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第39話 家族との晩餐会

「本気、なのですね。殿下。いえ、もう皇后陛下であらせられますね」 「あぁ、事前に知らせた通りだ」 ―――ここはカレイド王国城中央厨房である。王宮料理長を前に俺は決意を新たにしていた。 「食材、調味料、全て準備は揃っております」 「ご苦労、感謝する。あと差し入れだ」 俺は差し入れのジャムクッキーを料理長に差し出す。 「ありがたく、頂戴いたします」 「うむ」 俺はまるで戦場に赴くような気概で頷いた。いや、ある意味厨房とは戦場と言ってもいい。 ※あくまでも俺個人の見解である 「しかし、食材の下処理まで自ら行われるのですか?」 「あぁ、俺の愛する夫のために」 アイルたんがその身に抱える問題については国家機密のため明かすことはできないが。 「愛する夫のために、祖国の食材を使って俺の愛夫(あいさい)料理をご馳走したいのだ」 ついでに、滞在中のアイルたんの食事は全て俺持ちである。それはアイルたんが俺の愛夫(あいさい)料理が大好きであり、それしか食べたくないほどの愛夫(あいさい)家と言うことにしている。いや、それもまぁ事実なんだけども。 皇帝陛下としてのアイルたんは、他国でもほとんど料理を食べないことで有名なのだ。そのアイルたんが俺の手で作った料理ならば、カレイド王国の郷土料理も食べてくれると言うことで料理長も歓喜の涙を流していたらしい。 「それに、世話になった家族に手料理をふるまいたいんだ」 あと、もう一つの理由がこれ。その言葉に厨房のみなが涙する。本日の晩餐だけだが、俺はアイルたんと祖国の家族との晩餐にお手製のカレーをふるまいたいと言うことで、事前に手紙をしたためておいたのだ。 カレーの付け合わせについては、アイルたんのもののみ俺が担当し、他のみんなのものは料理人たちが手伝ってくれることになった。 福神漬けも俺のお手製のものをマジックバッグに入れてきた。 そうして晩餐のために俺は特製カレーを作った。ゼンの分は子ども用に甘くしてある。 ―――そして晩餐会がやってきた。 晩餐会の席には父上、義母上、そしてルイスとラピス夫婦、ゼン、そしてアイルたんが腰掛けている。 米も俺が研ぎ、魔動炊飯ジャーで炊いたものを使用。ここら辺も手を抜けないのである。そして自らよそったものを付けあわせや福神漬けと共に給仕たちが各席に運んでくれる。 そうして幕を開けた晩餐会である。 「まさかティルの手料理を食べられるとはな」 父上も大満足なようで。 「ふふ、懐かしいです」 カレー留学中に俺が作ったカレーをご馳走しまくったラピスは微笑みながら告げる。 「兄上の料理好きはその頃から始まったのかもね」 と、ルイス。 いや、そう言うわけでもないんだけど。そう言うことにしておこう。 正確には前世の記憶を思い出してご飯を作るようになったのである。あと、アイルたんが俺の作った料理しか食さないと言うのもある。根本的な原因は、俺がグラディウス帝国に料理人を連れて行き忘れたことだが……そこはまぁいい。 「ゼンはどうだ?甘口にしてみたけど」 「はい、おいしいです!ラティラ兄上!」 げほぁっ! ショタっ子萌えっ! 「む、ティル」 俺がショタっ子萌えをもよおした瞬間、アイルたんが不満げに俺の袖をちょんちょんと引っ張る。 「ご、ごめんってアイルたん。アイルたん萌えー」 「わかれば良い」 俺たちが顔を近づけながら囁き合っていれば。 「ふふ、ティルたちはラブラブで羨ましいなぁ」 「まぁ、私たちだって」 「す、スザナ!」 どうやら俺たちに触発された父上と義母上もまたイチャイチャしていた。 ※スザナ=義母上 「兄上と義姉上はならないのですか?」 『っ!?』 そしてまた、愛の天然キューピッド・ゼンのひと言でお披露目される新婚夫婦が頬を赤くする。 「ふたりはこれからだな」 「えぇ、カイルさま」 そう、父上夫婦が微笑ましく見守っていた。 ※カイル=父上 「ティルはこのような家庭で育ったのだな」 「えっと、うん。まぁ」 産みの母がいた頃はちょっと違ったわけだが。今では家族仲良しのようで何よりだ。まぁ、王族なので一般家庭とは違う部分も多いけれど。少なくとも現在は温かい家庭のような気がする。 しかし、何となくアイルたんは寂しそうだ。現在直系皇族がアイルたんと皇弟コンラートしか残っていないことも関連しているのだろう。 「今は、俺がいるでしょ?」 そう、アイルたんに微笑みかければ。 「うむ、そうだな」 アイルたんが安心したように微笑み、俺の太ももに手を添えたので、俺もその上に手を重ねて微笑んだ。

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