。落ち着け、メイリン」 「それはそうと、今夜はフリフリネグリジェを用意しましたので」 「え、何それ」 がばっと掛布団をめくれば。何このピンクのフリフリネグリジェっ!!胸元にはでっかいリボンまで付いているし! 「ルークがしでかしたお詫びにとこちらを寝巻に進言したところ、皇帝陛下から是非にとのお言葉を頂戴いたしました」 あ、あ、アイルたああぁぁぁんっっ!!! 「そう言えばアイルたんは?」 「さすがに主役なので宰相閣下に射殺すような目を向けられ渋々パーティー会場に戻られました。主君は慣れない帝国での初の公式行事よる体調不良と言うことで、挨拶が落ち着いたところで皇帝陛下が下がらせたことになっております」 あ、アイルたんったら。これくらいならまだまだ平気なのに。いや、現在ベッドインしているところから考えると平気じゃなかったのか。 「次は最後までいられるように頑張らないと」 「えぇ、あのブラコンラートめの胃が痛くなるほどには皇帝陛下は不機嫌ですね」 おっしゃ、ブラコンラートめ。恐れ入ったか!! 「あと、主君が婚約破棄茶番をされたラピス妃殿下と弟君の王太子殿下からお見舞いの品も受け取っていますので」 「ぐはっ」 古傷を抉るなぁっ!! 「あの、それで?他のみんなは」 「しれっと見なかったことにしてみなさま宮に帰ってこられましたよ」 マジか。みんなタフだな。 「主君が今夜の賄いにと魔動冷蔵庫の中に用意されていたシシカバブ、焼き鳥、ブロッコリーの詰め合わせを魔法でチンしてみなさんで召し上がられたそうです。その後はみなさまそれぞれの部屋にお入りになられております。何かあれば駆けつけるとのことですが」 まぁ、少なくともルークは呼べば0.1秒で来るわな。あんな怠惰な騎士だが真名を呼べばいやいやでも来るのである。 「ですが、取り敢えず今夜の当番はボクです」 「あぁ、そうか。何か報告ある?」 「後程、宴が終われば皇帝陛下が来られるそうです」 「あ、そっか。そう言えば夜食の件もあったっけ。アイルたんが戻ってきたら何か作ろう」 「え?レッツイチャラブはどうされるんですか?」  「あ、うん?」 アイルたんとイチャイチャできるのは嬉しいんだけど。 「メイリンも、アイルたんが来たら下がっていいからな?」 アイルたんがいれば百人力。いや千人力以上に安心安全だから。 「え、見たいー」 「お前、少しは警護目的とか言えよ。欲望駄々漏れだぞ涎垂れてるぞ」 ぢゅるっ 「あと、頼んでた調査も残ってなかったか」 「―――仕方がない。ちょっと行ってきます、主君。そろそろ戻られる頃かと思いますし」 そう、メイリンは言い残すとすっと姿を消す。そしてその瞬間。 「ティル」 ひああぁぁぁっっ!? あ、アイルたんがいつの間にか上に覆いかぶさってるんだけどどんな手品っ!?そう言う魔法かなにか!?まぁ、メイリンもそう言うの使えるけど!ルークも使えるけどあれは規格外だから! 「ん、やっと面倒な宴が終わった。やっと、ティルを楽しめる」 そう言ったアイルたんは、既にバスローブに身を包んでいる。そしてそのまま俺の身体に肌を重ね、そして柔らかい口づけを落としてきた。

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