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第36話 宰相からの業務連絡

例えここが異世界だとしても、変わらないものはある。―――それは。 「やはり、カレーは国民食!」 いや、帝国では国民食と言うほど浸透していないのだが。もはや後宮ではおなじみの後宮食になるのではないだろうか。定食も流行ったし。ぶっちゃけカレーも流行りそう! 「これ、本格的にスローガンにしてみない?」 「はい?何言ってるんですか?」 アイルたんとのお昼ご飯に早速手作りのカレーライスを食していたら、業務連絡と言ってやってきた宰相にめっちゃ呆れられた。 「けど、栄養満点だしお野菜やお肉も入ってるし作るのも簡単!」 但しカレー粉から作るので、簡単にするには固形ルーの開発が必要不可欠だ。因みに俺の提案を既にサザン諸島に打診しており、そのことをサザン諸島出身のナディア姫に話したら、早速彼女も研究に勤しむと言ってくれた。 現在彼女はサザン諸島の言語講師と、サザン諸島とグラディウス帝国のチームの固形ルー開発の橋渡しもしている。無論、彼女が会議に出席する時は、候補とは言え後宮に入っているので俺が皇帝陛下であるアイルたんに申請する許可を出して、アイルたんからも許可をもらうと言う処理が必要になる。そして固形ルーの開発については、カレーに宿る未知なる力の影響もあってか順調である。 「いい案だと思うんだが。帝国城の厨房や騎士舎、もちろん後宮でもカレーは流行っている!」 「あぁ、そう言えばそれも皇后陛下の策謀でしたね」 ひとを悪役みたいに言うんじゃないっ!!正確にはざまぁされ残念キャラが俺のポジションである!それが悪役っぽい昇格をしたのならば喜ぶべきか。いや、それはそれでどうなんだ。 「でも、我が帝国は広しといえ、王都周辺の主食は小麦なので」 「ナンやチャパティがあるじゃないか!」 「何ですか、それ」 「ナンは窯焼きのはずだけど、チャパティならきっとフライパンでもできるはず!魔法技術を応用すれば……。これもナディア姫に提案しておこう。小麦の加工と言えば雪国であるノルド王国も盛んだったな。あそこの国では体があったまるカレーは喜ばれるとリリィ姫も言っていてな、現在ノルド王国でもカレーを試験的に取り入れてみようと言う話になっている」 「皇后陛下は世界をカレーで征服でもする気なのですか?」 「それもいいかもしれないな。世界がカレーでひとつになるなんて、ステキじゃないか!ね、アイルたんっ!」 俺が目の前で俺の愛夫(あいさい)カレーを食べているアイルたんに目を向ければ。 「んなっ、皇帝陛下に振るのは卑怯でしょうがっ!」 なにおぅっ、宰相!俺はカレーのことで妥協するつもりはないからな! 「ヒューイ」 「はい、陛下」 アイルたんが静かに口元のカレーをナプキンで拭い、宰相を見上げる。 「お前ばかりティルと話し過ぎだ。ティルを独占することは許さん」 そこかぁーい。アイルたんったら!でもそんなところに嫉妬しちゃうアイルたんもまた尊し! 「―――あなたも何を仰ってるんですか」 「ティルを独占するのは、俺の権利だろう?」 「そこらへんはどうでもいいので、業務連絡に入っていいですか。入りますね」 強行突破―――っ!いや、そうじゃないと宰相なんてやってられないのかな。ウチの祖国の宰相も、強行突破することはある。主に寝不足でヤバいことになった父上の瞼を強引に開いて資料を読ませるとかな。 はっ!! 「まさか、宰相殿。アイルたんの瞼もっ!?」 ずるい~。俺だってアイルたんにたくさん触りたいのに~っ!あぁ、こういう時に宰相職って羨ましくなるなぁ~。 「いや、何を仰っているのですか、皇后陛下。あと、宰相職を誤解していらっしゃるようにも思えますが」 「え?何言ってんの?宰相殿はアイルたんの右腕でしょ?」 「えぇ。そうですが」 じー。 何故か宰相が疑いの目を向けてくるんだが。 「ヒューイ、ティルを見つめ過ぎだ。それは俺の権利だ」 「はいはい、陛下。では業務連絡は皇后陛下と一緒にやりますのでいいですね」 段々宰相も投げやりになってきてるー。あれ、ウチの祖国の宰相でも見たことがある。彼の3徹明けのテンションに似てる。しかし目元にクマはないし、彼は割とすぐ寝入るタイプらしい。羨ましい。ウチの祖国の宰相に話してみようかな。絶対羨ましがるから。 「今度、カレイド王国にて行われる王太子夫婦の婚姻披露パーティーについて。例年行っている定例訪問も兼ねて両陛下にご出席いただくことになります」 そう、遂にウチの弟のルイスとその妻であるラピスのお披露目パーティーの日程が決まったので、俺とアイルたんで赴くことになった。 ―――あと、毎年行っている国同士の訪問も兼ねる。帝国には宰相が、あと後宮にはクロードが残ってくれるから安心だ。 俺にはいつものようにルークが付いてくる。あと、今回はユーリも一緒に行くことになった。俺がツッコミ不能の状態になった場合、とても頼れる味方なのである。 「細かい説明はお渡しした資料をよく読んでください。あと、皇后陛下の場合は神聖国との絡みもありますから」 「あぁ、確かに。そう言えば今回は」 「皇后陛下に挨拶された後、個人的に接触しようとしたそうですが、皇后陛下が退席されたので。彼らの相手は皇帝陛下がされました」 挨拶は使者たちが普通にして行ったけれど、その後お時間があればとか言ってたなぁ。事前に文をもらっていたわけじゃないから、別に必ずしも受けなきゃいけないものじゃない。社交辞令の場合もあるし、アイルたんの反応次第だと思ってたけど。 神聖国が俺相手に社交辞令ってのもなかなかないけどな。あそこは割と本気で来るから。 「そうだったんだ。ありがとうね、アイルたん」 「いや、構わない」 「ですが、今度は皇后陛下の祖国での対面となりましょう。かの国の者には十二分にご注意なさいますよう」 「うん、わかってる」 「―――ティル」 俺が宰相の言葉に頷けば、アイルたんが俺の名前を静かに呼ぶ。 「俺はティルを奴らに渡すつもりはない」 アイルたんの腕が伸びてきて、俺の頬にそっとその指が触れる。 「何言ってんの。俺はアイルたんの嫁なんだから。ずっと一緒だって」 「ならば良い」 アイルたんがそっと微笑み、俺も微笑みを返す。そんなイチャイチャな雰囲気に宰相は溜息をつきつつも、午後の業務開始には遅れないようにとアイルたんに釘を刺し、後宮を後にしたのであった。 それにしても久々の祖国。里帰りかぁ。アイルたんと一緒に里帰りできるのは、何だか楽しみだなぁ。

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